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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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大樹イグドラ

 世界樹イグドラは、この世界に亜人を生み出した一本の樹である。


 ずっとずっと昔。メディが生まれるより遥か昔。一つの種が流星のごとく天より舞い降りた。その種は瞬く間に巨大な樹となり、無数の根は一つの大陸を飲み込み込んだ。


 大陸が根に覆われた時、大樹はいくつかの果実を実らせた。そこから生まれたのが亜人。


 亜人達は母なる大樹の命を受け、この大地で暮らし発展をしていった。亜人同士でも小さな衝突はあったものの、度を過ぎれば大樹が静止したため戦争に発展することはなかった。大樹を中心にそこそこの平和が保たれたが、それは長くは続かなかった。





 亜人の身体は人間より遥かに強い。そこに目をつけた人間が現れた。人は亜人を誘拐し奴隷に変えて売買し始めた。当然、亜人は怒り武器を手に奴隷狩りへ攻め込んだ。


 しかし、人間に勝てるどころか返り討ちにされてしまった。敗因は、その人間が使う呪具。


 亜人は何度も立ち向かい仲間を取り戻そうとした。だが勝てなかった。勝てないだけでなく、立ち向かった亜人も奴隷として連れ去られてしまった。



 とある亜人が一つの策に出た。目には目を、呪具には呪具を。亜人は自らも呪いに蝕れながら戦った。仲間のためなら命は惜しくなかった。


 結果として勝利した。亜人達は喜びその者を称えた。


 しかし、悲劇は終わらなかった。呪具を使った亜人が変貌したのだ。突然暴れ出し仲間を喰らった。守ったはずの仲間を次々と喰らった。

 喰らっても喰らっても腹は満たされず、終いには母なる大樹に喰らい付いた。



 大樹は嘆き苦しみ、自らの子を泣きながらその手で殺した。



 母は泣き続けた。涙は枯れることなくずっと流れ続けた。そして他の者を近づかせないかのように、涙は山を削り大地を裂け崩し、自らを囲むように湖を作った。



 全ての亜人は母を慰めるために呪具を封印した。二度と悲劇を繰り返さないために、禁忌としてその封印場所も語り継ぐことを禁止にした。







 チャプチャプと波が船を静かに揺らす。日はちょうど水平線を昇り始めている。俺はメディの膝枕を堪能したまま、胸元のランを見つめる。


「呪具は私が生まれる前から、触れてはならない物と言われています。お母様自身も、呪具についてはあまり話したがりません」


 ランは俯き、途切れながらも最後まで語ってくれた。俺はランの頭を撫でると、辛そうだが微笑みを返してくれた。


「ラン、話してくれてありがとう。この呪具が本当に危険なものだと改めて実感したよ」


 ランは俺の胸辺りに顔を埋めて丸まる。俺は卵を抱えるようにそっと手を乗せる。


「ごめんメディ、もう少しだけ膝を借りるね」

「謝るなエージ、私がしたくてしているだけよ。別に誰のためでもないわ」

「ん、ありがとう」



 日が完全に昇りきった頃、ランも落ち着いたため、航海を続けた。今日は波も静かでモンスターに遭遇することもなかった。のんびり釣りを楽しめる程に穏やかだった。



「明日の朝、イグドラ大陸の東北側にある港町に上陸するわよ」

「東北本面ってことは、ペルケタートかしらね」



 港町にペルケタートは、海沿いにあった小さな村が発展した街だ。魚はもちろん、海藻や魚肉の練り物が有名な街だそうだ。鍋に入れるだけで、程よい塩味が効いて絶品だとか。


 また、この街にはバステト族が多くいるとのこと。

 バステト族は猫人のことを指す。猫耳に猫の尻尾を持つ亜人だ。基本は人そっくりだが、個体によっては猫のような肉球のある手をしていたり、全身に猫毛があったりするらしい。



「猫耳か~」


 うっかりそんな事を呟くと、メディが慌てて拘束するように腕を掴んできた。


「まさかエージは猫耳好きなのか!? ニャンニャンうるさい語尾をつけるのが愛おしいのか!?」

「ちょっ! 危ないメディ、船から落ちる!」


 構わずグイグイと揺らすメディ。俺の脳は鞠のように跳ねている。きっとランの瞳には俺の残像がいくつも見えていることだろう。


「やっぱり悪魔のような羽と尾より、もふもふ毛の方が好きなんでしょう! そうなんでしょう!?」


 メディの訴えを五秒も聞かずに、俺は膝から崩れ落ちた。



ラン「ここにおあつらえ向きの猫耳カチューシャと尻尾があります」

メディ「それを付ければエージは私一筋なのね!?」

ラン「どうぞ」

メディ「・・・ん? この尻尾はどう付けるのかしら?」

ラン「もちろん穴にですわ」

メディ「エージは耳だけでも喜んでくれるわ。うん、耳だけでいいわ」



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