第8話『帰還と職人の約束』
森での初任務を終え、二人は街へと戻った。
夕焼けに照らされた街門をくぐった瞬間、タクミは小さく息を吐く。
「お疲れさま、タクミ。今日はよく頑張ったわね」
「いえ……まだまだです。リナさんに何度も助けていただきました」
リナは首を横に振る。
「それでも十分よ。初めてでウルフを3体も討伐したんだから」
そう言って微笑む。
リナは自然にタクミの歩幅に合わせて歩いていた。
その何気ない優しさに、タクミの胸の奥が少し温かくなる。
⸻
ギルドで依頼達成の報告を済ませ、宿へ向かおうとしたとき。
タクミはふと思い出した。
「そうだ、リナさん」
「今日のウルフの素材、このまま鍛冶屋に持っていってもいいでしょうか?」
「もちろん」
リナは軽く頷く。
「ヴォルドさんのところに行きましょう」
二人は通りを抜け、昨日訪れた鍛冶屋の扉を押した。
カラン、と鈴が鳴る。
奥から低い声が響いた。
「おう、嬢ちゃん……っと、昨日の新顔か」
「タクミです。初めての依頼でウルフを狩ってきました」
「ほう」
ヴォルドは腕を組み、ニヤリと笑う。
「新米にしちゃ上出来じゃねぇか」
⸻
タクミは周囲を軽く確認してから、手をかざす。
わずかに空気が揺れ、ウルフの牙が手の中に現れた。
それをそのままカウンターに置く。
ヴォルドは牙を手に取り、じっと眺める。
「……ほう」
指先で軽く叩き、頷いた。
「傷が少ねぇ。血の汚れもほとんどねぇ」
「こりゃまた上質だ」
「運が良かっただけです」
タクミは苦笑した。
査定を終えたヴォルドが銀貨を並べる。
「2本で銀貨16枚だ」
タクミは思わず目を見開く。
(昨日の宿代が銀貨1枚だった……)
(当面は困らなさそうだ)
⸻
銀貨を受け取ったタクミは、店内に並ぶ武器へ視線を向ける。
鋼の剣、短剣、片手斧。
どれも見事な作りだ。
だが値札を見ると――
(短剣でも銀貨8枚……)
買えないわけではない。
だが慎重に決めたい。
そんなタクミの様子を見て、リナが声をかけた。
「迷うのも無理ないわ」
「冒険者にとって武器は命綱だもの」
「納得できるものを選ぶといいわ」
「はい……ありがとうございます」
⸻
その様子を見ていたヴォルドが、腕を組んで唸った。
「……よし」
「決めた」
タクミが顔を上げる。
「お前さんが持ってきたウルフの牙で、武器を作ってやる」
「え……?」
タクミは驚く。
ヴォルドは牙を指で弾いた。
「素材代込みでいい」
「初めて狩った獲物の牙だろう?」
「それを刻んだ武器ってのはな、冒険者にとって特別な一振りになる」
タクミは少し戸惑う。
「ですが……そんなこと、本当にいいんですか?」
ヴォルドは鼻で笑った。
「職人ってのはな」
「作りてぇと思った時が仕事の時なんだ」
「気にするな」
タクミはしばらく迷い――
そして頭を下げた。
「……お願いします」
「よし」
ヴォルドは満足そうに頷く。
「明日の夕方には仕上げてやる」
「楽しみにしてな」
横でリナが微笑んだ。
「タクミ、本当に運がいいわね」
「……そうかもしれません」
タクミは少し照れたように笑った。
⸻
夕暮れの街を歩き、二人は宿の前で立ち止まる。
「今日はお疲れさま」
リナが言う。
「武器ができたら、また軽い依頼に行きましょう」
「はい。今日は本当にありがとうございました、リナさん」
リナは少し困ったように笑う。
「そんなにかしこまらなくてもいいのに」
「いえ……まだ慣れなくて」
「まあ、それがタクミらしいけど」
くすっと笑い、扉を開く。
「おやすみ、タクミ」
「おやすみなさい、リナさん」
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部屋に戻ると、タクミはベッドに倒れ込んだ。
天井を見つめる。
(今日は……色々ありすぎた)
森での初戦闘。
レベルアップ。
そして専用武器の話。
タクミは改めてステータスを確認してみた。
すると――
名前:タクミ
Lv:2
HP:25
MP:16
ATK:16
DEF:16
SPD:16
そして――
LUCK:999
(やっぱり異常だよな……)
この世界には存在しないはずの数値。
誰にも見えないステータス。
(これは……言わない方が良さそういいな)
タクミは小さく息を吐く。
昼間の戦いが思い出される。
偶然の回避。
奇跡の連続。
(この運が……)
(俺をどこまで連れていくんだろうか)
ランプの火が静かに揺れる。
その光をぼんやり見つめながら、タクミはゆっくりと眠りに落ちていった。




