「備えあれば憂いなし?」
「なぁ、にーちゃん。らぶれたーって書いたことある?」
俺がベッドの上でごろごろしながら小説を読んでいると、突然やって来た弟がそんなことを言ったので、正直に「ない」と答えた。
「だが、いずれ必要になる時を見越して、以前からいろいろと準備してきたものがある」
俺は、本棚から付箋紙の付いた小説を引っ張り出して弟の前に積み上げた。
「俺がこれまでに読んだ小説(主にラノベ)で、ラブレターの内容が記載されているところに付箋紙を張ってある。これを参考にしろ。それからこれ」
”恋文の書き方”というそのものズバリのハウツー本をさらにその上に乗せる。
「これだけあれば、お前にも立派なラブレターが書けるはずだっ!」
「おお、にーちゃんすげー! かっこいー!」
「ところでどんな娘なんだ? 写真くらいないのか?」
「あるよー。おんなじクラスで、すっげーかわいいんだ」
そういって弟が見せてくれたのは、うちの学校の制服を着た女生徒の写真で、どこかで見たような気がした。
なんだか俺のクラスのある女子に似ている。あいつ妹とかいたかな?と思ってすぐにあいつの弟が俺の弟と同じクラスだったことを思い出した。
「……これ、まさか夏美の弟……か?」
「そうだよ。文化祭で男の娘喫茶ってやってね、秋彦君すっごくかわいかったんだ~。この気持ちをどうしても伝えたくって!」
「なぁ、弟よ。兄弟の縁、切っていいか?」
夏美さんと秋彦くんの姉弟話の裏。なんで秋彦君が女装なんかしたのかその理由を書きたかったので書いたお話です。読んでいない方は「妹弟間紛争」もどうぞ。