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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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港町ペルケタート


 ペルケタートに降り立った俺たちを迎えたのは、警戒の視線だった。多くの猫目が息を止めているかのようにじっとこちらを注視している。

中には爪を出し、じりじりと戦闘態勢を取るものまでいた。子供は大人の後ろに隠れ守まれている。



 四面楚歌にも似た状況、ここまで警戒されるのは悲しいけど、仕方がないのだろう。



 しばらくして木目のある革鎧を纏った、二人の猫兵士が俺たちの前に立つ。背が高いため、俺は見上げる形になった。兵士は警戒しており、薙刀と思われる武器を手に持っている。


「この街になんのようかにゃ。即刻立ち去ることを推奨する」


 茶毛に黄眼のイケメン猫兵士が落ち着いた声で言う。もう一方の猫兵士は、赤毛に同じ黄眼の女性で、うんうんっと首を縦に振っていた。


「皆さん落ち着いてください」


 俺と猫兵士の間に割って入るのは、フェアリー姿のラン。光の粒子を舞いながら、空中でターンを決めて浮遊する。


「フェアリー族にゃ? ふむ、事情を話してもらえるかな」


 こくこくと赤毛猫も事情を求める。気のせいかもしれないが、ランが現れたことで殺気立っていた空気が和らいだ気がした。

 亜人は亜人を信用している。この言葉は本当のようだ。





 交番のような木造りの小さな屯所に案内された俺たちは、向き合うように椅子に座った。


「なるほど、お母様直属の任務ですか。疑うわけではないが、念のために確認させてくれ」


 そう言うとイケメン猫兵士は、一つの植木鉢を持ってきた。そこにはミニチュアサイズの樹があり、生き生きとした緑の葉をつけている。


 ランはその樹の前に立ち、手をかざす。


 すると風も吹いていないのに、葉が心地よい音を鳴らして揺れる。小さい樹のはずなのに、森の中で聞いているかのような気分だ。



「・・・にゃ、大丈夫。お母様も同意してる。すまなかったにゃ」

「いえ、それが仕事ですから問題ありません」


 頭を下げる猫兵士に、ランは首を横に降る。


「そちらの人間と魔族もすまなかったにゃ。僕はウルマ。こっちは妹の」

「スフレ・・・にゃ」


 名前だけ言うと、ウルマの影に隠れるように顔を隠した。苦笑しながらも、ウルマはスフレの頭を撫でる。


「人見知りがはげしいんだ、許してほしい。よければ君達の名前も教えてくれないかにゃ」

「俺はエージ。こっちがメディで、樹の前にいるフェアリーがランライトだ」



 ウルマは紙に名前を書いて、何かの印を押した。そのままスフレに渡すと、そのままスフレは屯所を後にした。


 俺が不思議に目で後を追っていると、ウルマが大丈夫と言った。


「エージ君も知っての通り、僕達亜人は人間と魔族を嫌っている節があるからね。特に人間を酷く憎んでいるにゃ」


 俺はなんだか申し訳ない気持ちになり、肩を狭くする。ランは俺の手に乗り、慰めるように寄る。


「ああ、すまない。エージ君を咎めているわけではないにゃ。さっきスフレに渡したのは、エージ君とメディちゃんはお母様の意思で訪れたことを伝えに行ったんだよ」

「つまり、最初のような雰囲気にはならないということか?」

「この街に限った事だけどにゃ。それでもいい顔をしない仲間もいる。どうかそこだけは大目に見て欲しい。必要なら僕がいくらでも謝罪をするにゃ」


 俺はその必要は全くない、むしろ早々に配慮してくれた事に感謝すると、ウルマは人間にするのが惜しい良い子だと、俺の頭を撫でてくれた。




 しばらくこの港町について説明を受けていると、スフレが戻ってきて一枚の地図を渡してくれた。


 この街でウルマが最も信頼している宿屋を紹介してくれたのだ。俺はお礼を言って、早速宿に向かうことにした。



 バステト族の港町というだけあって、すれ違ったのは皆んな猫耳が付いていた。何度も触りたい欲求を我慢しているのだが、俺の目は無意識に耳と尾を追っていた。




 宿にたどり着いた俺は生死を分ける葛藤に悩まされている。


「いらっしゃいませにゃ。スフレさんからお話は聞いています。すぐにお部屋までご案内しましか? それともご飯にしますか?」


 俺は生唾を飲み込み、震える両手を目前にいる愛くるしいものに伸ばしていた。


 そこにいるのは真っ白な髪と猫耳と尾を持つ少女。身長は俺より少し低い程度だから一五〇未満だろうか。人形のように整った顔立ちをしており、エメラルドのような瞳を輝かせ、柔らかそうな頬には猫髭が生えている。

 ふわふわの毛に覆われた耳と尾が、ひくひくと定期的に動いている。



 触りたい。



「に、にゃ~?」


 あざとくも見える可愛らしい動作で首を傾げる。

 すっげぇ可愛い。だめだもう我慢できない。



「耳と尻尾を触らせてください!」

「ぴっ!?」


 その言葉をいった瞬間に、白猫ちゃんは体を守るように自分を抱えて後ずさる。


「少しで良いので撫でさせて!」

「少しでもアウトに決まってるでしょッ!!」


 ガンッと後頭部に衝撃が走る。殴ったのはもちろんメディであり、真っ赤な顔に涙目で怒っていた。


「ねこ・・・み、み」


 糸の切れた人形のように俺はその場に倒れた。






メディ「うう、こんな獣の耳のどこがいいのよ」

ラン「あー、私はウルマさんと今後の旅路を相談してきますね~」

白猫「にゃ!? このお姉さん怖いから行かないで!」

メディ「私はあなたの耳が怖いわよ!!」

白猫「ふにゃーー!」


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