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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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パペットマスター 人形の城


 メディside


 まだ日が昇らない深夜と早朝の中間。私はロングタンクトップに短パンと動きやすい格好をしている。色はもちろん黒をメインしている。


「それじゃ行くわよエージ。大丈夫よ、心配ないわ。この指輪を御守り代わりにエージに渡しておくからね」


 私はエージの左薬指に・・・いえ、小指にパペットマスターの指輪をはめた。余談だけど、レアな魔具は相手に合わせて勝手に伸縮するので調整の必要はない。このパペットマスターもそのうちの一つ。


「準備はいい?」

「・・・」


 大丈夫っと言われた気がして、私は背中にいるエージに笑みを返した。



 部屋から一階ホールに下りると、ランが果汁の飲み物を景気良く飲んでいた。気に入ったのかしら? 私の視線に気付くと、何故かジト目を返された。


「メディ、本当にエージ様を背負って行くのですね。そこまで心配ですか? ここの主はいい人で信頼も出来ますし、預けておいても大丈夫と判断しますが」

「解呪の魔法薬を手に入れたら、即行で街を出るためよ」

「あら、本当はこれ以上エージ様と別行動は嫌だというだけでは? エージ様がパペット化した日から、必要もない魔力循環を念入りにしていますし。髪を梳いては体を拭ってあげて、筋肉が硬直しないように丹念にマッサージをして、その日その日の世話話をしては、満面の笑みで頭を撫でたり頬を突いたり。おまけに、恥じらいながらもお休みのキスをして、優しく抱きかかえては添い寝をしてあげているのですからね。・・・あなた、エージ様のパペット化を楽しんでいませんか?」


 私は背中からズレ落としそうになったエージを何とか抱えるが、沸騰したようにその場で赤くなっていた。





 不気味な靄に包まれた街。シンっと物音一つしない静寂である。空は薄っすらと明るみを帯びてきているが、靄の事もあり、まだ明かりなしでは足元が危うい。そんな道の中、闇にまぎれて王城へ向かう二人と一人の影。もちろん私とラン、そして私が背負っているエージである。

 何事もなく王城の城門前にたどり着いた私達は、物陰から様子を伺う。城の周りには朝昼晩の年中無休の兵士が見張り歩き、門にはじっと前を見たまま動かない槍を持つ兵士が直立している。遠目から見れば、兵士の格好をした人形に思えるほど微動だにしない。


「あら立派ね。微塵も動かずに立っていられるなんて、本当のお人形さんみたいだわ」


 私の頭の上から顔を覗かせるラン。暗がりではフェアリーの微光が目立つ為、今は人型に擬態いる。しかしこの状態、暗闇に生首が二つ重なって見えるのでしょうね。少し怖いわ。エージは壁を背に隣で座わらせている。


「ふむ、何だか目の焦点が合ってないようにみえるぞ? こう、惚けてるような夢現つみたいな感じがする」

「あら、そう言われれば・・・試してみましょうか」


 ランはフェアリーに戻り、わざと見えるように光ってみた。たが、兵士は気にも留めずに立っているだけ。さすがに変だと、ランが兵士の目の前まで飛んでいく。


「あら、反応がない。ただの人形のようね」

「どういうことだ?」

「私が知るところではありませんわ。この兵士達みんなパペット化しているという事実だけ」


 私の考えがどんどん嫌な方向に転がっていく。これは早々に片付けた方がいいわね。


「ラン、悪いんだけどそのまま城内を飛んで見てきて。危なかったらすぐに戻っていいから」

「見つかっていいの?」

「いえ、私の考えが的中するなら、みんなこの兵士と同じ状態になっているわ。ただ、こちらからの攻撃は禁止よ」


 あらあらっと緊張感のない顔をしながら、ランは城壁を飛び越えて中へ侵入していった。戻ってくるまでの間に、私は兵士を調べる。小さな擦り傷のような痕があるだけで、目立った外傷はない。訓練の傷かしらね? 持っている武器も手入れがされており万全。体調もパペット化を除けば健康。

 試しに体を押してみると、数歩動いてバランスをとって、何事なかったかのように元の位置に戻った。


「主の命令は受けているようね。エージみたいに何もしない人形とは違う。そうなると、自己防衛ぐらいはしてきそうね」


 今度は槍を取り上げようとするが、しっかりと握られて離さない。


「それじゃ、これならどうかしら!」


 私は兵士向かって拳を振るう。すると兵士は槍の柄で受け止めて、光のない瞳で私を見つめてきた。兵士は素早く槍を構えて、私と対峙する。隣にいた兵士も全く同じ構えをとる。


「暇つぶしぐらいにはなるかしら?」





「あらあら、戻ってみれば何を一人で遊んでいるのですか」


 私の足元には、馬車に轢かれたカエルのように倒れている兵士が二人。私はカツンっと兵士の甲冑を蹴って、エージを背負う。


「遊びにもならなかったわ」





 広く立派な廊下。よくある高級そうな赤い絨毯に、様々な花が生けてある花瓶。城の中央にはガラスで囲まれた庭園があり、中でパーティをしていた形跡が見られる。

 途中で何度もメイドや兵士とすれ違ったが、何も反応はなかった。彼・彼女等は、ただ何かを捜し歩いているようにもみえた。


「エージもこの景色を楽しんでいるかしら。まぁ、変な靄が充満してて不気味だけどね」

「本っ当に何なのでしょうね、この靄。ただの自然現象かと思ったけど、魔素を含んでるわよね」

「今のところ害がないのだから放置していいわよ。どちらにせよ、お姫様か王様に会えば判明すると思うし」


 庭園を抜けて奥に進むと、謁見の間に続く扉と先の見えない螺旋階段が待っていた。念のため謁見の扉を開けるが、中にいるのはパペットのみ。寂しく王のいない王座を警護している。というわけで、向かうのは螺旋階段の先。さて、お姫様はこの先で寝込んでいるのかしらね。





