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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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青白い罠

「ゴホッ! あばよゔメディ~」


 思い出したかのように風邪を引きましたエージです。王城にある客室のベットの上で咳き込む俺。昨日の表彰の後に疲れているだろうと、サハ姫が部屋を用意してくれたのでお言葉に甘えました。ベットに倒れるようにすぐ寝てしまい、一夜明けたらこの通り。

 緊張が解けた影響か、無理をしすぎたのが祟ったのかはわからないけど。


「まったく、少し油断したらこれか。ほら手を貸しなさい」


 お互い椅子に腰掛けて、向き合う形で左右の手を握りながら魔力循環をする。俺の一日は毎日この魔力循環から始まって、寝る前の魔力循環で終わる。


「メディがいなかったら、死んでたかもなぁ・・・ケホっ」

「いるんだから悲観な考えは捨てなさい。今日は魔力の乱れが激しいわね。やっぱり疲れが溜まってるのかしら」


 あの襲撃から色々な事がありすぎたのは否定できないよな。成り行きとはいえ、国を救った? みたいだし。


 しばらく心地よいメディの魔力に酔っていると、扉からノックが鳴って扉が開けられた。


「エージ様、朝食の準備が出来ましたので、ご一緒に・・・」


 そこにいたのはサハ姫である。本来ならメイドが呼ぶのだが、昨日の今日では怪我の回復も間に合わず人手も足りないと、サハ姫自身が役目をかって出たそうだ。


 そして、魔力循環中の俺とメディを見るや否や、笑顔が引きつる。知らずの内にお互い顔が目の前にある程まで近づいていた。慌てて顔を離すが、手は離せない。


「サ、サハ姫。これは魔力循環といって、俺の病気を抑えるためにやっている事でして、決してやましい事をしているわけでは」

「ふ、ふふ。そうよね、まだ二人とも成人ではないご様子ですし、はやいですわよね」

「私はとっくに成人しているぞ?」

「・・・そうでしたわね。貴女は魔族でしたね」


 まじまじとメディを見るサハ姫。確かにメディの容姿は子供だし顔も幼く見えるし、何よりも人と区別がつかないから勘違いするだろう。

 しかしメディは魔王であり、初代勇者の時代から君臨しているのだ。前に一度だけメディの年齢を聞いたことがあるが、答えないとダメか? と涙目で言われた。それ以降二度と聞くことはなかった。


「すまんが、朝食はもう少し待ってくれ。あと少しで終わる」


 メディは目を閉じて集中をする。その様子を興味深そうに覗くサハ姫。


「もし、失礼でなければ見ていてもよろしいかしら?」

「・・・邪魔をしなければ構わないわよ」


 サハ姫はニコリと笑い、近くの椅子に腰を下ろした。見ていて何が面白いのかはわからないが、サハ姫は目をそらすことなくじっと観察をしている。



 五分程だろうか。メディは、ふうっと一息つくと俺の手を離した。魔力循環は身体的な疲労はほぼ無いが、かなり集中するため精神的に疲れるそうだ。

 それでもメディは話しながらする事も出来るそうで、かなりの魔力操作に長けていると思う。


「不思議ですわね。私にはただ手を繋いで、何かを祈っている様にしか見えませんでした」

「見ただけだとそう感じるよね。でも実際にやってもらうと、身体中の重りが無くなっていくように楽になるんだよ」

「あの、メディさん私にも――」

「やだ」


 ・・・。






「ありがとうございます。部屋を貸して頂いた上に朝食までご馳走になってしまって」

「ははは! 堅いことを言うな。どれも私からお願いしたようなものなのだからな」


 豪快に笑うのはカーリライト国王。朝食の並んだテーブルを囲むように、俺とメディとサハ姫、そして国王が座っている。


 朝食は何種類もあるパンにジャムが添えられ、色の新鮮な野菜にベーコンのようなものと目玉焼きが重ねられている。飲み物はミルクと果汁ジュースが用意され、完全に朝食メニューである。


