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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

pink motor pool

pink motor pool

作者: 江ロ

 pink motor poolはギター&ボーカルの木田悠とベースの前島弘介の2人からなるロックユニットである。

メディア掲載の際はpmpの略表記が試用されることが多く本人たちも自称する際は「ピーエムピー」と呼ぶことが多いが、しばしば木田は「ピーエム」の長さにまで略する。


 結成の経緯はあるものの結成日は明確でない。

2人が大学時代に軽音サークルでバンド参加するためにメンバーも名前も急ごしらえで登録したバンドが、そのまま木田と前島の二名で活動が進んだ形になる。現在は従業員規模約50名で10~15程度のアーティストが登録アーティストとして出入りする音楽事務所に入って3年目になる。


 ここまで音源のリリースと主要都市を回るツアーを定期的に行い単発ライブも繰り返し、音楽フェスティバルへの参加も増えてきた。

2人も最近やっとアルバイトをやめて音楽活動に集中できるようになり、順風満帆とも思えた。


 しかし、ベースの前島は現在悩みを抱えていた。

その悩みが厄介なのは内容がユニットの相方である木田に関することであり前島の方では手の付けようがないこと、また手を付けられたとして、平穏無事であった頃の環境を取り戻すことが前島本人の倫理に反することと一致してしまうことにあった。


