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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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白猫フェニス

 目を開けるとそこは知らない天井だった。後頭部が妙に痛く、手で軽く押さえがこぶはなかった。


「あ、あの、ご気分は大丈夫ですか?」


 声のする方を見ると、そこには天使がいた。純白の毛に覆われた猫耳を動かし、くりくりした瞳で俺を見つめている。

 白を基調としたコックコートとエプロンを着ており、白髪に白耳と全身真っ白少女だ。



「猫耳を触っても――」

「エーイージ~?」


 天使の後ろから現れたのは悪魔だった。黒い羽で威嚇するように釣り上げ、尖った尻尾が鞭のように床を叩いている。口は笑っているのに眼が笑っておらず、完全に怒りで染まっていた。


 普段なら俺は臆して逃げるのだが、今は違う。俺の中にある本能が、死んでもあの猫耳と尻尾を触れと吼えているんだ! 


「なら死になさいッ!」

「しまった! 声が漏れていたか!」


 ブオンっと鈍い風の音を鳴らして、天高く掲げられる拳。黒粒子が渦を巻き金属を擦り付けているような奇怪音をあげる。

 あれが振り下ろされたら、俺もベットも宿も無事では済まないだろう。



「待ってください!」


 両手を広げて俺を庇うのは純白天使。愛おしい尻尾をこちらに向けて、立ち塞がった。


「あの、触るだけにゃら・・・大丈夫ですから」


 メディの拳を凝視し、子羊のようにプルプルと震えて尾を丸めている。


「本当に触っていいの?」


 俺がそう聞くと口に手を当て恥じらい頷く。何この可愛い生き物。


「ダメよエージ! 触るなら私のにして!」

「メディには猫耳ないじゃん」



 膝から崩れて轟沈するメディは置いといて、俺は純白天使と向き合う。念のためにもう一度確認すると、こくこくと了承してくれた。



 ゴクリ。


 さわさわ

 ピクピク



 さすりさすり

 ふ、ふにゃ~



 なでなで

 ゴロゴロ




「辛抱堪らん!!」

「ふぇ!?」


 俺はギュッと天使を抱いた。頬を純白の髪と猫耳に擦り付けながら頭も撫でる。サラサラのふわふわで気持ちよく、ほんのりと花の香りもする。なんかもう犯罪行為な気もするけど、自重はしないし後悔もしない。

 腕の中でもぞもぞと動きうめき声をあげているが、ヘブン状態の俺は夢中だった。





「・・・調子に乗りました、ごめんなさい」


 俺は土下座をして謝る。白猫ちゃんは乱れた髪を手櫛で整えながら、餅のように頬を膨らませている。


「確かに触っても良いと言いましたが、あそこまで激しくされるのは予想外にゃ」

「とても気持ちよかったです」

「にゃんか卑猥に聞こえます」


 ふうっと一息を漏らして、白猫ちゃんは扉に向かった。


「昼食の支度があるので失礼しますね。エージさんは嫌いな物とかあるにゃ?」

「特にはないけど、昔から食べさせられた虫はいやだな」

「虫!?」


 白猫ちゃんは赤かった顔を青く変え、何か可哀想な人を見るかのような同情あるれる涙目で俺を見る。




 俺の病気が酷くなってきた時、母が漢方料理を用意してくれたのだが、その中に虫が使われていたのだ。

治すためだと無理して食べさせられたが半分も食べなかったな。


 蜂の幼虫とかイナゴにサナギ、コウロギにゴキブリを食用にする人がいるけど、あれ以来トラウマ気味で食指もわかない。



 そんな事を考えていると、白猫ちゃんが両手を強く握りしめて真正面に来る。


「スッッッゴク美味しいもの作るから、絶対の絶対に食べてにゃん!!」

「え? う、うん。ありがと・・・う?」


 急にどうしたのだろうか、必死な顔で俺を励ましてくれる。


「白猫ちゃん? あ、エージさんには自己紹介がまだでしたにゃ」


 慣れたようにくるっとターンを決めてエプロンを翻すと、にゃんっとあざとい招き猫のポーズをする。

普通に可愛いから文句は無い、むしろもう一回見たい。



「私は料理兼ウエイトレスのバステト族、フェニスです! 以後お見知りおきにゃ」



 にぱっと太陽のような笑顔が俺を包み込む。

 

「アンコール! アンコール!」

「眼がイヤらしいにゃ」








エージ「この宿はとても綺麗だね」

フェニス「ありがとうにゃん」

エージ「ところでバステト族ってみんな言葉に「にゃ」が付つくの?」

フェニス「半々にゃ。私はただのサービスですが」

エージ「まじで?」

フェニス「まじです」


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