7 疲労から回復 宴へ
「ん……」
なんだかぐっすりと眠ったみたい。
最近引継ぎや準備で忙しく、あまり眠れてなかった。
でも体が、だるい。
「え? ここは……」
見慣れぬ天井。
視線を横に向けると大きな窓。
ここは私の部屋ではない。
「目を覚ましたか」
すぐ近くで男性の声が聞こえたので、驚いて顔を向けた。
「……急に動くな」
横になっているすぐそばで、椅子に座っていたのは……。
「エンスタタイト辺境伯様……」
起き上がろうとした私を、手で制した。
「昨日、エンスタタイトの深い森で倒れた。過労だそうだ。ゆっくり寝ていろ」
そう言い、椅子から立ち上がって部屋から出ていこうとした。
「あの……。ここは、どこでしょうか?」
上半身だけ起き上がって、エンスタタイト辺境伯へ聞いた。
「ここはエンスタタイトの屋敷だ。……お前がこれから住む、屋敷でもある」
振り返って答えてくれた。
「あ……、ありがとう御座います」
頭を下げて礼を述べた。
「いや。加勢に来てくれて助かった。礼を言う」
ジッと私を見ながら、礼を言ってくれた。
「顔色がまだ悪い。ゆっくり休んでくれ。……メイドを呼んでくる」
不愛想だけど、私を気遣ってくれた。
辺境伯が部屋から出ていって、改めて部屋の中をぐるりとベッドの上から見てみた。
「……素敵な部屋」
優しい色合いの壁紙に、落ち着いた色の高級そうな家具。
窓が大きく日当たりの良い部屋。
寝具も上等なものだ。
客間にしては、上等な部屋。
エンスタタイトの屋敷……。
『……お前がこれから住む、屋敷でもある』
辺境伯様はそう言ってくれた。
一応、住むことは許してくれているようだ。
トントン。
ドアが叩かれて「グラシア様、失礼します」とメイドのネネが部屋へ入ってきた。
「ネネ。この屋敷に着いていたのね」
後から来てとネネに言った。
「はい。昨日、護衛さん達とお屋敷に着きました。体調はいかがですか?」
ネネの笑顔を見て安心した。
「……ちょっと疲れたみたい」
動けないほどではないけれど、体がだるい。
「過労だそうで、辺境伯様がゆっくり休むようにと、おっしゃられていました」
「そう……」
思ってたより私のことを気遣ってくれている。
「グラシア様、果実水をお飲みになりますか?」
ネネに言われて喉が渇いているのに気が付いた。
「いただくわ」
コップに果実水を入れてもらって受け取った。
やはり喉が渇いていたようで一気に飲んだ。
「昨日、グラシア様が倒れたときに、辺境伯様が抱きあげてお運びになられたと聞きました!」
「え」
辺境伯が私を?
「大事に抱きあげて、運んだと聞きました」
ネネはニコニコと微笑んで私に教えた。
かなり脚色されて聞いたのね……と私は思った。
「目の前で倒れたら、誰でも運ぶでしょう?」
美味しかったので二杯目の果実水を、コップに入れてもらって飲んだ。
「部下が代わりに運ぼうと声をかけたけれど、辺境伯様が『俺が運ぶ』と言ったそうですよ」
ゴクン……。
咳き込みそうになった。女嫌いなのに抱きあげるなんて。……本当かしら?
「夕食まで、お休みになられると良いですわ」
「え、でも……」
ネネは私を横に寝かせて肩まで寝具をかけた。
「辺境伯様に申し付けられましたので、大丈夫ですよ」
まだ体がだるいので、大人しく休むことにした。
「わかったわ……」
ため息をついてまぶたを閉じた。
夕食まで休んで、起きられるようにしないといけない。
「では夕食前に来ますね」
ネネは部屋から出ていった。
この部屋は何かいい香りがする。
花の香りだろうか?
私は疲れていたようで、また眠ってしまった。
「……グラシア様。グラシア様」
「あ……」
呼ばれて目が覚めた。
大きな窓の外は日が傾いており、夕方になったと気が付いた。
「もう夕方かしら?」
上半身を起こして私はネネに聞いた。
「ご気分はいかがですか?」
心配そうな顔をしたネネ。呼びに来てくれたようだ。
「……もう大丈夫よ」
ゆっくり休んだので体のだるさは取れたようだ。
「ではお支度いたしますね。夕食は召しあがれそうですか?」
少し考える。
「そうね。大丈夫そうよ」
強いお酒など飲まなければ大丈夫だろう。
私はベッドから降りてネネに支度をしてもらった。
「今日は宴と聞きました。ドレスアップして参りましょうね」
ネネが機嫌よく教えてくれた。
宴? 何かお祝い事でもあるのだろうか。
ネネは張り切って私を着飾ってくれた。
「辺境伯からの贈られたアクセサリーを身につけましょうね」
ネネが私の胸にネックレスを着けてくれた。
「さあ、行きましょうか。皆さん、もう飲んでいるらしいですよ」
飲んでいる? お酒?
その時、トントンとドアが叩かれた。
「はい」
私は返事をした。
「グラシア様。宴の用意が出来ております。お迎えに参りました」
ネネがドアを開けると女性の騎士らしき人が立っていた。
迎えに来たようだ。
女性の騎士さんに案内されて、宴の会場に歩いて向かった。
お屋敷……、というよりは頑丈な要塞のようだ。お城くらいの広さと大きさ。
岩で作られている壁や床。長く続く廊下には松明が灯されている。
今まで住んでいた屋敷と違う建物。
「凄いわ……。頑丈な作りなのね。これなら壊される心配がないわね」
私が好奇心いっぱいで、お城の壁や床を見ながら歩いていると女性騎士が話しかけてきた。
「もしも魔物が街まで侵入してきた場合、ここが最終的な避難場所になります」
ここが最終的な避難場所……。
「名乗りが遅れました。奥様付きの、お世話兼護衛のエルサと申します」
深く私に礼をした。
「エンスタタイト辺境伯様から直々に、任命されました」
「辺境伯様が?」
私のために?
「皆が奥様をお待ちになっていますよ! 急ぎましょう」
エルサは宴の会場の扉を、勢いよく開けた。




