第12話『迫る影』
あれから数週間。
軽めの依頼をいくつもこなし、その合間にリナから短剣術の指導を受ける日々が続いていた。
最初はぎこちなかった動きも、今ではかなり様になっている。
依頼先の農夫に
「最近体つき引き締まってきたな」
と声をかけられたとき、タクミは少しだけ頬が熱くなるのを感じた。
(本当に少しずつだけど、変わってきてる……)
レベルも、気づけば10になっていた。
だがスキル欄にあるのは相変わらずひとつだけ。
《ラッキーステップ》
(結局、発動条件もよく分からないままだけど……)
それでも。
(リナのおかげで、こうして前に進めてる)
ギルドの訓練場。
木製の訓練人形を相手に、タクミは短剣を振る。
踏み込み。
一撃。
すぐに離脱。
リナに教わった動きを繰り返す。
「うん、いい感じ」
声が飛んできた。
リナが腕を組み、穏やかな目で見ている。
「もう基本の動きは身体に入ってるね」
タクミは息を整えながら短剣を納めた。
「ほんと?」
「うん」
リナは軽く頷く。
「ここから先は実戦で慣れるしかない」
(まだまだだけど……)
それでも。
(昨日より今日、少しはマシになってる気がする)
タクミは小さく息を吐いた。
⸻
その日の午後。
二人はギルドの掲示板の前に立っていた。
受付嬢が依頼書を指差す。
「こちらは近郊の森での素材採取依頼です」
「こちらは街道沿いでの魔物討伐依頼になります」
タクミは腕を組み、少し考える。
(どっちがいいかな……)
そのときだった。
ギルドの扉が勢いよく開いた。
バンッ!
「た、助けてくれッ!!」
飛び込んできたのは若い冒険者だった。
服は泥と血にまみれ、息も絶え絶えだ。
その場の空気が一瞬で張り詰める。
受付嬢が慌てて駆け寄った。
「どうしたんですか!?」
冒険者は震える声で叫ぶ。
「ゴブリンだ……!」
「ゴブリンロードに襲われた!」
ギルドがざわめく。
「ゴブリンロードだと……!?」
「この近くで出たのか!?」
「嘘だろ……」
冒険者は必死に続けた。
「仲間が……連れていかれたんだ!」
「頼む……助けてくれ……!」
タクミの心臓が大きく鳴った。
(ゴブリンロード……!)
一ヶ月前の記憶が、鮮明に蘇る。
巨大な体。
圧倒的な威圧感。
そして――
必死に逃げた自分。
(あのときは……何もできなかった)
だが。
今は違う。
タクミは無意識に腰の短剣に手を置いた。
(俺は……)
(もう逃げない)
タクミは横を見る。
「リナ」
リナは険しい表情で冒険者の話を聞いていた。
しばらくして、ちらりとタクミを見る。
「タクミ。どうする?」
一瞬だけ迷いがよぎる。
だが――
すぐに消えた。
「……助けに行きたい」
リナの口元がわずかに緩んだ。
「いい返事」
どこか誇らしそうだった。
リナはすぐに冒険者へ歩み寄る。
「詳しく聞かせて」
ギルドの冒険者たちも、次々と立ち上がり始めていた。
武器を手に取る者。
仲間を呼ぶ者。
ギルドの空気が一気に戦場のものへ変わっていく。
タクミは深く息を吸った。
(怖い)
正直、今でも怖い。
だが。
(あの日の俺じゃない)
腰の短剣を軽く握る。
(今度こそ――)
読んでいただきありがとうございます。
初投稿ですので、ブックマークや評価をいただけると励みになります。
毎日更新予定です。
時間は不定期とさせていただきます。




