14 親戚の、ナターシャ様
「ナターシャ様。名乗りもしないで、失礼です!」
エルサが先に、ナターシャ様へ返事をしてくれた。
「……私は、ナターシャ・エンスタタイト。ゼイン様のはとこよ」
髪の毛を指で後ろになびかせて、見下して自己紹介した。
エルサは睨みながら、一歩前へ出た。
私はエルサの前に腕を出して、何か言いたそうなのを押さえた。
「初めまして。私はゼイン様の妻となりました、グラシア・エンスタタイトですわ」
ニッコリと微笑んでみせた。
「……っ!」
私は動じない。
もっと酷い扱いをされたことがある。
ネコのような可愛らしい、宣戦布告。笑顔で受け取る。
「な、なによ。私は、あなたなんかゼイン様の奥さんなんて、認めないのだから!」
フン! と言って私の横を通り抜けていった。
はとこ……と言ったけれど、このお屋敷を指示していたのはナターシャ様。
どのような、ご関係かしら……?
「ハァ……。申し訳ございません。ナターシャ様は、ゼイン様のご両親がご存命されていた時の仮の婚約者でした」
エルサはため息をついて、私に教えてくれた。
「仮の、婚約者?」
仮とはどういうことだろう?
「ナターシャ様が幼い頃にゼイン様のご両親へ、一方的に将来結婚したいと泣いてお願いしてきました」
幼い頃……。幼馴染なのかしら?
私はエルサの話の続きを聞いた。
「ゼイン様のご両親とナターシャ様のご両親は仲が良く、一時的な女の子の可愛い恋と思っていたそうです」
「それで正式な婚約者ではなく、あくまでナターシャ様があきらめるまでの仮の婚約者と軽い気持ちでおっしゃってしまったそうです」
エルサはギュッと唇を噛んだ。
「ゼイン様が不在の時に勝手に決めてしまって。ゼイン様は取り消すように申し出たけれど、子供の一時的な事だから……と言って、ナターシャ様に訂正をしなかったのです」
エルサの話を聞いて、そんなことが……と思った。
「あっ! 誤解しないでくださいね。ゼイン様はまったく相手になさってないですからね」
エルサは両手を振って否定した。
「口約束でしたけれど、ナターシャ様はずっとゼイン様のことを……」
言いにくそうに言った。
「ゼイン様のご両親が事故でお亡くなりになってから、たびたびお屋敷に来て女主人としてメイドたちに指示をされて困っていました」
またエルサは深いため息をついた。困っているのね……。
仮だった婚約者。
ゼイン様のことが好きな幼馴染。
お屋敷の女主人のように振舞っていた女性。
ナターシャ様は私がこの屋敷に嫁いできて、邪魔者と思ったことだろう。
「その……。ナターシャ様は要注意人物ですので、気をつけていただけると……」
申し訳ないように言った。
「もちろん、私と皆でお守りいたします!」
エルサのおかげでナターシャ様のことが分かった。
「ありがとう」
エルサに礼を言った。
「では案内の続きをお願いするわ」
微笑んでエルサにお願いした。
「は、はい!」
気には、なる。
けれど私はゼイン様の妻となった。
出しゃばるつもりはないけれど、皆が困っているならば力になりたい。
一通りお屋敷の中を案内してもらった。
お屋敷の中は、どこも頑丈な造りで魔物や魔獣が侵入してこないだろう。
エルサは色々説明をしてくれた。
それにナターシャ様をうまく避けて案内してくれたようだ。
「お部屋へ戻ります」
「ええ」
「詳しい説明は、ゼイン様からお聞きになって下さい」
設計にも関われましたから詳しいですよ、と教えてくれた。
「あら?」
お部屋の前まで戻ってきて、何だか騒がしいのに気が付いた。
「見てまいります。あっ……」
数人のメイドが扉の前で、心配そうに部屋の中を見ていた。
エルサが走っていき、メイドに話しかけた。
「何ごとです?」
「あっ、エルサ様! ナターシャ様が……」
私も急いで部屋へ向かった。
「ですから! ここは、グラシア様のお部屋です!」
ネネが大声を出して、ナターシャ様に話しかけていた。
普段は大人しいネネが大声を出すなんて珍しい。
「何を勝手に決めているの!? ここはゼイン様の隣のお部屋ですわ! 私のお部屋になる予定ですの!」
ナターシャ様はこの部屋に自分以外の者が、住むことを許せないらしい。
周りにいるメイドたちはオロオロと、どうしたらよいか対応を迷っていた。
「グラシア様。私が……「いえ、私がお話ししましょう」」
エルサは私を気遣ってくれたけれど、直接ナターシャ様と話そうと思った。
「このインテリア、気に入らないわ! 片付けて!!」
ソファーに置いてあったクッションを掴んで、ネネに投げつけようとした。
ネネは咄嗟に手で顔を守るようにしたのが見えた。
「おやめなさい。ナターシャ様」
ナターシャ様が両手で持って上にあげたクッションを、片手で掴んだ。
「なっ!?」
私の手を外そうとナターシャ様は力を入れた。……でも私の方が、力が強いようだ。
ナターシャ様の腕が奮えている。
「離して、よ!」
泣きそうな顔をしたので、手を離してあげた。
ナターシャ様は反動でよろけたけれど、キッ! と私を睨んだ。
「酷いわ!」
そう言って、私の顔にクッションを投げてきた。
手で防いだけれど、人の顔へクッションを投げつけるなんて。
「あなた、嫌い!」
そう言い、部屋から走って出て行ってしまった。
まるで私がナターシャ様をいじめたような気分になった。




