15 傍若無人
「グラシア様! 大丈夫ですか!?」
エルサと他のメイドさん達が心配して、駆け寄ってきてくれた。
「ええ。大丈夫だけど……」
ナターシャ様のことが気にかかる。どこへ行ったのかしら。
落ちたクッションを拾って、ソファーの元の位置へ置いた。
「ナターシャ様は、いつもこんな感じで怒鳴っているの? それとも今日は、たまたまなのかしら?」
振り返って、エルサや他のメイドさんへ聞いてみた。
「ええっと……。あの……」
メイドさんはナターシャ様より爵位が低いか、平民のはず。言いにくいのは察した。
「私がお返事いたします。……そうですね。ちょっとしたことでも、おしかりを受けてしまいます」
エルサが答えてくれた。
「そうなのね……」
このお屋敷のメイドさん達は、良く働いてくれていると思う。
お掃除も行き届いているし、所作もいい。
魔物や魔獣と戦っている騎士たちは動作が荒いけれど、命懸けで戦っている者達にそこまで求めていない。
お屋敷を守ってくれている、メイドさん達へのナターシャ様の態度は良くない。
「ちょっとゼイン様とお話がしたいわ。先にお伺いをしてくれないかしら?」
「は、はい」
エルサが走ってゼイン様の執務室へ行ってくれた。
「ネネ、大丈夫?」
ネネはナターシャ様と言い争っていた。
「はい! いきなりやってきて、『ここは私の部屋になる予定なのだから、今すぐインテリアを変えて!』とおっしゃって……。でもこの部屋は、グラシア様のお部屋ですから!」
ネネは胸を張って答えてくれた。
エルサが戻ってきて「『今なら、大丈夫』とおっしゃられました」
「ありがとう。今から伺うわね」
エルサに礼を言って、ネネに向かって話しかけた。
「そうだったのね、ありがとう。ゼイン様とお話ししてくるわね」
ネネの肩をポン……、と軽く叩いて笑いかけた。
「はい」
ネネの眉間のしわが無くなった。
「エルサ。政務室へ連れて行ってくれるかしら?」
「かしこまりました」
エルサはお辞儀をして、私をゼイン様の執務室の前まで連れて行ってくれた。
「こちらがゼイン様の執務室になります」
エルサは執務室の扉をノックした。
「エルサです。グラシア様をお連れいたしました」
少しの間があって、「入れ」という声が聞こえてきた。
「失礼いたします」
エルサが先に執務室へ入って、私は後から続いて入った。
重厚な机の上に書類が山ほど積まれていて、ゼイン様は椅子に座って書類にサインをしていた。
側に側近の人と、ナターシャ様が立っていた。
どうして、ゼイン様の執務室へ……?
驚いているとナターシャ様は、また私を睨んできた。
「ゼイン様。お仕事中、申し訳ございません」
お仕事中に邪魔をしてしまって申し訳ないと思い、頭を下げた。
「グラシア!?」
ガタッ! と椅子から立ち上がって私を見た。
どうやらゼイン様へ声をかけてから、私に気が付いたようだ。
「少し、休憩をする! グラシア、お茶に付き合ってくれるか?」
ゼイン様は、私が来て嬉しそうに近づいてきた。
「よろしいのですか?」
ちらっとナターシャ様を見ると、悔しそうな顔をしていた。
「もちろんだ。行こう」
「は、はい」
ゼイン様は私の手を握って、執務室から出た。
私の手を握るゼイン様の手は大きくて、ゴツゴツしてとても素敵な手だった。
少し歩くのが早くて、追いつくのが大変だった。
私も歩くのは早い方だがゼイン様の歩く幅が違うので、どうしても置いて行かれてしまいそうになった。
「あっ! すまない。歩くのが早かったようだな。グラシアはドレス姿なのに配慮がなかった」
そう言って歩く速度を緩めてくれた。
優しいのね……。
半歩前を歩く、ゼイン様を見上げて凛々しい横顔に見惚れた。
途中で会ったメイドへ、お茶の用意をしてくれるように頼んでくれた。
お庭が見える、大きな窓のお部屋へ連れてきてくれた。
ゼイン様がその窓を開けると、そこからお庭へ出られるようだった。
白いレースのカーテンが風になびいて、きれいだった。
「お庭から風が入ってきて、気持ちが良いですわね」
お日様は優しく部屋を明るく照らして、お茶をするには快適な場所だ。
「気に入ってくれたなら良かった」
きつい顔をしていたゼイン様の顔が和らいだ。
優しい日差し。
柔らかな表情を見せてくれて、頬が赤くなった。
「好きな所へ座ってくれ」
ゼイン様に言われて、二人掛けの低いソファーへ座った。
「隣に、良いだろうか?」
「はい」
ゼイン様は、二人掛けの低いソファーの隣へ座ってきた。
体が大きいので、ちょっと狭かった。
お茶が運ばれてきて、私とゼイン様は静かにお茶を楽しんだ。
「あの……、お仕事中でしたのに申し訳ございません」
お茶を一口飲んで、話を切り出した。
「大丈夫だ」
ゼイン様のお茶を飲む所作は上品だった。
大きな手で、小さく見えるティーカップが可愛い。
ティーカップを置いてゼイン様の方を向いた。
意外と近かったので動揺した。
ゼイン様はゆったりとお茶を飲んでいる。
「それで、ナターシャ様のことなのですが――」
どのように話したらよいか、困ってしまった。
しばらくの沈黙の後、思い切ってお話をしてみた。




