第18話『帰還の報告』
街の門が見えた時、タクミの足はすでに棒のようになっていた。
「やっと……帰ってきた……」
「ほんと、死ぬかと思ったわ……」
リナも疲労の滲む顔で、かすかに笑う。
二人はそのまま、真っ直ぐギルドへ向かった。
扉を開けた瞬間――
騒がしかった室内が、ぴたりと静まり返る。
冒険者たちの視線が、一斉に泥だらけの二人へ向けられた。
「アンナさんは……?」
先に異変を知らせに来た若い冒険者が立ち上がる。
タクミは拳を握り締めた。
「……助けられませんでした」
一瞬の沈黙。
「……そうか……」
青年は肩を落とした。
しばらく俯いたまま動かない。
やがて、ゆっくりと顔を上げた。
「でも……お前たちがいなきゃ、それすら知ることもできなかった」
「これで、弔ってやれる」
言葉を噛みしめるように続ける。
「よく……やってくれた」
その言葉に、タクミは息を詰め――
深く頭を下げた。
⸻
受付へ向かう。
リナが一歩前に出て、簡潔に告げた。
「ゴブリンロード、及び……ゴブリンキングを討伐しました」
「ご、ゴブリンキングですって!?」
受付嬢の声が裏返る。
「そんな……Aランク推奨個体を、BランクとEランクの二人で……?」
明らかに疑いの色が浮かんでいた。
周囲もざわつき始める。
「今、キングって言ったか……?」
「嘘だろ……?」
「この二人が……?」
そのとき。
ギルド奥から、重い足音が響いた。
「何の騒ぎだ」
低い声。
現れたのは、屈強な体格の男――ギルドマスター、バーグ。
ざわめきが一瞬で収まる。
「ゴブリンキング討伐……か」
鋭い視線が二人を射抜く。
「証拠はあるのか?」
タクミは背負っていた小袋から、それを取り出した。
緑黒の結晶。
魔核が空気に触れた瞬間――
場の空気が、ピリリと張り詰める。
赤い脈動が、静かに明滅する。
「こ、これは……」
受付嬢が思わず後ずさる。
バーグの目が、わずかに見開かれた。
「……本物だな」
低く呟く。
「ゴブリンキングの魔核……噂でしか聞いたことがなかったが……」
一歩近づき、じっと見据える。
「よく、生きて戻ったものだ」
タクミはふらつきながらも、頭を下げた。
⸻
「……これは、どちらが倒した?」
バーグの視線がリナへ向く。
リナは静かに首を振った。
「いいえ。私はほとんど動けませんでした」
そして、隣のタクミを見る。
「このタクミが、倒しました」
ギルド内がざわめく。
「Eランクが……?」
「嘘だろ……」
バーグはしばらくタクミを見つめていた。
やがて、短く息を吐く。
「……にわかには信じがたいが」
「嘘をつく理由もない、か」
そして、口元をわずかに緩めた。
「よくやった」
タクミは首を振る。
「いえ……リナがいてくれたから、戦えました」
「……そうか」
バーグは頷いた。
「いいパーティーだ」
その一言には、確かな重みがあった。
「ゴブリンロード討伐は正式達成とする。報奨金も支払おう」
「それに加えて――ゴブリンキング討伐」
一瞬間を置く。
「こちらについても、相応の報酬を用意する」
周囲がどよめく。
「当然、ランクもそのままというわけにはいかん」
「再査定を行う」
そして、二人を見て言った。
「……だが今日は休め」
「死にかけた顔をしている」
少しだけ、声が柔らぐ。
「明日、また来い」
⸻
ギルドを出ると、外の空気がやけに軽く感じられた。
リナがタクミに微笑む。
「本当にお疲れ様、タクミ」
「リナこそ……」
タクミは苦笑する。
「いいえ」
リナは首を振った。
「あなたがいなかったら、私はあそこで終わっていた」
少しだけ間を置いて、優しく言う。
「本当にありがとう」
タクミは言葉に詰まる。
「……じゃあ、私は宿に戻るわ。また明日、ギルドで」
「ああ。また明日」
リナは背を向け、歩き出す。
その背中を見送りながら――
タクミは、思わず口を開いた。
「……ありがとう、リナ」
リナは振り返り、柔らかく微笑む。
そしてそのまま、去っていった。
⸻
宿に戻った瞬間、どっと疲労が押し寄せた。
ベッドに腰を下ろす。
手に残るのは、折れた短剣。
(……ここまで来れたのは、奇跡みたいなもんだ)
脳裏に蘇る。
ゴブリンキングの圧倒的な速さ。
刃が通らない絶望。
それでも――
(守りたいものがあったから、戦えた)
ゆっくりと息を吐く。
(でも……俺はまだ弱い)
(ラッキーストライクがなかったら、あの時……)
タクミは目を閉じ、そして開いた。
「……確認するか」
意識を向ける。
ステータスが、静かに表示された。
⸻
【タクミ】
Lv.30(+20)
種族:人間
HP:145 → 445
MP:136 → 436
ATK:136 → 436
DEF:136 → 436
SPD:136 → 436
INT:136 → 436
LUCK:999
【スキル】
・ラッキーストライク
・ラッキーステップ
⸻
(数値が……跳ね上がってる)
(体感も、明らかに違う……)
そして、スキル欄に視線を向ける。
(増えてる……)
静かに息を吐いた。
瞼が、重くなる。
そのままベッドに倒れ込み――
意識は、深い闇へと沈んでいった。
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