魔人と勇者
「ディバイン・ブレードッ!!」
眩い光を纏った刃が空を切り大地をも切る。その斬撃による衝撃波も、鎌鼬の如く鋭く刃の周囲を無慈悲に斬りつける。
その斬撃を繰り広げるのは、金髪蒼眼のイケメン青年。致命傷箇所のみを防具する、動きやすい軽装備を装備し、それを生かして素早い斬撃を放つ。
そして、その刃を紙一重で避わすのは、青年の金髪よりも神々しく煌めく金の鱗と瞳を持つ龍人。完全に避けたと思っていたようだが、緑腰布の端がスッパリと切られていた。
青年は刃の光を払うかのように素振りをする。光が収まると、青年の持つ武器が露わになる。
それはエイジの世界にある武器、刀であった。周りの光を鏡のように反射し、波のように波打った模様がその反射に微かな色を乗せる。柄には黒い包帯のようなものが巻かれ、柄端にはその布が爛れている。
「ほぉ。この俺に一撃を与えるとは、今回の異世界兵士は見所がありそうだな。その武器も見慣れない物だな」
「俺は兵士じゃない、光の勇者だ! この世界で苦しむ人達のためにも、俺はお前を・・・撃つ!!」
腰を大きく落として踏み込む勇者。跳ぶ瞬間に、先ほどの刀のように光を身体に纏うと、消えたと錯覚するほど速く跳んでいく。高速まではいかずとも、音速には届いているかもしれない。
「素晴らしい速さだ。これならもう少し本気を出せそうだな」
グルルと喉を鳴らす龍人。手に持つ槍を器用に回し掴むと、勇者と正面から衝突するように槍を構えて走り出す。
ガキィンッ! っと刃と刃が交わう生温い音とは程遠い、車と車が全速で衝突するような轟音が響く。
一撃一撃が衝突する度に空気と大地が震え、軌跡と残響だけがその場に残されている。
時には光が線を描き、時には炎が燃え上がり、時には氷山の一角がその場に現れ、時には竜巻と同時に大地を削り斬る。
攻防が続けられている訳ではなく、どちらも攻を続けている。防ぎはしない、攻撃をより強い攻撃で押し返しているのだ。
休むことなく撃ち合うなか、先に距離をとったのは勇者だった。
「はぁ、はぁ。くそ、魔人め。はぁ、無駄に体力が多いな」
「ふん、勘違いするな。魔人全員が同じではない。俺もお前同様に厳しい鍛錬を重ねているだけだ」
「ハッ! まさか魔人に鍛錬という言葉があるなんてな。魔族と魔人の違いを今初めて感じたよ」
不敵に笑う龍人と勇者。息を整え構える。
「魔人、名はあるのか?」
「俺の名はドラゴ。お前の名はなんという」
勇者は構えを居合いに変え、深呼吸をする。
「十三代目勇者、コンゴウ・イクサバ。いざ参る」
二人は構えたまま動かない。しかし、互いの思念では激しい攻撃の手が繰り広げられていた。切っては切られ、勝っては負け。この一撃で勝敗が決することを理解していた。
勝つための一撃を探し続ける。発熱する脳を冷やそうと吹き荒れる風が、ゆっくりと静まっていく。スッと時が固まるように風が止んだ。
「イセリアル・バーストッ!!」
「ドラグーン・チャリオットォ!!」
地平線をなぞるように何処までも続く光。薄く鋭く一線を描くその光は、相手を飲み込もうと光を強めていく。
それに争うのは数多の龍の魔力体。八岐大蛇を想像するような首の長い龍群。しかし、その数は比ではない。視界一面が顔群に埋まり、その全てが進軍する戦車の如く攻め押してくる。
ガッ!!
