表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GOOD LUCK  作者: risiyakaea


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/13

第5話『異世界で最低のステータス』

森を抜けた瞬間だった。


視界が一気に開ける。


石造りの壁――


高くそびえる城壁が月明かりに浮かび上がっていた。


「見えた……街よ!」


リナが息を切らしながら言う。


その背後。


森の奥から、再び咆哮が響いた。


グォオオオオオッ!!


空気が震える。


「まだ追ってきてる……!」


「急ぎましょう!」


リナに支えられながら、必死に門へ走る。


城門の前には衛兵が立っていた。


「止まれ!何者――」


「魔物に襲われて逃げてきたの!」


リナが叫ぶ。


「森の中!」


衛兵の顔色が変わる。


「なっ……!?」


「門を閉めろ!」


重い音を立てて城門が動く。


その直前。


俺たちは滑り込むように街の中へ入った。


ドォン――!!


背後で門が閉まる。


その向こうから、低い唸り声が響いた。


だが、怪物が街へ入ってくることはなかった。


俺はその場で膝をついた。


「……助かった」


肺が焼けるように熱い。



しばらくして、リナが言った。


「まずは冒険者ギルドに行きましょう」


「冒険者登録をすれば、宿の斡旋も受けられるわ」


「助かる……」


歩きながら、街を見渡す。


石畳の通り。


木と石でできた建物。


まるで中世ヨーロッパの街並みだ。


だが――


通りを歩く人々の中には、


獣耳のある男や、長い耳の女性の姿もあった。


(……異世界だな)


改めて実感する。


そのとき。


通りのパン屋から、いい匂いが漂ってきた。


リナが足を止める。


「少し待って」


彼女は店に入り、すぐに戻ってきた。


焼き立てのパンをひとつ持っている。


「半分こね」


「……いいのか?」


「いいの」


そう言って、パンを割って渡してくれた。


まだ温かい。


一口かじると、小麦の甘い香りが口に広がった。


空っぽだった胃に、じんわり染みる。


(この人には……頭が上がらないな)



やがて、大きな建物の前に着いた。


看板には剣と盾の紋章。


「ここが冒険者ギルドよ」


リナが扉を開ける。


その瞬間。


ガヤガヤと騒がしかった室内が、一瞬静まり返った。


視線が、こちらに集まる。


「……誰だあれ」


「リナじゃねえか?」


「また拾い物か?」


「今度は男かよ」


クスクスと笑い声が漏れる。


だが俺は、特に気にしなかった。


(どの世界にもいるよな、こういう連中)


カウンターへ向かう。


受付の女性が丁寧に頭を下げた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


「ご用件をお伺いします」


「登録をお願いします」


女性は頷く。


「ではこちらへ」


差し出されたのは、手のひらほどの透明な石だった。


「これに手を置いてください」


言われた通りに触れる。


石が、淡く光った。


すると――


宙に、光の文字が浮かび上がった。



名前:タクミ

Lv:1

HP:10

MP:1

ATK:1

DEF:1

SPD:1


スキル:ラッキーステップ



「……え?」


受付の女性が固まった。


後ろで、誰かが吹き出す。


「おいおい、見たか?」


「全部1だぞ」


「赤ん坊より弱いんじゃねぇの?」


「ギャハハハ!」


笑い声が広がる。


俺は静かに目を閉じた。


(なるほど)


(これが、この世界での俺の立ち位置か)


少しだけ、唇が乾く。


だが――怒りはなかった。


日本のブラック企業でも、こういう“無自覚な悪意”は何度も見てきた。


「これが現実ってわけだ」


小さく呟く。


すると背後から声が飛んだ。


「おいリナ」


振り返る。


若い冒険者がニヤニヤ笑っていた。


「お前が連れてきたの、これか?」


「ただの役立たずじゃねぇか」


(……は?)


「こいつと組んでたら、お前今頃死んでただろ」


「むしろ――」


「死んだほうがマシかもな?」


一瞬、空気が凍る。


俺はゆっくり振り向いた。


「悪いですが」


静かに言う。


「そんな価値のある人間じゃないのは、自分が一番分かってます」


「だから」


冒険者を見据える。


「彼女を責めるのはやめてくれませんか」


リナの目が、わずかに見開かれる。


「優しいなあ」


男が笑う。


「ヒーロー気取りか?」


「女に守られて生き延びたくせに――」


その瞬間。


俺の口から、低い声が漏れた。


「口を慎め」


男が眉をひそめる。


「彼女は俺の恩人だ」


「それ以上侮辱するなら」


「俺は本気で怒る」


場の空気が、ぴりっと張り詰めた。


しばらくして――


男は舌打ちした。


「……ちっ」


「なんだよ、雑魚が」


そのまま仲間と席へ戻る。


周囲の笑いも、次第に収まった。



リナは黙って俺を見ていた。


(普通なら……)


(この状況で怒るか、怯えるか)


(なのにこの人……)


(落ち着いてる)


(心が強い)



受付の女性が、咳払いをした。


「登録は完了しました」


「宿の紹介や、初心者向けの依頼もあります」


そして、少し声を落とす。


「ただし……」


「普通、このステータスでは冒険者登録はできません」


「ですが」


「あなたのスキルは、私も聞いたことがありませんでした」


「そのため、特例として登録されています」


「依頼を受ける際は、十分ご注意ください」


俺は、ふと思い出した。


(そういえば……)


「すみません」


「ひとつ聞いていいですか」


「はい」


「LUCKってステータス……どこに表示されますか?」


女性は、きょとんとした。


「ラック……?」


首を傾げる。


「申し訳ありません」


「そのようなステータスは存在しません」


俺は固まった。


(存在しない……?)


(じゃあ)


(俺が見てる、あの999は――)


リナにも後で確認した。


だが答えは同じだった。


誰も。


LUCKというステータスを、知らなかった。

読んでいただきありがとうございます。

初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