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準備で忙しく過ごしているうち、あっという間に結婚式の日が近くなってしまった。
何回か家に訪ねて来てくれたけれど、どちらかと言うと兄と仕事の話をしている方が多かった。
「グラシア様! 辺境伯様は、男色……なのでは?」
「えっ?」
嫁ぎ先までついてきてくれることになったメイドのネネが、コッソリ私に言った。
私は休憩をして、お庭でお茶を楽しんでいた。
「……まさか」
辺境伯は女性嫌い。でも……と思いながら、そうなの? と考えた。
だとしたら、それを隠すために私との結婚を了承したのかしら?
「そのようなことを、他の方に話さないようにね」
念のために、ネネには口止めをしておいた。
「はい……」
それならば。
私は辺境伯様の秘密を、理解してあげなくてはならない。
騎士団に居たときも、そのような話は聞いたことがあった。
それに……。
私のような剣の稽古でマメだらけの硬い手と、傷だらけの体の女性はどの男性でも好みではないだろう。
それでも形だけでも娶ってくれるのならば、もうすぐ結婚する一番上の兄のお荷物にならなくて済むだろう。
兄のお嫁さんがいくら良い人でも、小姑はいない方がいい。
「グラシア様……」
「ネネ、心配しないで。私はうまく辺境伯様とやっていくつもりだから」
ネネのぎゅっと強く握っていた手を、手のひらで包んであげた。
「ね?」
私は微笑んでみせた。
不安がないわけじゃない。
でも王命に従わないといけない。
私は魔物を討伐する前のような覚悟で、辺境へ行く準備を進めた。
クリスタ王国 王都で、先にエンスタタイト辺境伯と結婚式を挙げた。
両親はもちろん、近衛騎士の部下たちやお友達、国王様や王族関係者たちまでも結婚式へ参列することになった。
辺境伯の親族も参列していたが、辺境を守るために少人数だけの参列だった。
「グラシア様……、お綺麗です!」
近衛騎士の仲間達にそう言われて安心した。
永遠の愛を誓う神様の像の前で、エンスタタイト辺境伯は白い正装で私の隣に立っていた。
じっと私を見つめて何か言いたそうだったけれど、私語禁止の神様の像の前だったから何も言えなかった。
「ゼイン・エンスタタイト。妻となるグラシア・ラズライトを、永遠に愛すると誓いますか?」
神父さんが辺境伯様へ問う。
「はい」
辺境伯の迷いのない返事。
「グラシア・ラズライト。ゼイン・エンスタタイトに永遠の愛を誓うか?」
「……はい」
「これにて二人は夫婦となり……「大変です――! ゼイン様!!」」
神父さんの言葉を遮って中へ入って来たのは、服装から見てエンスタタイト辺境の者らしい。
教会に参列していた者達は、驚いてざわついた。
「神の前で無礼な!」
そんな声を上げる者もいた。
中へ入ってきたエンスタタイト辺境の者は、だいぶ急いで来たらしい。
緊急の知らせだろうか?
「エンスタタイト辺境の方ですか? 緊急のお知らせなら、こちらまでいらして下さい!」
私は顔を隠していたベールを上げて、急いでいるようなエンスタタイト辺境の者に声をかけた。
ざわざわと参列者に動揺が走ったが、緊急のお知らせなのようなのでそちらを優先する。
「式の途中なのに、申し訳ございません!」
ひざまつき、頭を下げた。
立ち上がり、真っ直ぐに私達のいる近くまで駆け寄ってきた。
「何があった?」
辺境伯も知らせに来た使者の焦りと急いでいる様子から、ただ事ではないと察した。
「はっ! 申し上げます! 国境を越えてきた賊と、魔物が北側と東から襲撃してきました!」
「なんだと!?」
二方向から!?
私は辺境伯を見た。辺境伯は私を見て一瞬、判断に迷ったようだ。
「エンスタタイト辺境伯! 私にかまわず、行ってください!」
驚いていた顔をしていたが頷いて、引き締まった顔になった。
「陛下! ご判断を!」
オロオロとした参列者の中に居た、陛下へ声をかけた。
「う、うむ! ……直ちに騎士団を呼び出して状況を整理し、辺境伯とともに向かえ!」
「はいっ!」
「直ちに式を中止にし、それぞれの持ち場に戻れ!」
王太子の大きな声にそれぞれが教会を後にした。
「では、行ってくる」
辺境伯は死者の話を聞いて状況をまとめていた。
「はい。お気をつけて下さいませ」
私は頷いて返事をした。
まさか式の途中で、辺境伯様を送ることになるなんて。
「誓いの……、だ」
「え……? ん!」
顎に優しく指を添えられて、唇に少し硬い何かが触れた。
するりと親指で目尻を触れられた。
名残惜しいかのように私をみつめて、使者の方と行ってしまった。
「え」
私は突然のことで、呆然と立ち尽くしてしまった。
今のは……。
『誓いの……、キスだ』
そう私の耳元に残していった。
口元を両手で隠して叫びそうになった。
『わ、私の……。ファーストキス……!』
ずっと剣を上手になりたくて、一生懸命に訓練していた。
付き合った男性などいなくて……。
「まあ! グラシア様、お顔が真っ赤ですよ? どうしました?」
ネネが、立ち尽くしていた私の側へ来てくれた。
「な、何でもないわ」
まさかこの年齢になって、初キスなんて知られたくなかった。
「そうですか? お式が中止になって残念でしたが、着替えに帰りましょう」
ネネは優しくそう言ってくれた。
「ええ」
私も急いで着替えなければ。
夫となったエンスタタイト辺境伯の後を追うつもり。
両親に知られると止められるので、内密に進めなければならない。
「急ぎましょう!」
私はウエディングドレスの裾を持って、速足で教会から出た。