 その悩みは今日も事務所に向かう車中の前島にため息を付かせた。


「そんなに憂鬱か」


 運転席でハンドルを握るpmpのマネージャー、櫻井がため息に対応する。しかしバックミラーで後部座席を確認するでも無かった。


「もうそろそろ慣れろ、あいつだって何が変わったわけじゃないし、悪いこともしちゃいないんだから」

「そりゃそーだけどね……」


 前島は窓の外の景色から人のいない隣の席に一瞬目を移した。少し前までその席で豪快に響いていた木田の鼾を思い出した。


「あっちは着いたか」


 櫻井が何の前置きもなく独り言のように呟いた。

大方マナーモードの携帯電話が震えたのを感じて、連絡内容も察知したのだろう。

前島は既に木田のいる事務所に向かうのが憂鬱だった。

順調に車を走らせる櫻井の背に非情すら感じている。


 そして櫻井から予定で伝えられた時刻の5分前に車は事務所の駐車場に停まる。

前島は櫻井の後に付きながら木田がいるであろう喫煙室に向かうまでに、ため息をもう一度吐き出しておいた。


「おっす」


 喫煙室の扉を開け、すぐに木田から挨拶をされる。前島はまた喉元にたまりかけた息をぐっと飲みこんで、少し笑顔を作った。


「おう……健嗣さんもおはようございます」

「おはようこーちゃん」


 木田の隣、それも肩が触れ合うほどに近づいて座るその男は、事務所の先輩アーティストであり、現在木田と交際中の室井健嗣である。


 前島の悩み。それはユニットの相方が男と付き合い始めたことであった。 






 二か月前まで、木田と前島はシェアルーム用の安いアパートに2人で暮らしていた。

仕事に出るのもいつも2人一緒、事務所でもスタジオでも一緒、家に帰っても曲作りが煮詰まっているときは製作や言い合いが続く日々だった。


 そのくらい一緒にいるとお互いうんざりして、家に帰ってからのことはあまり干渉しなかった。

まして木田は浮き沈みの激しい人間であるため、同居人の前島は辛抱たまらず仕事が終わるとそのまま外で飲み明かして朝までやり過ごすこともあった。

木田の気性がひどく荒い日であっても、前島が夜に出歩いて帰ると必ず木田は先に床に就いていて起きてくると落ち着いていた。

根は寂しがりやであるために放っておかれるとしおらしくなる、木田にこちらの意図で制御できる点があるからこそ、前島は金がない中での共同生活もどうにかやってこられた。


 だが定期的にその波が平時より激しくなって、誰の手にも負えなくなる時期が来る。

大学時代は前島も「木田が生理だ」とサークル仲間共々からかっていたが、これが共同生活となると笑ってもいられなくなる。

現在前島は独り身であるが、彼女がいる時期は大抵木田の生理が来ると彼女の家に逃げた。

そうでないときでも酒場や、ときには櫻井の家に逃げ込むこともあった。

ある程度自分の心に余裕がある時は、一晩中怒ったり泣いたり笑ったりしながら酒を飲み明かす木田に付き合った。

家の中を引っかき回すのを無理やり押さえつけて怒鳴り散らすこともあった。

絶対に情緒不安定な女とは付き合わない、木田との共同生活を始めてから前島はそう心に誓った。


 半年ほど前、お互い収入が安定してきて引越しの話し合いも始めた頃、その生理が木田に訪れた。

前島も櫻井もいつものことと思って挙動不審になる木田をなだめていたが、その時は前島にとっても予想だにしないことが起こった。

普段であれば数日は続くその生理が、一晩で治まってしまったのだ。


 前島はその理由をもう一つの変化からある程度推測していた。

その日の晩は仕事が終わると木田は櫻井の車にも乗らずどこかへフラフラと行ってしまった。

木田の生理周期には珍しくない行動だったし、それほど寒い時期でないから野たれ死ぬこともないだろうと踏んで特に引きとめもせず前島はまっすぐ帰った。

前島が寝るまでに木田は帰ってこなかったが、朝起きると木田はすっきりした顔で自分の分だけ目玉焼きトーストを作って食べていた。

一晩で安定して帰ってきたことに前島は面くらったが、木田の左腕を見て感じた違和感がそのまま言葉に出た。


「お前腕時計どうした?」

「部屋」


口をもごもごとさせながら木田は一言だけしれっと答えたので、前島もそれ以上何も言わなかった。

木田が腕時計を外すのは、惚れた相手ができたときであった。

本人曰く「好きな相手より腕時計ばかり見るのも失礼だから」ということだ。

学生時代から仲間内の中でもいかついナリをしていたにも関わらず女々しい部分が多いところも、木田がからかわれやすい要因だった。


 こうなると前島は不安だった。

大抵の人間がそうであるように、色恋沙汰が始まると木田はいつにも増して不安定になる。

急に安定するというのももはや不安定の一種だ。

お互いの精神衛生のためにも、相手方と懇ろになれりゃいいもんだが。

前島はそう思いながらも、木田の方から何も話してこないので自分から詮索するような真似はしなかった、櫻井も同様である。

 しかし三ヶ月後、前島は自分がその問題に首を突っ込んでおかなかったことを痛く後悔するのであった。



「タマさんから連絡が来たんだが、今晩話し合いたいことがあるらしい」


 スタジオで木田がギターを録音しているとき、待機中だった前島は櫻井にそう告げられ思わず「タマさん?」と聞き返した。

タマさんが誰かは知っている、室井健嗣のマネージャーの玉谷遼一だ。


 室井健嗣は事務所の先輩であるシンガーソングライターで、年はそれほど変わらないが19の時から事務所に入っていたので芸歴はpmpよりずっと長い。

ずば抜けた人気はないが一定層のファンが定着し知名度もそこそこある、いわば「音楽を好きな若者の中では人気がある」というような位置で活動を続けているが、本人は自分のファン層について深い関心はないようで、ただ聞いてもらえる人がたくさんいるのが嬉しいということを率直に言っていた。