短く鈍い音が二人の間から轟く。音が過ぎると、空気の層が大地を揺るがし後を追いかけた。
隕石が落下したかのような爆発音を鳴らしながら暴走する。剣撃により、その場の空気が押し出されたのだ。
音が止むと、二人の足場を残して大きなクレーターが出来上がっていた。
「グルル、まさかここまでとは恐れ入った。この一撃に耐えるだけでなく、五体満足なのだからな」
「勘弁してほしいぜ。この力で魔人だと? はは、魔王級の力なんて想像したくもないな」
引き分けに見えるこの勝負だが、二人の顔ははっきりと違いが出ていた。
互いに武器を収めると、コンゴウの刀は砕け散った。一方のドラゴの槍は刃こぼれ一つない。
「また相見えよう。それまで死ぬなよコンゴウ」
「俺は死なないさ。お前達が人を苦しめる以上、俺は何度でも戦に顔を出す。そして・・・」
コンゴウは一つの魔具を取り出し発動する。何もない空間から光の揺らぎが生じ、青白い靄がそこから漏れている。
それは空間魔法の転送である。その光を潜ることにより、予め登録してある地点へ移動できる。
コンゴウがその光に入るのを見届けるドラゴ。その瞳には次会う時まで強くなれと訴えているように燃えている。
それに答えるようにコンゴウは睨み返して、セリフの続きを置いていく。
「お前達が十二代目勇者、エイジを拐かしている限り、俺は絶対に諦めない」
コンゴウside
光を抜けると、数名のメイドが迎えてくれた。その手には魔法薬から着替えの服、それに予備の武器などが用意されていた。
ここのメイド長はなかなかに優秀であり、こちらの必要としているものを瞬時に理解し、部下に指示を出している。
その素早い対応に始めは驚いていたが、今では見慣れている。
「すまないが、新しい刀が欲しい。腕に自信のある鍛冶屋を紹介してくれ」
「畏まりました勇者様。本日はお疲れのご様子なので、馬車の用意は明日になさいますか?」
俺が頷くと、メイドの一人が一礼をしてこの場を去っていった。
俺はボロボロの服を脱ぎ捨てて新しい服を着用する。予備の武器も受け取り、数回素振りをしてから腰に収める。
「王とリアン王女に報告をしたい。謁見は可能か?」
「すでに謁見の間にて、お待ちしております」
俺は仕度が終えると、そのまま王の元へ足を向かわせる。遠めで俺の姿を確認したのか、扉前に立つ兵士が敬礼するとゆっくりと扉を開けてくれた。その先に待つのは当然、エリアガーデン国王とリアン王女である。
俺は魔人との戦闘結果と、今後の活動予定を報告をする。今回は偶然にも、一匹の魔人と遭遇した。運が悪いのか良いのかは判断に難しいが、実力差を把握できたのは大きい。
詳しい場所と戦闘被害など必要なことのみ報告し、早々に立ち去った。途中でリアン王女が何かを言おうと口を開くが、結局何も言わずに終わった。ただし、俺には何を言いたかったのか理解できていたため、問題はない。
十二代目勇者、エイジ。召喚された直後に魔王に襲われ、寝込んでいたところに誘惑された。
勇者が居なくなった直後に、王もすぐに兵士を向かわせたが発見できず。リアン王女は酷くショックを受けたようで嘆き泣き続けていた。
現在も魔王の手中にあり、エイジの安否は不明。だが、最近になって大商業都市カーリライトにて、エイジと思われる目撃証言が相次いで見つかった。
魔王から逃げ出すことに成功したのか、人違いかはわからないが、希望を持つことのできたリアン王女は、喜びを見せた。
あの笑顔は素直に可愛いと思った。そして、いつまでも笑顔でいてほしいとも願った。そのためにも俺は立ち上がる。エイジを取り返して魔王を倒すために。
「待っていろエイジ。俺は必ずお前を助け出してやる」
シエル「あんれ~、ドラゴ楽しそうだねー?」
ドラゴ「思わぬ余興があってな。そういうお前も楽しそうだな」
シエル「思わぬ弟が出来ましてな~」
ドラゴ「そうか、それは鍛え甲斐がありそうだ」
シエル「手を離した瞬間にー、発熱して咳き込むよ~?」
ドラゴ「・・・」