17 愛の告白 END
「俺が十歳の頃。王家主催のパーティーに両親と参加した時のことだ」
王家主催のパーティー?
「あまりに化粧と香水の香りが酷くて、バルコニーへ出た。人のうわべだけの会話にも、気持ち悪さを覚えた」
子供から見ても、それは感じてしまう。大人になっても慣れない。
「その時に、ハンカチを貸してくれた女の子がいた」
私はゼイン様の話を聞いていた。
「名前を聞こうとしたが、お兄さんが呼びに来て名前を聞けなかった」
「でもお兄さんが、その女の子のことを『シア』と呼んだ」
シア? わたしの愛称だけど……。
「……私ではないかも」
それだけでは他の女の子と間違っているかもしれない。
「これを」
ゼイン様は胸ポケットから何かを取り出した。
「あの日、貸してもらったハンカチだ」
手に渡されたハンカチを見た。
「あっ」
それは私が、初めて刺繍の練習をしたハンカチだった。
「エンスタタイト家の紋章の鷹が刺繍されている。毎日襲って来る魔物や魔獣と戦いながら、このハンカチを見て励まされた」
そっとハンカチごと手を握られた。
「初めて刺繍をしたハンカチなので、下手くそで……」
でも鷹がカッコイイと思って、一生懸命教えてもらいながら刺繍をした。
「そんなことはない。一生懸命に刺繍をしたのだろう?」
ゼイン様は、一生懸命に刺繡をしたことをわかってくれた。
「そうです」
「君を探したけれど見つからなかった。王命を受けて、君が隣へひざまついた時にあの女の子と気が付いた」
握られた手が熱い。
そんなときから私を探してくれていたなんて、嬉しい。
「グラシア」
「はい」
私を真っ直ぐに見てくれた。
私の視線はきつくて強いらしく、すぐに反らされていた。
ちゃんと向き合ってくれているようで、とても好き。――好き?
精悍なお顔のゼイン様。
王都では怖い顔と言われていたけれど、私はそう思わない。
見つめられると、絡めとらえられたように視線を離せなくなる。
「俺は女嫌いと噂されているが、グラシアは別だ」
握っていた手を離して、両手で私の頬を包んだ。
『ええええ!? ゼイン様の大きな手で、頬を包まれている!?』
男性にそんなことをされたことがないので心臓が早鐘を打っている。
「……口下手で、言いたいことがうまく言えなかった」
「ゼイン様……」
「愛している。グラシア、君が俺の結婚相手で良かった」
聞き違いだろうか? 愛していると言われたような……。
「……もう一度、おっしゃって下さいませんか?」
まさか、ゼイン様が私のことを?
「何度でも、グラシアだけには言おう。――愛している」
「――!」
聞き違いではなかった!
ゼイン様が私を?
「君が……、俺を好きになることは難しいかもしれない。だが俺はずっと君を待っている」
情熱的な、まなざし。
家族以外の男性に触れられると鳥肌が立っていたけれど、ゼイン様に触れられても大丈夫だった。
逞しい手に触られて、心地よくて。うっとりとしてしまう。
「待たなくとも良いですわ」
「え?」
初めて男性に伝える言葉。
心臓の音がうるさいくらいに鳴っている。
「……私もゼイン様が、好きです」
「その……。まだお会いして間もないですけれど……」
恥ずかしくて、目を逸らした。
「ゼイン様の私に対する優しさ、領地の人々や部下のことを想っている領主としてのゼイン様。魔物や魔獣と戦う騎士としてのお姿や逞しい筋肉……。好きになってしまいました」
たぶん顔が真っ赤になっているだろう。恥ずかしい。
「グラシア」
反らしていた目をゼイン様に向けた。
「キスを……、してもいいだろうか?」
部屋には私とゼイン様だけ。
私達は夫婦になったのだから、してもおかしくない。
「は、はい」
確認してくださるゼイン様は優しい。
「もう夫婦なので、人前ではなければお伺いなさらなくても大丈夫です……わ」
ゼイン様は一瞬、目を大きく開いた。
そしてより近づいて、うっとりするような色気を醸しだした。
「グラシア。一度言ったことはもう、取り消させない」
「んっ!?」
噛みつかれるような勢いで、唇を塞がれた。
結婚式でされたキスとは大違いだった。
「ゼイン様、息が……」
はあ、はあ……と息が苦しかった。
外されたタイミングで息を吸い込んだ。
「鼻で、息を吸うんだ」
「ちょっとお待ちになっ……、んん!」
頭が、とろけるようだった。
いつの間にかゼイン様に抱きしめられていた。
「可愛いな」
ゼイン様はそう言って微笑んだ。
可愛い? 私のことだろうか?
今まで正反対のことを言われてきた。
可愛くない女。生意気な令嬢。誰も嫁にしたくない。
じんわりとゼイン様の言葉が、私にしみ込んでいく。
私は、この抱きしめてくれているゼイン様の腕の中に居て良いのか。
私も腕を背中にまわして、ゼイン様を抱きしめた。
包まれている、この感じが心地よい……。
服越しでもわかる背中の僧帽筋・広背筋の他、素晴らしく鍛えていて硬い。
「……グラシアは、筋肉が好きなのか?」
私は無意識に、ゼイン様の背中を撫でまわしていたようだ。
「えっ!? あっ! 申し訳ございません! つい……」
「君ならかまわない。でも他の騎士の筋肉は触っては駄目だ」
ギュッと力を込めて抱きしめられた。
やきもち……だろうか? 拗ねたような声が可愛い。
「ゼイン様、だけです。キャッ!」
抱きしめられて、また抱きあげられた。
今度はお姫様抱っこではなくて、背中と太ももの下を持たれた子供抱っこだった。
私を軽々と持ち上げた姿に、ときめいてしまう。
「……これ以上、望んでもいいか?」
顔と顔が触れ合いそうな距離で言われた。
「……はい」
そのあとは、とても情熱的にゼイン様から愛を受け取った。
次の日のお昼を過ぎても部屋から出てこなかったので、皆に心配をかけてしまった。
ゼイン様は、ネネや側近の方にきつく叱られた。
あの夜は、ゼイン様とたくさん話し合った。
あまり眠らず、私は体が怠かったけれど幸せを感じている。
これからも私はゼイン様とこのエンスタタイト領地で一緒に、魔物や魔獣と戦っていくだろう。
王命だった結婚だが、私は幸せだ。
そして私は、ゼイン様と皆を幸せにしていきたいと思う。
血みどろになろうが、私はここで生きていきたい。
ゼイン様と一緒に――。
これで本編完結です。
読んでくださってありがとう御座いました。