pmpが事務所に入ってすぐからよく面倒を見てもらっていて、飲みに行くことも多いため芸歴や年の差の分よりずっと気さくに話せる人だった。


 2人は室井にそれぞれ「こーちゃん」「ギダユー」と呼ばれている。

「ギダユー」とは初めての顔合わせの時、木田が名乗って挨拶すると「ギダユーっているよね?」と唐突に室井の方から言われたことがきっかけである。

確かに木田悠と音の響きは似るがどの義太夫なのか、ただ義太夫という言葉を知ってるから言っただけなのか、前島も木田も迷った様子であった。

しかし大先輩への初めてのあいさつで、しかもなぜか爛々と瞳を輝かせながら言うのだから、2人とも頷くしかできなかった。

普段は無愛想ではないが呆けたような無表情で、口調もゆっくりとしていて、大概不思議な人だと前島は思っていたし、ファンからも天然キャラであることは認められている。


 木田のギター録りが終わると櫻井は木田の方にも話しに行った。前島は遠目にそれを見ていたが、木田はどうもあまり驚いていないようだ。

それがまた前島を不安にさせた。


 その日に仕事が終わり車に乗り込むと、いつもとは違う道を走った。


「どこに呼ばれてんの?」

「りゅうまいって店に予約してあるらしいからそこに」

「……櫻井さんは今日の話の内容とか聞いてる?」

「いやそれが、とにかく顔を合わせてからって言われちゃって……しかも出来れば5人でっていうような言い方でさ」

「出来れば?」


 前島が不審に思った点について、櫻井も同様らしく、バックミラー越しに頷いた。


「なんだそりゃ、最低誰が必要だってんだ」

「それもはっきりは言わなかったな」

「へーぇ……なーんか回りくどいというか水くさいというか……仕事の話じゃなさそうなんだよな?」

「仕事?だったら大体飲みのついでとかだろ」

「だろーな。……」

 

 前島はずっとだんまりを決めている木田の方を見た。

木田はここに来てどうも落ち着いていない。

仏頂面でずっと窓の外を見ているが拳はがっしりと握って膝の上に置き、背はシートから離れている。

車ではほとんど寝ているか煙草を吸っているかだというのに。


「お前何をそんな姿勢正しくしてんだ」

「……別に」


 言われてから木田は腕を組んで深くシートにもたれ、煙草を取り出した。


「でも、行ってみて分かれば、いいんじゃねえの」


 煙草に火を付けながら少したどたどしい口調でそう言うと、木田は一服スウゥッと大きく吸い、それをゆっくりと吐き出した。


「……お前なんか知ってない?」

「なんかってなんだよ」

「いつも嘘吐くのがへたくそなんだよオメーよー健嗣さんかタマさんかどっちかから何か聞いてんだろ」

「うるっせえよとにかくさっさと行かせろバカ!飛ばせ!マジで!」

「ダメダメじゃねえか」


 しらばっくれることすら放棄した木田に対して櫻井が呆れて締めたが、それ以上は3人とも何も言わなかった。

木田の言う通り、行けば話の内容は分かるのだ。


 一週間ほど前、木田が急に泥酔してはいるものの浮かれ調子で帰ってくることがあった。

木田は「このままシャワー浴びたら死ぬぅー!」などと口走りながら万年床にダイブし、そのまま掛け布団の上で寝てしまったが、前島は布団をかけてやりながらおそらく恋が成就したのだろうと察した。

次の日も二日酔いを引きずりながら浮かれ調子であったために櫻井を始め周りのスタッフにもある程度なにがあったかは察しがついた。

なんと分かりやすい男だろうか。

前島は家に居場所のある日が少なくなることを懸念しつつも、大方いい方向にことが進んでいることに一旦安堵した。


 しかしこの時点では前島も、今の木田の挙動不審がその恋の相手に直結していることまでは想像できなかった。


 店に着くと既に室井と玉谷の両名が来ていたようで、個室に案内された。


「こんちは」

「すいませんね櫻井さん、突然呼び出したりしてしまって」


 前島は2人がどんな様子でいるのかも不安に思っていたが、特に深刻そうな様子もないので悪い話ではないだろうと少し落ち着いた。


「いえ、いいんですが……また今日はどうして改まって?」


 奥から木田、前島、櫻井の順に腰を下ろすと櫻井が切り出した。

真ん中の居心地はあまり良くなかったが、それ以上に木田が所在なさそうな様子で着いて早々灰皿を自分のところに寄せていた。


「俺から3人に話させてもらおうと思ってるんだ」


 向いの奥に座る室井が奥から順にこちらを見渡した。木田は隣でビクッと震え取り出しかけた煙草をテーブルに置き、また拳を膝の上に置いて背を正した。


「俺とギダユーが付き合い始めたことを報告するのに、今日は来てもらったんだ」


「………………」


 沈黙、沈黙、そして沈黙。


 室井がなんにももったい付けず、普段と変わらないぼんやりとした表情とのんびりとした声色で、あまりに衝撃的な発言をするものだから、前島は理解が追いつくどころか頭が真っ白になった。

