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血みどろ冷酷・女嫌いの辺境伯の元へ王命で嫁がされたけど、もしかして溺愛されています?  作者: 青佐厘音


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10 ゼイン・エンスタタイト辺境伯の溜息と、希望


 

  正直、王命で結婚を命じられるとは思っていなかった。


 俺はエンスタタイト領 ゼイン・エンスタタイト辺境伯。

 魔物や魔獣が出現するこの地に、生まれた。


 毎日、うんざりするほど魔物や魔獣との戦い。

 子供でも自分自身で身を守らなければ、殺られる。

 自分の手が魔物の血で汚れていく。

 それが当たり前になって麻痺していった。


 親がまだ生きていた頃、王都へ貴族のパーティーに連れていかれた。


 華やかな別世界の、平和な場所。

 人々が魔物に怯えず、笑っている。

 自分の領地とは天と地の差があった。


 なんだ、これ……?

 まだ十歳にもならなかったが、自分の領地が()()だと悟った。


 エンスタタイト領の人々は、魔物に怯える毎日。

 でも王都の人達はそんなことも知らずに、美味しいものを食べて笑っている。

 自分たちが生贄になって、この国を守っていた。


 「大丈夫か? ゼイン」

 父が心配して声をかけてくれた。

 「……ちょっと外へ、行ってきます」

 もうここに居たくなかった。

 媚びた笑い。思ってもないくせに褒めている。

 

 「すぐに戻って来るのだぞ」

 「はい」


 人ごみを避けてバルコニーへ出た。

 気持ち悪い……。

 香水のキツイ匂い。化粧の嫌な臭い。悪意。妬み。真っ黒な腹の底。

 うずくまって口を押えていた。


 「大丈夫?」

 甘い香りがして顔を上げると、五歳くらいの女の子がハンカチを差し出してくれた。

 銀の髪に青い瞳の子……だった。


 「お水を持ってきましょうか?」

 具合が悪いと思って言ってくれたのだろう。

 「いや、大丈夫だ。……ハンカチを貸してもらえるだろうか?」

 女の子の持っているハンカチなら、きつい香りがしないだろうと思って借りることにした。


 「どうぞ!」

 にこっ! 

 微笑んでハンカチを貸してくれた女の子は、本気で心配してくれたようだ。

 ホッとして、立ち上がった。


 「ありがとう。……君の名前は?」

 お礼をしようと名前を聞いた。


 「えっと、私の名前は……「シア――! 戻るよ!」」

 女の子の名前を聞く前に、呼ばれてしまった。

 「あっ! お兄様に呼ばれました。では失礼します」

 まだ五歳くらいなのに、上手なカーテシーをしてお兄さんと行ってしまった。


 シアという、名前なのかな? 調べてみよう。

 お礼もしたいし。もっと話をしたかった。

 スン……とハンカチの香りをかぐと、甘いお菓子のような香りがした。

 美味しそうな香りだった。


 「お菓子でも包んでいたのかな?」

 クスッと笑った。

 可愛い子、だった。

 「お嫁さんにするなら、あの子がいいな……」

 気分が良くなって両親の所へ戻った。


 キョロキョロと、会場中を探して見てみた。

 さっきの子はいないかな? ……残念だけど見つからなかった。

 手に持ったハンカチを握りしめて「絶対にあの子を探す!」と決めた。

 

 

 毎日、毎日。

 血まみれになって魔物や魔獣を倒す日々。

 慣れてしまって何とも思わなくなった。


 たまに部下に言われて王都の社交界へ顔を出したが、どうも俺は怖がられているようだ。

 毎日魔物との戦いで逞しくなった全身。

 他の同じ年齢の令息と比べると、俺の方がはるかに筋肉がついていてデカかった。

 王都の御令嬢は、細身で褒めたたえてくれる男性が良いそうだ。


 戦いで鋭くなった目つきや、傷だらけの全身。

 不愛想だと令嬢も、令息も逃げていく。


 気の利いたことも言えないと『女嫌い』と。

 両親を魔獣に殺されてしまったので、容赦なく魔物や魔獣を殺れば『冷酷』と言われてしまった。


 別にいい。

 媚びる気もないし、香水のきつい香りを嗅ぎたくないし。

 跡継ぎは優秀な者がいるから、何とかなる。

 ただ……。

 自分を理解してくれる人が欲しい。

 

 我慢して社交をすれば、自分は場違いなのを思い知る。

 あきらめて、仲間と魔物や魔獣を倒していった。

 今年は異常に魔物や魔獣が多く、 魔物たちの暴走(スタンピード)が発生してしまった。


 がむしゃらに倒していったら、スタンピードを押さえられた。

 幸い領民や王国民に犠牲者は出なかった。

 そのかわりエンスタタイトの騎士たちが、ケガをしたりした。


 犠牲者が出なかったことは良かったが、王に呼ばれてしまった。

 途中で旅人が魔物に襲われていたので助けた。

 王の御前だというのに、着替える時間はなかった。


 仕方なく行くと、王命で結婚をしろと言われた。

 嘘だろう? と思った。

 あんな魔物と魔獣が、毎日と言っていいくらい出現する領地に嫁ぐ女性。

 気の毒だと思った。


 あいにく第三王女はまだ若く、俺とは釣り合わなかった。

 王女なんて御免だが、内心ホッとした。


 臣下達も、俺が手柄を立てたことを良く思っていないらしい。

 ひそひそと悪口や馬鹿にするような言葉が、聞こえた。

 こっちは命懸けで、この国を守っているのに。

 こぶしを握りしめて、怒りを我慢した。


 「グラシア・ラズライト侯爵令嬢」

 「は、はい!」


 侯爵令嬢の名が呼ばれた。

 まさか……。


 隣に音もなく、ひざまついた令嬢。

 だが近衛騎士の制服を着ていた。

 「?」

 侯爵令嬢が近衛騎士? その横顔は凛としていた。


 「グラシア・ラズライト侯爵令嬢と婚約をし、王国のために命を捧げよ」

 王の言葉……。

 王命でこの女性と結婚しろ、と言われた。

 思わず失礼と思いながら、隣の女性を凝視してしまった。


 隣にいる女性もこちらを見ていた。


 銀の髪に青い瞳。

 どこか懐かしく思えた。

 

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