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病弱勇者と過保護な魔王  作者: ヤナギ
第一章 病弱勇者
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パペットマスター 呪われた指輪

 メディside


「パペット化を解呪する魔法薬は置いてないか?」

「申し訳ございません。在庫切れでございます」


 チッと舌打ちをして店を出る。もうここで三十件は回ったぞ。なのにどこも在庫切れとはありえん。裏で何者かが邪魔をしているとしか思えない。

 誰が、何のために? そもそも、標的は私達なのか? 巻き込まれているだけなのではないか?


「あーっもう!! 考えるのは苦手なのよ!」


 わかっている事は、禁止魔具を注視して何者かが買い占めているか、売らないように差止しているってこと。幸いにもこの都市には魔法薬店が多い。どこか一店ぐらい差し押さえられていない所があるはず。


「今は地道に探すか。それでもダメなら・・・力ずくね」


 でも、そんなことしたらエージは嫌がるだろうな。もしかしたら嫌われるかもしれない。辛いけど、きっと今よりは気持ち的にも楽になる。




 エージがパペット化してから三日目。昨日は結局収穫はなかった。まだ、まだ慌てる時ではないわ!

変なテンションになった私は、店の扉を蹴り開けてしまった。


「おらぁ! ここにパペット解呪の魔ほ――」

「出ていけ! 何度言われようが、俺は認めない!」

「貴様が容認しようがしまいが関係はない。国王からの勅命である。全魔法薬店は解呪系統の魔法薬の販売を中止し、在庫を全て王城へ搬送せよ。なお、この通達を無視したものには厳しい罰則があるものと思え。以上だ!」


 ガチャガチャと甲冑を鳴らしながら店を出る兵士。それを恨めしそうに睨みつけるのは、若い青年の男。緑色のツンツン頭で、深い青色の瞳には怒りが滲み出ている。




「今のはなんだ?」


 ようやく私の存在に気づいた青年は、両頬を景気良く叩いて商売スマイルを作る。


「いらっしゃい! さっきのは気にしないでくれ。それよりも何か怪我でもしたのかいお嬢ちゃん」

「いや、気にしないわけにはいかないのだけれど。私が欲しいのはパペット解呪の魔法薬だから」


 青年は少し驚き、スマイルを崩す。そのまま衝動でドンッとカウンターを叩く。いくつかの魔法薬が驚いたようにカチャカチャと鳴る。


「ほらみろ。こうして求めるお客様がいるのに、何を考えているんだ国王は!」

「売れるのか、売れないのか。それだけは今すぐ答えてほしいわね。私は急いでいるの」


 男は顎に手を当てて考え込む。ちらちらと私を見ては、店内を見る。



「すまない。俺はこの店を失うわけにはいかないんだ」

「はぁ。本っ当に厄介ごとね、もう!」


 イラついてズドンっと床を踏みつける。力は抑えたつもりだったけど、あちらこちらに置いてある魔法薬がガタガタと揺れた。


「うお!? お、お嬢ちゃんってかなり強いみたいだな。もしかして旅人だったのかな」

「ふん、そんなところよ。それよりも売れない理由を聞いてもいいかしら? 私としても穏便に済ませたいのよ」

「わかったよ、お嬢ちゃんには敵いそうにないからな。俺はザリーだ。お嬢ちゃんは?」

「・・・マオよ」





 店内の奥で、今この都市で起きている厄介を聞いた。それが思った以上に厄介で、何度ため息が漏れたことか。

 解呪系統の魔法薬は全て、都市の中央にある王城へと運ばれていた。ザリーが言うには、もう全ての魔法薬店が搬送を始めているか終えているとのこと。つまり、これから都市内をいくら探しても時間の無駄。


