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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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旅の目的


 ランスリー魔王城にある庭園の一角に、この大陸にある様々な花を育てている園がある。もちろん魔晶で出来た植物であり、俺から見ればガラス細工でできた植物庭園である。


 メディいわく、ここにある植物達は魔王の強大な魔力を吸って成長しているため、そこらに生えている草とは比べ物にならないほど純粋で色の濃いものばかりだそうだ。


 その幻想的な植物に囲まれ、白いテーブルでティータイムを楽しんでいる俺とメディ。


 メディは椅子を寄せて体を密着させ、俺の肩に頭を持たれ掛けながら器用にハーブティーを飲んでいる。

昨日はよほど疲れたのか、早朝からこんな調子でくっ付いている。こんなことで疲れが取れるのかは疑問だが、メディが望むのならいつでも歓迎である。


 急にメディの里帰りをした理由も昨日のうちに聞かされた。

 例の呪具に関する情報収集と報告。それと戦争について各魔王との会談。魔王は一人だと思っていたため少し驚くと、色々と落ち着いたら紹介してくれると何故か嫌そうな顔で約束してくれた。


 結局、呪具に関しては情報不足であり扱いに関しては保留。ただし、蛇神はエージに呪具を託したということで、エージが持っていた方が色々と心配が少ないと会議で決定らしい。

 なので、今はメディから渡された魔法バックに指輪が入れてある。


 絶対に使うなよっと念を何度も押されて、実際に渡されるまで小一時間は説明と注意と心配をされた。



 そして本題はこれからだ。メディは魔王として呪具の調査をしないといけないらしい。これも会議で決定した事であり、絶対だ。

 だが、そのメディは乗る気ではなく、無視してエージと旅を続けようとも考えていた。


 そこで、どうせ調査で彼方此方世界を回るのだから、エージを連れて行けばいいじゃない、っと一人の魔王が提案したそうだ。

 メディもそれは考えた。だがしかし、危険度が今までとは別格になってしまう。



 まず向かうのは亜人の大陸。以前も言った通り、人間や魔族を嫌う者が多く事故に巻き込まれやすい。最悪戦闘も避けられない。


 さらに、蛇神の指輪の出処は未開のダンジョンだったらしく、呪具を調べる探すとなると、各地のダンジョンへ潜る必要もある。ダンジョンには濁った魔素の溜まり場であり、凶暴兇悪なモンスターの巣である。


 どんな手練れの旅人も、殆どがダンジョン半ばで息絶えていることから、かなり危険な所だと伺える。


「そこで悩みに悩んだ私が導き出した、二つの選択肢をエージに選んでほしい」

「目の下に隠したクマは悩んだせい?」

「・・・エリーに化粧で隠してもらったのに何故ばれた」

「普段しない化粧だったから何となく」

「心配するな。これは昨日の魔力を使い過ぎた反動だ」




 カチャリと受け皿にカップを置くと、メディは指を二本立てる。


 一つはメディと別れて、シエルと安全な旅を続ける。俺に必要な魔力循環は、昨日の散歩で、シエルでも代行可能と判明している。

 二つ目はメディと共に危険な旅を続ける。魔王のメディ自身が危険になる事は少ないが、護衛に慣れていないため、エージの危険度が半端無い。




 俺はカップを置いてメディと向き合う。答えは決まっているのだが、メディは隠しきれない不安な表情を返してくる。そんな顔は見たくない。



「メディと離れたくない」



 その言葉にこれでもかと眉を高く上げて嬉々と驚き見せるが、すぐに、はっと冷静になっる。


「よく考えるのよエージ。貴方の目的は、前の世界で成すことが出来なかった沢山の景色を見て回ること。シエルは私達の中で、若くて実戦経験が少ないけど、その実力は本物で、魔法に関しては他の魔人を上回るわ」



 俺は震えた手でメディを抱く。情けないことに拒まれるのが怖くて震えている。こういう経験なかったんだから許してくれよ。

 ギュッと力一杯に抱き寄せているつもりだが、明らかにメディが合わせて寄ってきてくれたのもわかった。



「これは俺の我儘。足手まといなのも承知の上で言っている」

「うん」

「確かに俺は景色を見たい。沢山の景色。多くの人が見慣れたものでも、何の変哲も無い街並みでも、何処にも感動なんてないものでも、観て見たい」

「・・・ぅん」



「どの場所どの景色にも、隣にはメディが居てほしい。楽しいかもしれないつまらないかもしれない、それでも一緒に見てほしい。ダメかな?」



 抱いているメディの体温が暖かい。触れ合う身体から、生き生きとした鼓動も感じる。一方の俺は身体が熱い。鼓動も早く、息も少しだけ苦しい。こんなに緊張したのは生まれて初めてだ。



 どれくらいこうしていただろうか。俺には一時間はゆうに経っているように感じる。まだメディから返事はない。やはり、足手まといなのかな。





 まだ返事がない。本当に一時間経ったかのように感じる。気づけば、俺の緊張も落ち着いている。一方のメディは俺に抱かれるまま、胸を定期的にゆっくりと動かして呼吸を繰り返している。




「・・・メディさん?」

「はっ!」


 ビクッと驚き体を起こすメディ。その口元には魔晶のように輝く雫。



「俺の話なんて興味なかった? よだれ垂らして寝るほど興味なかった?」


 俺のジト目に慌てふためくメディ。玩具のように口を開閉をして、千手観音に見えるほど素早く腕を動かし何かをジェスチャーしている。


「ち、違う! 興味がある無い以前にエージらしくもなく積極的に抱き寄せるから、これはチャンスとエージの体に顔を埋めたら、思った以上に暖かくて気持ちよくて。何だかエージの匂いって妙に安心感があって懐かしいような嬉しいような気持ちが溢れて。気づいたら目を瞑って堪能している状態で。頭ごなしに囁かれるエージの声が子守歌のように私を誘って、それでそれで!・・・その、怒ってるか?」


 怒っているかどうかと聞かれても困る。まぁ、俺としては真剣に言ったのに、子守歌に聞こえて寝てしまったと言われたのだから落胆ものだ。

 だけど、聞きたくなく嫌だから寝たわけでもなく、逆に安心して寝てしまうほど心地よかったと言われたら、そこまで悪い気はしない。


「半分ショックで半分嬉しい」

「ずいぶん曖昧だけど、それは挽回可能と捉えていいのよね?」



 俺はもう一度メディを抱く。今度は震えていない。まだ恥ずかしいような気持ちはあるが、落ち着いている。



「メディと一緒に居させてくれるなら、許してあげる」

「でも! ・・・ん、わかった」

「ありがとう」




エージ「このハーブティおいしいね」

メディ「ククク、そうだろそうだろ! 私自慢のハーブを使っているからな」

エージ「へぇ、どんなハーブなの?」

メディ「私の魔王魔力100%で育て上げた魔晶のハーブだ!」

エージ「つまり、これはメディの味なんだね。とっても美味しい」

メディ「・・・なんだか恥ずかしいわ」





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