 そして、朝食が置かれているテーブルは、よくある豪華で大きなテーブルではなく、一般家庭にあるのより少し大きい程度のものだ。国王の服装もラフな格好であり、悪いけど国王に見えない簡素さだ。一方のサハ姫も、少しお洒落をした程度であり国王と大差ない。これまた姫には見えない。


 二人の服装をじっと見ていると、国王がまた笑い出す。


「王族とは思えない服装だと思ったろう?」

「えっと・・・はい。申し訳ありません」

「ははは! 構わん。そのようにしているのだからな。普段通りなら、この格好で商業区を視察している頃だ」

「その格好でですか?」

「うむ、この都市は商業を楽しむための都市である。王が踏ん反り返るための国ではないのだ。そういう意味では王城など無くしても良いが、いかんせん悪とは絶えない。誰かが商売を守らないとならない。円滑に商いさるため、警護と監修をするのが私達だ。王という立場はいわゆる飾りだな、ははは!」


 民衆を守り正しく導く王か、きっとこの国はこれからも平和であるだろうし、そう続くと願いたい。


「つい最近、その役目を果たせなかったようだがな」


 メディはぶっきらぼうにそんな事を言うと、国王も眉を八の字にして苦笑いをする。


「情けないがその通りだ。様々な襲撃を想定して訓練をしていたが、呪法に関しては完全にこちらの知識不足だった。言い訳でしかないが事実だ」

「仕方がないわよ。呪法は一部の魔族しか使えない上に、呪具なんて出回ることなんてほぼ無いわ。それなのに解呪魔法薬があれだけ集まった事は、素直に感心したわよ」

「解呪魔法薬ってのはそんなに出回らないの?」


 ゲームとかじゃかなり必需品な方だと思うけど。


「毒や麻痺、火傷や凍傷・氷結とかの魔法による状態回復薬はよく出回るし売れるわ。でも解呪は売れないし使う機会が少ないから、入荷しない所もあるのよ」

「この国に解呪魔法薬が豊富だったのは、魔族との戦場へ送ることが多いからだな。最近は一時停戦しているため、補給が最低限しか必要とされていなかったことが幸いした」


 一時停戦していたのか。もしかして俺が勇者を無理やりやめたのが原因なのかな。あとメディって魔王なんだよな。戦況とか確認とかしなくていいのかな?


「ん、そういえばもう一人の連れはどうした? 確かランライトと名乗っていたが」


 国王は一つだけ空席を確認してから、キョロキョロと周りを見渡す。


「ランは今朝早く買い出しに行ってしまったわ。次はイグドラ大陸よ! って一人張り切っているみたいだし」

「ほう、亜人の国へ行くのか。珍しいな」


 国王は感心したようにうなり、サハ姫も驚いていて食事の手を止めた。え? なにその反応。亜人の国って普通は行かない大陸なの?

 俺が不安そうにメディを見ると、頬に手を当てて困ったような仕草をする。


「エージには言っていなかったのだが、亜人の国は閉鎖的な所なのよ」


 閉鎖的ってことは、他国との交流も介入も拒否しているってことか? そんな国に俺が行っても追い返されるんじゃないかな。


「そうだな。私も何度か会談を持ちかけたのだが、全て断られたよ。他国も似たようなものらしい。まぁ、亜人に知り合いでもいて、ツテがあるなら話は別だろう。亜人同士はかなり気を許すからな」


 つまりランライトと一緒にいる分には平和的でいられるってことか。少し安心した。亜人の国に足を踏み込んだ瞬間に武装集団に囲まれて、牢屋にぶち込まれるとか嫌だしな。まぁ、いきなり牢屋はないよな。うん、フラグじゃないよな?






