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血みどろ冷酷・女嫌いの辺境伯の元へ王命で嫁がされたけど、もしかして溺愛されています?  作者: 青佐厘音


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  私には二人の兄がいる。

 一番上の兄はもうすぐ侯爵家を継ぐ予定で、すぐ上のカイン兄さまはお城の騎士だ。

 カイン兄さまに連れて行ってもらった騎士団の訓練を見学して、私もあんな風に強くなりたいと憧れた。

 

 それからカイン兄さまにお願いして剣の訓練をしてもらったり、魔物狩りに連れて行ってもらって強くなった。

 念願の騎士団に入れて、辛い訓練に耐えて王女様付きの近衛騎士になれた。


 十二歳だった第三王女 リシア様は、まだお若かったけれど聡明な方でお守りできることが誇らしかった。

 やっと三年目。

 王族をお守りするという大役に、お褒めをいただいていたところだったのに……。


 

 お城の私室からアズライト侯爵家に帰ってみると、家族が待っていてくれた。

 「すまない、グラシア。……私でも取り消せなかった」

 父は、陛下や家臣から婚約者へと打診されていたそうだ。

 ちょうど釣り合いの取れる御令嬢が、私以外いなかったという。

 

 アズライト侯爵家の力を半減したい一派の、力だと思った。

 やつれた父と母の表情を見て、どうにか取り消せないかと頑張ってくれていたようだ。

 

 「お父様、お母さま。私の知らぬところで、ご迷惑をおかけいたしました」

 父と母に頭を下げてお礼を言った。

 「そんな……。頭を上げなさい」


 私のわがままで反対を押し切って、騎士になった。

 この国の女性は、大人しい淑女として育てられる。それが当たり前だった。

 私は騎士として出世し、第三王女の近衛騎士までなれた。

 上の兄も騎士団の副団長。

 これ以上、アズライト侯爵家の力をつけてはいけないと反発する一派が動いたのだろう。


 過酷な魔物が出現する辺境なら、か弱い令嬢はすぐに逃げ帰ってくるだろう……と考えたのか。

 嫁に逃げられた辺境伯と、逃げ帰ってきた令嬢。

 名誉も貶めるようだ。


 「……断ってもいいのよ」

 「お母さま!」

 王命に従わないのは重罪だ。謀反を企んでいると言いがかりをつけられたら、まずいことになる。

 行動ひとつで足をすくわれる。


 「私は王命に従います」

 「グラシア……!」

 お母さまは泣き崩れてしまった。父や兄さまも悲しげな顔をしていた。

 「心配しないで。私は大丈夫だから」

 精一杯、微笑んでみせた。



 貴族の結婚式は、早くても半年から一年の期間に準備をして結婚をする。

 婚約期間の方が長い。

 でも私の場合は、婚約期間も結婚の準備も短かった。


 「グラシア。いなくなるのは寂しいわ」

 第三王女のリシア様と離れるのは私も寂しい。

 「辺境の地で、リシア様のお幸せを祈りますね。お元気で」

 私がそう言うと、泣きそうな顔の王女様は何度も頷いた。



 「やっと邪魔な、アズライト侯爵家の令嬢を第三王女から離せたな」

 お城の廊下を歩いていて、私の名前が聞こえたのでつい隠れてしまった。

 騎士団の男性二人が、歩きながら話している。

 「まったく。女のくせに、生意気なんだ」


 笑いながら、私を名指しで悪口を話していた。

 「ちょっとふざけて女性騎士を部屋に連れ込んだら、あいつに邪魔されて」

 「連れ込んだのは、お前より身分の低い女性騎士だろう? 悪いやつだな、お前」

 下品な笑いを二人でした。


 「みんなやってるじゃん。何度か邪魔されたからな――。いなくなるのは清々する」

 「だな。目障りだからな」

 ハハハハハ……! と笑いながら通り過ぎていった。


 いつものこと。

 騎士団に入ってからは、こんな悪口は日常茶飯事だった。

 危ない目には何度もあった。

 

 婚約が決まった後。

 部下とお城の中を歩いていたとき、この国の王太子様が前からいらっしゃったのに気が付いた。

 私と近衛騎士の何人か廊下の壁際に寄って、頭を下げて通り過ぎるのを待っていた。

 「ん? アズライト侯爵令嬢ではないか。……辺境伯の婚約者へ決まったのは、良かったでないか」

 いきなり話しかけてきたと思えば、馬鹿にしたような言い方だった。

 

 「誰も相手にされず、私の王妃にでもされたら困る所だったから良かったよ」

 ふん! っと鼻で笑った。

 お付きの護衛たちも笑っていた。


 通り過ぎてから、部下たちが王太子と護衛たちの態度を怒ってくれたけれど。

 この国の女性は本当にお淑やかでなければ、このように馬鹿にされてしまう。

 王族でさえ、だ。

 私は、深いため息をついた。


 

 婚約が決まった後、辺境伯は一度領地に帰った。

 魔物や隙あれば攻めてくる好戦的な隣国の脅威から、守らなくてはならない。


 それでも一週間後に私の家(アズライト侯爵家)へ、挨拶に来てくれるというお知らせをいただいた。

 辺境伯と、この間(血みどろの姿だったけれど)初めてお会いしたばかりなのでお話が出来たらいいなと思った。


 「グラシア様。いつでも待っていますから!」

 部下たちに言われたけれど、一度近衛騎士の座を降りたらもう戻れないと思う。

 それでも泣きながら私を慕ってくれる部下たちの言葉は、生涯忘れられないだろう。

 「ありがとう」

 

 第三王女様に引き留められたけれど、続けることはもう無理だろう。

 そうして私は、王女様の近衛騎士から辞することになった。

 その地位になるまでは大変だったけれど、辞めるときはこんなに簡単だったのかと虚しさを感じた。



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