この人は今なんて言ったんだろうという発言の確認から頭の回転が始まった。


「……ははははははっ」


 前島が理解する前に櫻井が笑い声を上げて、前島は先ほどの木田のようにビクッと震えた。

木田はというと、口をキュッと結んで頭を垂れている。

明らかに、恥ずかしがっている様子であった。


「それは本当ですか?」


 櫻井は急に真剣な顔になって室井の方に身を乗り出した。

室井と玉谷、そして木田が小さく、櫻井の問いに頷いた。


「本当だよ、ギダユーは俺の恋人になった」

「……そうですか」


 櫻井は納得したように腰を下ろしたが、前島はまだ理解が追いついていなかった。

なぜ?いつの間に?半年前から?その間に木田も自分も健嗣さんには何回会った?


「まぁ、お互い自分が抱えるアーティストがアイドルなわけでもないし、誰とどうなるかなんて特別な事情でもなければ特に何もしないのでしょうが」

「今回はその特別な事情、ってわけですか」


 玉谷と櫻井の方で話が始まり、いよいよ前島は置いてけぼりを喰らった。

木田は小さく背を丸めているし、室井は食事のメニューを開き始めている。


「……そうだったの?」


 やっとのことで前島は隣の木田にことの確認をするまで理解が追いついた。

木田は「そうだったんだよ」と顔を上げて、開き直ったように煙草を取り出した。


「食事の注文を全然していなかったね」


 今日の話題の当事者である室井はもう話は終わったとばかりの空気だった。


「もうそちらではメディア対策の方針も固めてるんですか?」

「俺たちの方では健嗣の意向もあるので言わないが隠さない、という程度で話しています」

「社長はこのことは」

「昨日少し話したんですが、干渉はしないけどいざという時は守る、といった感じですね。あと、おめでとうと」

「注文をしたいんだけどいいかな?」

「人数分ビールいいか?」

「つまみは俺たち3人で決めておいていい?」

「あ、すみませんやらせてしまって」

「焼き魚食いてーな」

「……ちょっ、ま、待って!!!!!」


 前島の声で皆静まり返った。


「こーちゃんは日本酒の方がいいか?」

「いやそこじゃなくて!なんというか、そのメディアとかのアレも大事なんだろうけど、だから……なんで?」


 また沈黙。


「こーちゃんは俺がギダユーの告白に答えた理由が知りたいってこと?」

「あーそれもそうなんですけど……きっかけっていうかそもそもどうしてっていうか……なんか、全部!」

「……まぁ、それも気になるところではありますね」

「ていうか何でお前はそんなに冷静なんだよ!?知らなかったの俺だけ!?」


 しばらく固まっていた櫻井が口を開くと即座に前島は櫻井に食ってかかった。


「落ち着けよ、声でけーよ」

「ぉっ……」


 お前にだけは言われたくねー、と言いかけたのを飲みこんで前島は息を整えた。


「木田に落ち着けなんて言われる日が来るとはなぁ」

「うっせ黙れ」


 場が落ち着いたところを見越して室井が口を開いた。


「俺たちはなんの話をすればいいことになったんだ?」


 お互いに目を見合わせたが、玉谷が切り出し始める。


「木田君の方から健嗣にアプローチしたっていう話なんだろう?」

「……まぁ」


 木田は一瞬ひるんで、また背を丸めて頷いた。


「それなら健嗣を選んだ理由から話してもらうか?俺も気になってたんだ」


 前島の目には、玉谷がどこか面白がっているように見えた。

木田は「ぇっ……」と小さく声をあげたあと、キョロキョロとその場の全員を見回した、特に室井を何度も。


「話せよギダユー」


 木田は少し俯いた後、小さく頷いた。


「……なんか、こんなに波長が合う人いないって、ビックリして……感動して……もういいだろ!」

「いや、そう思ったきっかけは?」

「きっかけ!?」


 なぜか玉谷さんが容赦ない。

前島は櫻井と顔を見合わせたが、櫻井も肩をすくめるだけだった。

室井は変わらない表情で木田を見続けているが、無表情でずっと視線を注ぐ姿は少し威圧感があった。


「きっかけ、きっかけは……半年くらい前に……」