 その後、雑談を織り交ぜながら朝食を終えた俺とメディが客室に戻ると、大量の荷物に囲まれたランライトが座っていた。


「あらお帰りなさい。少し散らかっていますが、すぐに片付けますわ」

「いや、これのどこが少しなんだ? 足場がないじゃないか。というか、この荷物どうするんだよ。こんなに持ち運べないぞ」


 ランライトは手元にあるショルダーポーチに、明らかに入らないであろう荷物を押し込んでいく。


「ご安心くださいエージ様。私は結界魔法に加えて、空間魔法も心得があります。なのでご覧の通り、ポーチの空間を捻じ広げてしまえば・・・はい、あっという間に片付け終わりです!」

「すごい、全部納まっちゃったよ。重さとかは大丈夫なの?」

「問題ありません。このポーチの口はいわゆる異次元の入り口みたいなものです。なので、荷物が直接この中に入っているわけではないのですよ」


 その異次元と言うのもランライトが作り出した空間であり、他人が出し入れしたりする事は出来ないそうだ。

 また、異次元は時間の流れも違い、数年単位で放って置かない限り食べ物が腐ったり物が風化する事もないそうだ。


「便利だな。俺もこんな魔法が使えたら役に立てたのかな」

「必要ないし、そもそも寝袋や野営テントを入れてあるリュックが、その魔法のバックだぞ」

「そうだったの!? てっきりメディが収納上手なんだと思ってたよ」


 言われてみれば、野営テントとかの他にも料理道具や調味料、着替えや食料に道中で採取した薬草とか色々と詰めていたな。


「だがラン、そんなに大量の荷物は何に使うのかしら? 明らかに必要なさそうな物まであったわよ」

「一言で言えばお土産です。少し言葉を変えるなら賄賂です」

「賄賂ね。イグドラを巡るのも大変そうね」


 はぁ、っとため息をつくランライト。困りながらも懐かしそうに笑う。


「基本的にみんな良い人達なんですが、今だに人間や魔族を許せない人が多いんですよ。仕方がないといえばそうなんですが、そろそろ心を開いてほしいって言うのが私の本音ですね」

「許せないって?」

「大昔の戦争の事よ。亜人は戦闘に特化した種族が多くいたから、奴隷狩りにあっていたのよ。大人から子供も構わず連れ去られていたそうよ」


 戦闘に特化しているのは主に獣人系の種族だそうだ。人間より遥かに勝る筋力と体力。それと野生の勘のような第六感が優れており、戦場では脅威的な存在だったとか。

 他にも手先が器用であり鉱石の加工が得意な者や、重たい荷台を引く者、衣服の修繕や兵士の治療など、出来ることは何でもやらせたらしい。

 また、奴隷になると特殊な魔法をタトゥーのように身体に刻まれ、逆らうと問答無用に苦しめられたそうだ。


「それに女性は兵士の娯楽へと連れ去られていたとも聞くわ。ほら、以前にランが言っていたけど、亜人は子供を産めないからね。いくら使っても大丈夫とか、正気とは思えない本当にふざけた行為をされたみたいよ」


 その話に俺は幻滅を感じると同時に、亜人が閉鎖的になったのも当然だと理解した。そして、益々イグドラ大陸へ向かうのが不安になってきた。


「エージ様、その戦争は何世代も前の出来事です。もちろん忘れてはいけない事ですが、今は少しづつ歩み寄っています。ですからどうか、先入観だけで亜人を見ないでいただけるとうれしいのです」


