9 失態
「それでは私はこれで……」
ネネは私をお風呂に入れて洗ってくれて、良い香りのオイルを体全身につけてくれた。
一人になってベッドの端に座った。
寝間着が、やけにフリルがついていて薄くて私の好みと合わない。
ネネは私の好みを知っているはずなのに。
私は上にガウンを羽織った。
それに連れてこられたのは、休んでいた部屋と違った。
やけに薄暗くて、良い香りがする。何かのフレグランスだろうか?
ベッドも一人で眠るには広い、ダブルベッドだ。
「……? あっ!?」
さすがに私も気が付いた。
結婚式をして夫となる人の屋敷にやってきた。
それは……。
トントン……。
静かにドアが叩かれた。
私はベッドの上でビクン! と驚いて体が強張った。
「はい」
返事をすると、カチャ……とドアが開かれた。
ドアが開かれて入って来たのは、お風呂上がりらしい辺境伯……。
ゼイン様だった。
髪の毛が濡れたままなのか、頭にタオルを乗せていた。
寝間着の上にガウンを着ていた。
「……体調は大丈夫か?」
薄暗い部屋でお風呂から出たばかりのゼイン様を見ると、寝間着の隙間から逞しい胸元が見えた。
妙に心臓が忙しなく動いている。
「は、はい」
うつむいていると、ゼイン様がベッド横の椅子に座った。
濡れた髪の毛をタオルでガシガシと拭いていた。
短髪なので私と違って、すぐに乾いたようだ。
羨ましくて見ていたら、こちらに気が付いた。
「果実酒だが飲むか? これは、アルコール度数が低い」
ゼイン様は、ワイングラスに果実酒を注いだ。
アルコール度数が低いなら私にも飲めるだろう。
「飲みたいです」
少し喉が渇いていた。
多少お酒を飲んだ方が、言いにくいことも言えるだろう。
ワイングラスを受け取った。
ゼイン様は椅子に座って脚を組んで、もう一つのワイングラスにたっぷりと果実酒を注いだ。
何も言わずに、ゴクゴクと水を飲むように飲んでいる。
「いただきます……」
私はワイングラスに口をつけて、ちびちびと飲んだ。
甘くて美味しい。
アルコール度数が低いと聞いたので、グビグビと飲んだ。
「あっ! ちょっと待て……!」
甘くて美味しかったので、一気に飲んだ。
ふう……。
カラになったワイングラスをテーブルに置いた。
お話しするのは今かも……。
そう思ってゼイン様を見た。
「酒に弱いのに、一気に飲んで大丈夫か!」
焦ったようにゼイン様が私に近寄ってきた。
あれ? 顔が熱いのは気のせい?
「……水を飲め」
枕元の近くにあるテーブルから、水の入ったピッチャーとコップを持ってきたのが見えた。
コップに水を注いでいるのが見えた。
「ゼイン様、お話があります」
ベッドの端に座ったまま、姿勢を正してゼイン様をみつめた。
水の入ったコップを持ったまま、ゼイン様は私を鋭い目つきで見た。
怖かったけれど、言わなければゼイン様が気の毒だ。
意を決して伝える。
「ゼイン様は『女性がお嫌い』と噂で聞きました」
自分の手を握りしめる。
「……それは」
ゼイン様は突然の私のお話に、動揺しているようだ。
コップをテーブルに置いた。
「私達の結婚は、王命。離縁は出来ませんが、ゼイン様は私を愛するのは無理でしょう」
「は?」
図星だったのか、ゼイン様は驚いている。
「無理に愛して下さらなくても結構ですわ。贅沢は致しません。ただ申し訳ございませんが、衣食住だけは……お願いいたします。お屋敷の端にでも置いて頂ければ……」
話し終える前に、カツ! カツ! と速足で歩いて、ポスン! とベッドに座っている私の横へ座った。
「グラシア」
「えっ」
両肩を強い力で掴まれた。少し痛い。
「噂は……!」
肩を掴まれて体を揺すられた。
顔を見ると、真剣に何かを伝えたいような感じだった。
「? 何だか……。ふわふわ……、するわ……」
ふわふわとして目が回るような……。
「グラシア、水を飲むんだ」
ハッ! としたように、ゼイン様は言った。
焦ったようにコップを手に取って、私に水を飲ませようとした。
「王命だから、こんな女らしくない私と……仕方なく結婚なさったのは、お気の毒で……」
あれ? なぜか涙が……。
「王太子も、誰にも相手にされず、王妃候補にならなくて良かったと……笑っていて」
私……。やっぱり悲しかったのかしら……。
「何だと? 王太子が?」
ゾクリ……! 殺気を放ったゼイン様は怖い……!
ポロポロと、涙がとまらなく落ちていく。
私、こんなに泣き虫だったかしら?
「泣くな……」
ゼイン様の声が聞こえて、目尻の涙が拭われた。
優しい低い声に、温かい気持ちになった。
「グラシア?」
やだ。体に力が入らない……。
お酒を一気飲みしたせいかしら……?
あれ? ――唇から水が口の中へ流れてきている。
よくわからないけれど、喉が渇いているので有難く飲み込んでいく。
お酒に酔ってしまったのだろうか? 動けない。
「グラシア、水を飲むんだ」
力強くて優しいゼイン様の声。耳に心地よい。
「ん、んぐ」
次から次と口の中へ少量の水が入ってくる。
こぼさぬ様に一生懸命に、飲んだ。
「いいぞ。もっと飲むんだ」
ぷはっ!
息が苦しい。なぜ……?
「鼻で呼吸するんだ」
ゼイン様の声を聞きながら、まぶたが重くなって耐えられなかった。
眠っては、だめ……。
お酒で酔った体はいうことを聞かず、私は二度もゼイン様の前で気を失ってしまった。




