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第二話 初めてのベッド

 馬車(エミリア様から聞いた話だが、どうやら、馬が引いている豪華な箱のことは、馬車と呼ぶらしい。ちなみに、豪華じゃない方の箱は荷馬車と呼ばれるもので似て非なるものであるらしい。)に揺られること、太陽がてっぺんあたりから沈むまで。私達は工場らしき大きな建物(これもエミリア様から聞いたことだが、私が暑いときに働いていた場所は工場というらしい。)の前に止まった。

 「ここは工場ですか?」

 「いいえ、ここは旅籠と申します。」

 どうやら、工場ではないらしい。


 馬車を降りると、次は人間に部屋の中に案内された。今夜の寝床を紹介してくれるそうだ。寝床は、広くて、なんかふかふかした部屋である。隣の部屋はエミリア様とハンナさんとケリーさんの使うものらしい。

 寝床についたら、寝るだけだ。私は、その辺りで寝ることにした。

 「何をなさるのですか?お嬢様。」

 エミリア様に驚かれてしまった。どうやら人間ルールに反してしまったらしい。

 「ごめんなさい。」

 「寝るならベッドの上で寝てくださいませ。貴族でなくとも、藁敷のベッドはあるでしょう?」

 どうしよう、エミリア様の言っていることがわからない。だが、エミリア様は怒らない優しい人間だ、思い切って聞いてみよう。

 「ベッドってなんですか?」

 エミリア様もハンナさんもケリーさんも呆然としていた。

 「ベッドをご存じないと?」

 もしかしたら怒らせてしまったのかもしれない。

 「こめんなさい。」

 「いえ、怒っているのはあなたにではありません。ベッドというのはですね、人間やシルフが横になる場所です。そこ以外では横になってはなりませんよ。」

 「わかりました。ところで、ベッドはどこですか?」

 「ここです。」

 エミリア様は、笑顔で、ヒラヒラに囲まれた、ふかふかの台を手で示した。

 「わかりました。」

 私がベッドに向かおうとすると、エミリア様は厳しい目を私に向けてきた。また、人間ルールに反してしまったらしい。

 「お嬢様、お風呂のあとに、夕食の準備がございます。それまではベッドは我慢してくださいませ。」

 「お風呂?夕食?」

 どうしよう、全くわからない。

 「お風呂…水浴びの温かいものであるといえばわかりますか?」

 「はい、体の汚れを落とすものですね。」

 「よろしい。そして、夕食とは、夜に食べるご飯のことです。」

 夜にご飯を食べる?

 「ご飯って、朝にパンを食べるだけではないんですか?」

 「お嬢様、人間はご飯を1日3回食べます。」

 人間の生活は、シルフとは違いすぎる。

 

 夕飯の時間になった。

 私の部屋には夕食が運ばれてきた。ご飯というので、私は出されたパンに齧り付いた。

 「お嬢様、パンの食べ方が違います。」

 エミリア様に注意された。どうやら人間は、パンの食べ方すら違うらしい。

 「パンは齧り付かずに、ちぎって食べるのですよ。」

 言われたとおりに、パンをちぎって食べた。今まで食べた中で、最も甘くてふわふわしたパンだった。美味しすぎる!!!

 「姿勢に関しては、帰ったらみっちり教育します。」

 どうやら姿勢もだめらしい。

 その後は、ドロドロとしたものの中に、何かが浮いている食べ物だった。

 「これは…なんですか?」

 「シチューですね。」

 どうやって食べるんだ?私はパンしか食べたことがないのに。

 エミリア様は、何かを考えている。

 「本当にシルフは、パンだけで生きられるのですね?」

 「はい、私は生まれてから、パンしか食べたことがありません。」

 エミリア様は、また、何かを考えている。

 「これ以降の食事は、一旦なしにしましょう。」

 「美味しかったです。」

 また、美味しいパンが食べられると良いな。


 私はハンナさんとケリーさんによって、お風呂に連れて行かれた。とにかく大人しくしていよう。

 ヌルヌルしたものを頭に塗りたくられたあと、温かい水で流された。

 ヌルヌルしたものを体に塗りたくられたあと、温かい水で流された。

 なんか、体から、良い香りがしている。

 その後は、お湯だめに浸かるように言われたので大人しく浸かることにした。

 しばらくお湯に浸かったら、出てきて、布でよく体と頭を拭かれた。そのあと、ボロくない服を初めて着た。

 その後、椅子に座った後、風を浴びた。生き返る!暗い部屋にいたときも1日に一度は風を浴びる時間があった。それがないと、シルフ的にはきついのだ。

 「お嬢様、髪がどんどん艷やかに?」

 ハンナさんは驚いている。

 「シルフですから、風を浴びることで、お腹も満たせますし、体も回復します。」

 「魔法種族ヤバ!」

 「ハンナ、お嬢様と話すときは丁寧な言葉を使いなさい!」

 「すみません。」

 エミリア様、多分今までで一番わかりやすく怒ったかもしれない。


 風を浴びた後は、ベッドなるものを初めて体験した。ふかふかの台に乗って、布をかけるらしい。…正直、叶うものなら、外で風を浴びながら寝たい。

 布団に入ると、エミリア様が、紙束を持って、枕元に座って、人間の間に伝わる物語を話してくれた。

 話を要約すると、世界を好き放題にした人間が神様に罰を与えられる話だった。

 「神様は、エミリア様たちにひどいことするんですか?」

 私は、疲れて眠くなった口でそう聞いた。

 「人間が好き放題したらそうなります。」

 「人間って好き放題しているんですか?」

 「…それは、人間も魔法種族も一人一人が考えなければならないことです。」

 その口ぶりからすると、神様は、急にエミリア様やハンナさんとケリーさんにひどいことはしなさそうだ。そう考えると、途端に眠くなってきた。意識が遠のいていく。

 「おやすみなさいませ、お嬢様。」


 次の朝、私は起こされると、風を浴びながら髪を溶かされて、水で濡らした布で顔を拭かれた。

 ケリーさんが楽しそうな表情で何かを持ってきた。中に入っていたのは…なんだろうか、布、布、布だった。

 「お嬢様、じっとしていてくださいね。」

 エミリア様もごきげんだ。

 まずは靴下を履かされた。次に、立たされて、腰にふわふわしたものを巻かれた。そして、なにこれ、シャツ?を着せられた。その上に、また、腰にふわふわを着せられて、最後に、お洋服を着せられた。

 「エルフリーデ様の去年来ていたお召し物です。よくお似合いですよ。」

 「エルフリーデ様って誰ですか?」

 「あなたの新しいお姉様です。妹ができることを喜んでましたよ。」

 正直、馬車での移動は楽ではないけど、待っていてくれる人がいるとなるととても、楽しみになってきた。

 「私も、新しいところに行くのが楽しみになりました。」

 「それでは参りましょう、お嬢様。」

 そうして、私達は旅籠を旅立っていった。


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