 ランライトは居住まいを正して頭を下げる。下げた瞬間に、ランライトの目元で光る水も見えた。俺はランライトの体を起こして、目線を合わせる。


「俺も歩み寄れるように頑張る。だけど、俺はこの世界について知らないことが多いから、その都度ランライトに手助けをしてほしい。だからこれからもよろしくお願いしたい」

「・・・エージ様は私達に歩み寄って頂けるのですね?」

「俺が出来ることなら頑張るよ」


 俯くランライト。肩を震わせながら、涙を拭う。


「つまり、エージ様は亜人である私にも歩み寄ってくれるのね?」

「えーと、そう・・・なるのかな?」

「そして、エージ様が出来ることなら努力も惜しまないと」

「・・・う、ぅん」

「ありがとう・・・ありがとうございます」


 さっきより大きく肩を、というか体を全身を痙攣させるように揺らしながら、まるで笑いをこらえているように、ランライトはお腹を抑えてその場に丸まった。


「ふっ・・・うふふ」

「ラ、ランライト?」


 何が起こったのかとメディを見ると、頭を抱えて渋い顔をしている。


「あはははっ! やりましたわお母様! エージ様は私達イグドラ大陸へ、それもお母様との謁見も受け入れて頂けました! 私自身も無事にエージ様に貰って頂けましたし、これは大成功といって過言ではありません!」

「まて待てマテ待って何の話だ! 俺はそんなこと言ってないぞ!?」


 一人社交ダンスのようにくるくると回り、青白い髪を振りながら笑い狂うランライト。俺が状況を読めずにランライトを訴えると、俺の両手を掴み一緒に回りだす。


「エージ様は答えました、亜人へと歩み寄ると。それはイグドラ大陸へ足を運ぶということ! さらにエージ様は努力を惜しまないと口にしました、それはそれはイグドラ大陸の中心部にある、私達のお母様の元までの険しい道のりを乗り切ると言うこと! さらにさらにエージ様は私にも歩み寄るとハッキリと言いました! それの意味するのは私と共に生涯を歩むということデスッ!!」


 ハイテンションが止まらないランライトは、俺を腰から持ち上げて幼い子供の機嫌をとるように回転を速める。


「俺はそういう意味で言ったわけでは!」

「私はそういう意味で言ったのです! 肯定し、答えたのは他でもないエージ様! もう逃し――」



ゴンッ!  バタン!



「よーしエージ。一分、いや十秒で支度しろ」


 後頭部に大きなタンコブを膨らませるランライトをよそに、俺は二つの指輪が入った小袋と銀の短剣を腰ベルトに装着した。

 一方のメディは旅セットの入ったリュックを背負い、俺に魔印を浮かべた手を握れと差し出す。

 その手を握ると、メディはぐんっと俺を引き寄せて軽く抱き合うように左手を腰に回して右手を床に向ける。


 足元には赤い魔法陣が浮かび上がり、光を強めていく。

 メディが下を噛まないように口を閉じていろと警告すると同時に、ランライトが後頭部に手を当てながら起き上がる。


「痛たた。メディさ~ん? もう少し手加減っていうものを・・・あら? あらあらあら!? チョッ!? 待ってくださいよ!」

「ラン、国王とサハ姫に世話になったと伝えといてね」


 笑顔でひらひらと手を振るメディ。飛び跳ねて手を伸ばすランライト。目は完全に見開いて焦り本物の涙が空へと流れ、口は大きく開らかれ何かを叫び続けている。伸びた手の指先が魔法陣の光に触れようとした瞬間に、俺の視界からランライトが消えた。

 正確には俺とメディが客室から消えたみたいだけど。


「逃げられたあああぁぁぁーーー!!」







 一瞬だけの浮遊感に足元をすくわれ倒れそうになるが、メディがしっかりと支えてくれたため体制を立て直せた。


 先程の客室と比べるとかなり暗い場所だった。足元にある魔法陣の残光を頼りに部屋を見渡すと、一面に黒い石が綺麗に並んでいた。



「おかえり~ですよー。お嬢とエ~ジちゃん」


 明るい声のした方を向くと、そこにはとんがり帽子をかぶったピンク髪の少女が、楽しそうに嬉しそうに笑っていた。



サハ姫「大声出して何かあったの!?」

ランライト「うわあああああん!!」

サハ姫「ちょ、ちょっと泣いてちゃわからないでしょ! ほら、これで涙を拭って、落ち着いて」

ランライト「うぅ、ぐすん。・・・エージ様とぉ、メディがぁ~」

サハ姫「う、うん。エージ様とメディさんが?」

ランライト「・・・駆け落ちした」

サハ姫「はい?」





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