 木田は玉谷と視線を合わせては逸らし、室井と視線を合わせては逸らし、結果その視線は、テーブル中央の何もないところに落ち着いた。


「俺が荒れてて、その時事務所でちょうど健嗣に会って……」


 「健嗣」というその呼び方に前島は少し胸がザワッとした。

前までは自分と同じようにさん付けで呼んでいたはずなのに。

その呼び名が、今ここで話されたことが事実だということをやっと前島に実感させるに至った。


「何話したかはよく覚えてないけど、夜飲もうって話になって。それでそんとき一晩飲んで……色々、話聞いてもらったけど、健嗣も色々話してくれて、なんか、すげぇなってなって……あ、好きだな……って……。……あの、いいすか、これで」

「……木田君はそれまで同性愛の経験はなかったんだよな?」

「え?まぁ……」

「何が性別の壁を乗り越えるに至ったをもう少し詳しく教えてくれると……」

「玉谷さん……木田にしてはかなり頑張ったんでちょっと勘弁してもらっていいですか」


 身を乗り出し始めた玉谷を櫻井がなだめた。

前島は玉谷についても少々の不審感を覚え始めていた。


「……健嗣さんは良かったんですか?相手が男というかこいつというか、木田で」


 今度は櫻井が室井の方を向いた。


「俺も最初に告白されたときはびっくりしたし、ギダユーのことはずっと友達だって思ってたけどそういう風に感じたことはなかったよ」


 室井は相も変わらずのんびりと、淡々と話した。


「でもギダユーの言葉と姿勢からはすごい愛が伝わってきたんだ。本当はギダユーは友達だよって俺は断ろうと思ったんだけど、ギダユーの愛の力は大きくて、それが俺の心まで動かしたんだ。だけれど俺の気持ちは迷ったから、少し考えさせてくれってギダユーに言ったんだ。それで俺は考えてたんだけど、ギダユーが男であっても俺の心を動かすほど愛してくれてるのはすごいことだと思って、俺もそんな風に愛し合えたらいいなと思ったんだ。それで俺はギダユーを愛したいと思ったから、まだ迷ってるけど愛したいってことを伝えたんだよ」


 室井の言葉が終わった時、木田はこれ以上ないくらい背中を小さくしたまま壁にぴったりと体と額を付け、櫻井は顔中の筋肉をヒクヒクと痙攣させ、玉谷はまっすぐに室井を見つめながら繰り返し頷き、前島は途中から話を聞くまいと必死で今日録ったベースラインを頭の中で繰り返している最中であった。


「こーちゃんは他にどんなことが聞きたい?」

「あ、もう充分ですありがとうございました」


 その後は櫻井が話題の中心になっていた。

pmpは下世話なメディアにくっつかれるほどの知名度は今のところないし、客足は伸びているというよりは安定している時期にある。

室井のところと同じく、言わないが隠さない、そのうち公然の秘密となるようなものでいいだろうということをまとめた。


「いくらかファンがそれで離れてもいいふるい分けだ。離れた分は曲作ってライブやって集めろ」


 櫻井のまとめに、木田も前島も異議を唱えなかった。


 この日からすぐあと、木田は室井の家に引っ越した。

お互いのスケジュールが重なると玉谷が室井と一緒に木田も事務所まで乗せていった。

櫻井はその好意を快くいただき、2人が別居しても送迎にあまり時間を取られずに済むようになった。


 そして2人は、周囲の理解も得て交際を順調に進めたのだった。


「そういえばタマさん、出来れば5人って結局何だったんだ?」

「えっ?あぁ、木田君は当事者で、櫻井さんは話し合いに必要にしても、無理して前島君の予定までは合わせなくても大丈夫だよってことだったんだけど」

「俺かよ!!」


 相方が事務所でいちゃつく日々、前島の受難は続く。







pink motor pool, プロローグとなる話でした。

当初は木田と室井を中心としたゆるほもをゆるゆる書き増やしていきたいと思ってたのですが、人の妄想はどこに飛ぶか分かりませんね。

あくまで主要キャラであるpmp、そして室井の人となり、立ち位置だけでも伝われば……イイネ

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