第11話『短剣指南』
翌日。
軽めの依頼を終えた二人は、森の外れの開けた場所にいた。
周囲には背の低い草と、まばらな木々。
戦う練習をするにはちょうどいい場所だった。
タクミは短剣を握りしめる。
(ここからだ)
(戦ったことのない俺が、本当に強くなれるかは分からない)
脳裏に浮かぶのは、あの巨大な影。
ゴブリンロード。
(でも、あいつに殺されないためには……やるしかない)
そのとき。
「……少し緊張してる?」
リナがくすっと笑った。
「え、ええ。まあ……少し」
「ふふ」
リナは短剣を肩に担ぐ。
「じゃあ、その前に一つだけ」
「はい?」
「敬語やめて」
「……え?」
タクミは思わず固まった。
「いやいや、いきなり言われても……」
「だって、戦闘中って長い言葉使えないでしょ?」
リナは軽く肩をすくめる。
「『右から来ます!』とか言ってる間に斬られるわよ」
「それは……まあ」
「だから短く」
リナは指を立てた。
「『右!』『下がって!』『今!』」
「そういう感じ」
「それに」
少しだけ笑う。
「敬語だと距離ある感じするし」
「……」
タクミは少し困った顔になる。
(いや、日本人としてこれは……)
相手は命の恩人。
しかも女性。
可愛くてスタイルも抜群…日本にいた時にこんな人を呼び捨てした試しがない。
……ハードルが高すぎる。
「ほら」
リナが覗き込む。
「試しに呼んでみて」
「……」
タクミはしばらく迷った。
だが――
「……リナ」
口に出した瞬間、妙にくすぐったい感じがした。
リナは嬉しそうに笑う。
「うん、それでいい」
「じゃあ改めて」
短剣を抜く。
「始めよっか」
⸻
リナは軽く短剣を構えた。
「まずは構えから」
「短剣はリーチが短い」
「だから距離感が命」
タクミも自己流で構える。
両足を開き、刃を前へ。
だが――
リナはすぐ首を振った。
「ダメ」
「肘が開きすぎ」
「腰も引けてる」
リナは後ろから近づく。
そっとタクミの肘に触れる。
「ここ」
肘を少し閉じる。
次に腰。
「足は半歩前」
「重心は真ん中」
身体を少し押される。
「力抜いて」
「短剣は力で振る武器じゃない」
「動きで当てる武器」
(……なるほど)
さっきより安定している。
「今のが基本」
「これを身体に覚えさせる」
「分かった」
タクミは何度も構え直す。
足幅。
重心。
肘の位置。
(頭では分かってるのに……)
すぐ崩れる。
だがリナは怒らない。
淡々とアドバイスを続ける。
「慣れたら少し速く」
「構え直すとき一拍で決めて」
数十回。
汗がじわりと出てきた。
だが――
ふと。
自然に構えが決まった。
(……お)
さっきより安定している。
胸の奥が少し熱くなる。
「いいね」
リナが頷いた。
「今の感じ」
⸻
「次は視線」
リナが短剣を構える。
「相手の目を見るとフェイントに弱い」
「肩と腰を見る」
「肩と腰……」
リナがゆっくり踏み込む。
タクミは腰を見る。
次の瞬間――
ヒュッ
刃が肩の横で止まった。
「うわっ」
「視線固まりすぎ」
「全体を見る感じ」
「なるほど……」
もう一度。
二度目。
三度目。
何度も刃が肩の前で止まる。
(くそ……)
悔しい。
だが――
少しずつ見えてきた。
四度目。
踏み込み。
タクミは自然に一歩下がる。
刃が空を切った。
リナの動きが止まる。
「……今の良かった」
(よし!)
思わず笑いそうになる。
⸻
「じゃあ次」
リナが地面に円を描いた。
「短剣は一撃離脱」
「突っ込みすぎない」
円の中を滑るように動く。
「前後じゃない」
「横」
「回り込む」
タクミも真似る。
だが足がもつれる。
「視線落ちてる」
「顔上げて」
五回。
十回。
汗が額を流れる。
だが――
少しずつリズムが掴めてきた。
(あ……)
身体が自然に動く。
「うん」
リナが頷く。
「悪くない」
「リズム取れてきた」
タクミは息を吐く。
胸の奥が熱い。
(できてる)
(少しだけど……できてる)
⸻
リナは短剣を納めた。
「今日はここまで」
「初日にしては上出来」
「ほんとか?」
「ほんと」
リナは笑う。
「センスあると思う」
タクミは思わず笑った。
「……ありがと、リナ」
夕日が森を赤く染めていた。
タクミは腰の短剣を見つめる。
(これを続ければ)
(俺はもっと強くなれるかもしれない)
風が静かに森を揺らしていた。
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