表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの日の約束を、同じグラウンドで。〜最強キャッチャーと少女たちの青春ソフトボール〜  作者: ジャスパー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/17

第三話 また会えるから

私は、あの輪の中に入っていけなかった。


 球場の観客通路。落下防止の柵にもたれかかりながら、絢辻未来は小さく息を吐いた。


 ――お疲れ様。

 ――かっこよかった。


 たった一言、それだけでよかったのに。


 あの人に一目会えれば、今日ここへ来た目的の半分は果たせたはずだった。


 それなのに、声をかけられる雰囲気ではなくて。

 二の足を踏んでいる間に、彩音ちゃんが現れて、胡桃ちゃんが乱入して。


 気づけば全部、嵐みたいに過ぎ去っていた。


「なんで私はこんなんなの……」


 自分の行動力のなさが、少しだけ情けない。恭くんがこの場所に来るなんて、そう何度もある機会じゃないのに。


 想いを伝えられなくても――せめて、言葉を交わしたかった。


「今の未来ちゃんの可愛い容姿を見せて、手でも繋いだらもしかしたら一目惚れしてくれるかもしれない。いや……既に会っているんだから一目惚れという表現は不適格かな?」


「――瑠衣ちゃん。来てたの?」


「今朝、気が変わってね。爺様に連れてきてもらったんだよ」


 二階堂瑠衣。

 ボーイッシュな口調と、小学五年生とは思えないスターのような雰囲気。チームメイトで、クラスメイトで、そして幼い頃からの親友。


 昨日は誘っても首を縦に振らなかったのに――この子の気まぐれは、今に始まったことではない。


「……まあ、私が可愛いのは間違いないけど」


 未来は自分の手のひらを見つめる。


 素振りでできたマメ。硬くなった皮膚。

 女の子の手とは、とても言えない、ごつごつした感触。


「手なんて繋いだら……幻滅されちゃうよ。女の子らしくない、もん」


 努力の証だと分かっている。

 誇りに思うべきものだとも思う。


 それでも――好きな男の子に、積極的に見せたいものではなかった。


「それに……」


「それに?」


 未来は小さく笑う。


「彩音ちゃんの言うことじゃないけどさ。このままソフトボール続けてたら、頑張ってたら……また会えるんじゃないかなって」


 柵の向こうに広がるグラウンドを見つめる。


「そんな予感がするの」


 瑠衣は静かに未来を見つめた。


「……君らしくもないね」


「え?」


「もし二度と会えなかったらどうするの。ボクは君の後悔なんて聞きたくないよ」


 本当は、ただ勇気が出ないだけの言い訳なのかもしれない。


 それでも。


 今の恭の、壊れかけた心にこれ以上負担をかけたくない――そんな気持ちもあった。


 未来は小さく息を吸い、そして言った。


「――また会えるから。大丈夫」


 何年先でもいい。


 もしかしたら、あの人が約束を果たしてくれるその日かもしれない。


 それでも――


 お互いがこの道を全力で走り続ければ、きっとまた交わる。


 そんな確信にも似た想いが、胸の奥に灯っていた。


 だから。


 この時の未来は、まだ知らなかった。


 半月後、自分の運命が大きく動くことになるなんて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