 そんな身勝手な命令をしているのがカーリライト国王ご本人。ザリーいわく、国王がこんな支離滅裂は行動を出たのは初めてとのこと。

 今までは国民思いの良王と言われていた。そのため、なにか特別な事情があるのだと、みんなは友好的に協力している。



「国王は何故そんな命令を?」

「詳しくは知らない。ただ噂はある」

「その噂を聞いても?」


 ザリーは口の前に人差し指を伸ばして、シーっと静かにするように促した。そして静寂に包まれた店内の中、掻き消されそうな小声で話してくれた。


「こないだの魔具店強盗事件の犯人が王城に忍び込んで、国王の愛娘であるお姫様に呪われた指輪をはめていったそうだ」

「呪われた指輪?」


 私は一瞬だけパペットマスターを思ったが、あれは私がフード男を殺した際に、奪い隠し持っている。



「お姫様を人質に何かを要求したらしいんだけど、そこまでの情報はないな」

「呪われた指輪ねぇ。そんなの適当な解呪魔法薬でいいじゃない」

「マオちゃんは、世界に散らばっているという七つの呪具の話を知らないかい? 俺は良く小さい頃に親から言い聞かされていたよ。悪さをすると呪具がやってくるってね」

「子供をしつける為の迷信ってやつかしら」

「大抵の人はそう思っている。けど、ここ最近にその呪具を見つけた旅人が現れたと言われていたんだよ」

「なるほどね。それで、珍しい魔具収集を趣味としている魔具店主の耳に入って、大金を叩いたそれを手に入れた。大喜びしているところに、哀れにも強盗に襲われたと」


 ザリーは首を縦に振り肯定する。そしてポケットから、手帳を取り出しペラペラとめくると、指でなぞりながらメモを読む。


「えっと、その呪われた指輪なんだけど。迷信と今の噂を照らし合わせた結果。装着した者に、ありとあらゆる呪いを与え続ける呪具みたい。恐ろしい事に効果は永続であり、指輪を外すためには全ての呪いを一度克服しないとならない」



 なんとまぁ面倒臭い指輪ね。そんな指輪を誰が作ったのかしら。

 そもそも呪具なんて作れる者は限られている。魔法を放つ魔具と違って、呪具は蝕む・侵食する呪法。

 呪法は人間や亜人は扱えず、魔族のみが使える。ただし、呪具なら人間も亜人も使える。

 加えて、呪法を呪具に込めるには私のような魔王級の力がいるが、好んで作る魔王はいない。自分の技をタダであげるようなものだからね。


「あ、私は作ってないわよ?」

「へ?」


 おっと、つい口に出してしまったわね。とりあえず笑って誤魔化しといたけど、収穫はありね。ランと今後の事を相談しておきましょう。

 私はザリーにお礼を言ってから店を後にした。魔法薬を一つくすねてね。






「はーい、今日の反省会はじめまーす」

「ぁ~ぃ」

「はい、そこのおっちょこちょいなメディちゃん。やる気を出す出す!」


 うつ伏せのまま、生気のない返事を返す私。この私が、この私が! よもや全く違うものをくすねてしまうとは。

 恥ずかしさのあまり顔を伏せると、ドンッと私の目の前に見覚えのある魔法薬が置かれた。それをニマニマと嫌な笑みで見つめるフェアリー。


「ぷっ、ま、まさかね。くっくく、ひゃ、カエル状態を、あはっ! ・・・カエル状態を戻す解呪魔法薬を、ふふ、自信満々に持って帰って、ぶはっ!!」

「あーもっ!! 笑うか馬鹿にするかどちらかにして! もう! もう! もうーーっ恥ずかしいわッ!」


 下品に笑いこけるフェアリーを、この手で握りつぶしてしまいたい衝動を抑える。それよりも、過去の私を殺してしまいたい。

 あの魔法薬を自信満々にランに突き出して、高笑いした私を!


「ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。あ~笑った笑った笑いすぎましたわ。お腹痛い」

「エージがパペット状態で良かったと思える日が来るなんて、私泣きそう」


 子供をあやすように、私の頭を撫でるラン。ただ、今日はフェアリーの姿のため、手は小さい。今の私は耳まで真っ赤だろう。この赤い髪で少しは紛れてくれればいいのだけれど。


「でも収穫はありましたわね。まさか、迷信の呪具が出てくるとは思いませんでしたが」

「そうね。魔法薬の在処はわかった。明日にでも回収に向かうわよ」

「あら、王城へ忍び込むのかしら? スリルがあって楽しそうではありますけど、王城も広いわ。ある程度、調べる場所を絞りたいわね」

「向かうのは天辺よ。お姫様は一番高く作られた塔の最上階に居るはず。おそらく魔法薬もそこに運ばれていると思う」



 ランが頷くを確認してから、明日に必要な道具と手順について話し合った。

これ以上、厄介事に巻き込まれたくない私としては、エージを解呪次第すぐに街を出る事も伝えた。

 次はイグドラ大陸ね! っとランは騒ぐので、生返事だけしておいた。



ザリー「あれ、商品が一つ足りないな」

兵士「何? 貴様、まさかくすねてないだろうな」

ザリー「んなことしませんよ。それに無くなってる魔法薬はアレですし」

兵士「アレ? あれとは・・・あぁ、アレ、か」

ザリー「アレを必要とする人なんてこの世にいませんよ。いたとしたら、そういうプレイが好きな人だけ」





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