 ずっと続く螺旋階段。点々とくり貫かれたような窓からは、空が明るくなり始めている事が確認できた。まだ日の出には少しある。ようやく階段を上り終えると、木製の扉が行く手を阻んでいる。木製だが、何重にも重ねてあり強度を上げているのがわかる。


「もう、ぐるぐるぐるぐる飽きましたわ。この扉の先も階段でしたら訴えますわ」

「飲み物の一つぐらい欲しいわね」


 ガチャ。・・・ガチャガチャガチャ!


「開かないわ」

「あら、開いてると思っていたの?」


 まさか、っと鼻で笑い、ランの言葉ごと一蹴するように私は扉を蹴破った。




 バキンッ!


「きゃっ!?」


 部屋に飛び散る木片。ガラガラと木片の音に紛れて、奥から女の子の悲鳴が聞こえた。

 思っていた以上に広い部屋。天井には月を模した魔晶が輝き、その周り一面には星々が描かれている。床は青い絨毯が敷かれており、海を表しているのか波のような模様もある。隅には本棚がチラホラとあり、奥にはピンクの天蓋付きベッド。薄っすらと見える天蓋の中には人影が身を縮めているのがわかる。

 ベットの周りには魔法薬と思われる液体の入った瓶と空瓶が散乱しており、その隣には男が一人と、兵士が二人倒れている。


「貴女が――」

「何度来ても同じです!」


 私はお姫様と思われる影に話しかけようとするが、何故か遮られた。


「ここにはあなた方の言う呪具なんてありません! 早くこの指輪を解いて、お父様達も元通りに治してください!」

「あらあら、呪具って何のことかしら」

「何を惚けて、あなた方がお伽噺に出る七つの呪具をさがしている・・・と? あの、失礼ながら確認しますが、賊の方ではない?」


 私とランはお互いに顔を見て悩む。賊といえば賊になる事を今からするのだが、話が混乱するのは目に見えていた。


「私達はそこらの賊とは別者よ。それよりも、貴女がカーリライトのお姫様かしら?」

「あ、はい! わたくしがカーリライト国王の娘である、サハ・ヴィレーンです」

「ではサハ姫。単刀直入に聞きかせてもらうけど、パペット解呪の魔法薬はここにあるかしら?」


 サハ姫は、私の質問にすぐに応えようとはしない。まぁ、考えていることはだいたい察しがつくわ。


「・・・あります、が、譲るには条件がございます。私とこの王国を助けてください」


 やっぱり。それにしても王国とは大きく出たわね。それともバカなのかしら? この人数で国一つ守れだなんて、無茶にも程があるわ。


「無理ね」

「ッ! なら、ならばせめて賊を討伐してください! 報酬なら出来る限りご用意いたします!」

「残念だけど、私達はご立派な貴族達とは違って気ままな旅人なの。自分の顔も見せない者と交渉したり協力なんてしない。サハ姫、まずはその天蓋から顔を出してもらえないかしら」


 何かを言おうとするが、すぐに俯くサハ姫。何度かこちらを見ているようだが、なかなか動き出さない。


「・・・今の姿は、呪のせいで醜いものになっています。きっと不快を与えてしまいます。ですから――」

「不快かどうかは私が決めるわ。むしろ、出れないのなら好都合。勝手に転がっている魔法薬を貰っていくだけよ」


 私は散乱している魔法薬に向かって歩き出す。魔法薬の大半はベットの周りに転がっているため、サハ姫に自然と近づくことになる。

 横目で見ると、怯えるように震えているサハ姫。私は関係なしと、魔法薬に手をかける。すると、天蓋の隙間から白く細い手が伸びてきて、私の腕を掴んだ。その手を見て、私は少しだけ目を見開く。決してホラー話のように、不意に伸びてきた手に驚いたわけではなく、色のない真白な手に驚いたのだ。所々蛇のような鱗もあった。



「・・・」


 私が驚いたいると、はっと小さく声を漏らし、すぐに天蓋へと手が戻っていった。ランも驚いたようで、天蓋の影を注視している。


「サハ姫、それは呪具の影響かしら?」

「・・・申し訳ありません。こんな気持ち悪い手で触れてしまって。その、気休めかもしらませんが、触れただけでは呪法は移りませんので安心してください」

「つまり、他の行動によっては移るというわけね。もしかしなくても、そこに倒れている者も含めて王城にいる全ての人が、サハ姫の手によって?」


「・・・そうです。城内にいる全ての者に、呪法を移してしまいました」

「わかった。そこから出なくていいから、詳しく話してもらいましょうか」




ラン「あら、この本棚にサハ姫の日記帳が」

サハ姫「!?!?」

メディ「それは面白そうね。見てみましょう」

サハ姫「ちょっ!! まってまって!!」

ラン「なになに~。今日はとても信じられないことが起きました。できることなら夢であって――」

サハ姫「見ないでーーー!」




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