第17話『戦利と代償』
ゴブリンキングの巨体が、地面に崩れ落ちた。
次の瞬間――
その全身が淡い光に包まれる。
やがて無数の粒子となり、静かに霧散していった。
森の音が、ふっと消える。
「……消えた……」
タクミは折れた短剣を握りしめたまま、膝をついた。
胸の奥が、まだ焼けるように痛む。
「タクミ!」
リナが駆け寄り、その場にしゃがみ込む。
「無事なの……?」
「……なんとか。ギリギリ……」
浅く息を吐いた、その直後――
胸の奥で、何かが弾けた。
「う……ぐッ……!」
思わず地面に手をつく。
心臓が暴れ狂う。
血液が、体中を焼きながら駆け巡るような感覚。
次の瞬間。
頭の中に、あの澄んだ声が響いた。
【レベルアップしました】
【10 → 11】
【レベルアップしました】
【11 → 12】
【レベルアップしました】
【12 → 13】
――止まらない。
【レベルアップしました】
【13 → 14】
【14 → 15】
【15 → 16】
加速する。
【16 → 17】
【17 → 18】
「ぐぁ……ッ!!」
筋肉が膨れ上がる。
骨が軋む。
身体の内側から“作り替えられていく”ような異様な感覚。
視界が歪む。
吐き気がこみ上げる。
【……】
【29 → 30】
「はぁ……ッ……!」
ようやく、止まった。
⸻
「タクミ!? どうしたの、傷が――!?」
リナの声が震える。
「……違う……これは……」
歯を食いしばる。
(レベルが……一気に上がりすぎてる……)
全身を駆け巡る、圧倒的な力。
重さ。硬さ。速さ。
まるで別の身体になったかのような違和感。
(強くなってる……でも……)
(このままじゃ、意識が……!)
必死に意識を繋ぎ止める。
やがて。
燃え盛るようだった苦痛が、ゆっくりと引いていった。
⸻
「タクミ……大丈夫……?」
リナが不安げに覗き込む。
「ああ……なんとか……」
荒い息のまま答える。
「多分……レベルアップ、で……」
「……にしては異常よ」
リナの声は低かった。
「普通は、一気にそんなに上がらないもの」
「……だよな。でも……」
タクミは息を整えながら言う。
「ロードとキング……連戦だったから……かも」
完全に納得はしていない。
だが、それ以上の説明もできなかった。
「とにかく……耐えられた」
ふと視線を落とすと、地面に何かが残っていた。
「……あれは?」
タクミはゆっくりと手を伸ばす。
拾い上げたのは――
黒曜石のように緑黒の結晶。
中心で、赤い光が脈打っている。
まるで“心臓”のように。
「……ゴブリンキングの魔核……」
リナが低く呟いた。
その声には、明確な緊張が混じっている。
結晶の表面には、血管のような赤い紋様。
それが、時折ぎらりと光る。
美しい。
だが同時に、底知れない恐怖を孕んでいた。
「ゴブリンキングの……魔核……?」
「…伝説級のアイテムね」
リナは目を離さずに言う。
「こういうものが存在するという話があるだけで、実際に入手できた話は聞いたことがないわ……」
タクミは魔核をそっと握る。
冷たいのに、奥に微かな熱を感じる。
不気味な感触が、掌に残った。
「……?」
そのとき。
もう一つ、小さな“石”のようなものが目に入った。
(これは……?)
拾い上げた瞬間――
頭の中に、言葉が浮かび上がる。
『森の王の記憶』
「……なんだ、これ……」
「どうしたの?」
「いや……これ、持った瞬間に……」
タクミは眉をひそめる。
「“森の王の記憶”って、頭の中に……」
「でも、何かが見えるわけじゃない」
「貸して」
リナが手を差し出す。
タクミはそれを渡した。
「……何も起きないわね」
「……やっぱりか」
タクミは小さく呟く。
(俺だけ……なのか……?)
(これも……運、なのか……?)
胸の奥に、わずかな違和感が残った。
⸻
「……とりあえず」
タクミは息を吐く。
「倒せた……んだよな……」
リナはその横顔を見つめた。
まだ少年の面影を残す顔。
だがその瞳には、確かな変化が宿っていた。
揺るがない光。
「帰りましょう、街に」
静かに言う。
「……ああ」
タクミは頷いた。
二人は森を後にする。
傷だらけの身体で。
それでも、確かな一歩を踏み出していた。
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