6 加勢
森を抜けてエンスタタイト領へ入った。
領民の姿は見当たらない。どこかへ避難しているのだろう。
しばらく馬を走らせていると大きな屋敷が見えてきた。
屋敷というよりも……、要塞のようなお城だった。
見えているのがたぶん、辺境伯の住むお城なのだろう。
街中は石畳の道で、お店や家も少しの衝撃では壊れないような頑丈な石で造られていた。
魔物が多く現れるエンスタタイト領ならではなのだろう。
ほとんどのお店や家の窓際に、赤い可愛らしい花が飾られていて気になった。
街中を走り抜けて、次の森へたどり着けた。
「この辺で降りよう」
降りて、走り続けてきた馬たちを休ませる。
森に入る前のこの場所は、馬たちの好む草が生えており近くに川もある。
「よしよし。ここで休んでいてね」
走り続けた馬を撫でて休ませた。
「私達も小休憩をして、森の中へ入りましょう」
「はいっ!」
皆で、水や軽食を食べて体力を回復させた。
「こっちは強い魔物が出る森、なのですよね?」
部下の女性騎士のカイヤが、水を飲んで私に話しかけてきた。
「そうよ。かなり強いから油断しないで。一体の魔物に対して、数人で戦うように」
「「はい!」」
回復ポーションやその他支援物資が入ったリュックサックを背負って、森の中へ入った。
森を無言で仲間たちと進んで行くと、エンスタタイトの騎士たちが戦っていた。
騎士というよりも兵士に近い装備で、対魔物戦闘に特化していた。
「負傷者は下がれっ――! 歩けない者に手を貸してやれ!」
魔物はワイバーン。
暴れまわってエンスタタイトの騎士たちは手こずっているようだ。
「ん!? なんだお前たちは!? 危ないから下がっていろ!」
隊長らしい男性が、私達の姿をみつけて怒鳴ってきた。
息を吸って大声で隊長に話しかけた。
「私はエンスタタイト辺境伯の妻となった、グラシア・エンスタタイト! 加勢いたします!!」
隊長の前ではワイバーンと戦っている騎士がいる。
隊長は驚いた顔をしていた。
「辺境伯夫人!? 何でこんな所に……?」
隊長が驚いていたが、私は部下へけが人を助けるように指示を出した。
けが人の腕を肩にまわして離れた所へ。
リュックサックには、ポーションや医療品が入っている。
カイヤは医師でもあるのでケガを診てもらう。
地面にケガをして座っている何人かを後方へ連れて行き、手当をさせた。
残りの部下と私は前に出て、隊長の指示を待った。
「……やる気なら、ケガのないように! 前後、交代で攻撃をする」
「了解です!」
隊長が中心になって攻撃をして左右二人ずつ、隙を見て攻撃をしているようだ。
私達は後ろに並んで交代の時を待った。
「交代するぞ!」
しばらくワイバーンへダメージを与えて、休む。そんな戦法だった。
人数が少ない時に交代してダメージを与えつつ、戦う者も休める長期戦に有利な戦い方だった。
「行くよ!」
「はいっ!」
エンスタタイトの騎士たちは、後ろに下がって汗を拭っていた。
座り込み肩を上下して息をはいていた。
私達はここへ来たばかり。まだ体力は残っている。
私の部下たちは確実にワイバーンを追い詰めていた。
ワイバーンもだんだん弱ってきているのを感じた。
何度か剣で切り刻んでいるうちに、ワイバーンは首を下へ向けた。
「はあっ!」
飛び上がって、ワイバーンの首を一刀両断した。
「おお――――!!」
周りから歓声が聞こえた。
「殺った……?」
はあはあ……と荒い息をはいた。
終わったかと思って、構えを解いた。……辺りは血生臭さかった。
「グラシア様! 後ろ!」
「え?」
部下の声で振り向いた。
スローモーションのように、私めがけて狼の魔獣が飛びかかっているのが見えた。
「危ないっ!」
隊長の声がした。
剣を構え直そうとしたけれど、間に合わない……!
腕で顔を庇って、咄嗟に目を閉じた。
ギャウン!
魔獣の鳴き声がして、ドサリ……! と地面に何かが落ちる音がした。
え? 何が起こったの……?
牙に引き裂かれるのを覚悟していたが、いつまでも痛みがなかった。
腕を下ろしてまぶたを開けると、地面に狼の魔獣が転がっていた。
「倒れている……?」
ハッ! と目の前に大柄の男性が血まみれで立っていた。
「ゼイン様!」
「来て下さった!」
「ご無事で!」
エンスタタイトの騎士たちは次々と、血まみれの男性に声をかけた。
「お怪我はありませんか!?」
血まみれだけど辺境伯様のケガではなく、返り血だと言った。
「エンスタタイト辺境伯様……」
私も連れてきた部下も、ワイバーンとも長い戦闘で疲労していた。
エンスタタイト辺境伯は私と部下の姿をみて驚いていた。
「なぜここに……!?」
やっぱり迷惑だったかしら……?
こんな貴婦人らしくない私は『ふさわしくない』とまた、言われてしまうのだろうか?
足に力が入らなくなって、ふらりとよろめいた。
昨日はよく眠れなかったし、結婚式はきついドレスに食事をロクにしていなかったし、全速力で馬を走らせてきたし……。
限界かも……。
「グラシア様!?」
部下の声が遠くに聞こえた。目の前が真っ暗になって私はまぶたを閉じた。
でも地面に倒れた衝撃はなく、ふわりと誰かにさせられた感触があった。
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