第一話 旅立ち
私は、しばらく荷馬車の中に入れられて、運ばれて、駅という所まで来た。
降ろされたあとは、しばらく待っていろと、人間には言われた。
待っていろと言われたので大人しくはするが、私が気になるのは馬という生き物である。ネズミや虫はどこでも這い回る気持ち悪い生き物だ。猫はシルフでも人間でも近づくと逃げるけど、気分によっては逃げないでいてくれる。馬はどうなのだろうか…こっそり馬に近づいてみた。反応がない。馬は箱を引くお仕事をしている生き物だ。とても、お利口さんなので、人間に止まっていろと言われたら、じっとしていられるのかもしれない。
「おい、そこのシルフ、こっちに来い。」
「ただいま!」
人間に連れられて、また、ある知らない人間のもとに連れてこられた。
「シュヴァルツタールの執事長様、今、シルフの少女をお持ちしました。」
後ろの馬と箱を見て、シュヴァルツタールの執事長様は顔をしかめた。
「失礼ですが、こちらのシルフのお嬢様が、我が主人の新たな娘なのですか?」
「はい、少々見ずぼらしいですが、ご了承くださいませ。」
…人間、シュヴァルツヴァルトの執事長様が顔を顰めたのは私を見てじゃなくて、後ろの箱と馬を見てだと思うよ。
「荷馬車で連れてきたと…」
「はい。」
「シュヴァルヴァルトの養女なんて、なんて扱いだ!荷馬車で連れてきて、謝罪もなしか?」
「すみません。」
「もう良い!この無礼はきっちりと魔法種族奴隷解放局に提出させてもらう!」
『シュヴァルツヴァルトの執事長様』と呼ばれた人間が私の方を向いた。さっきまで怒っていたので、こちらにとばっちりが来なければよいが…
「はじめまして、お嬢様。私はカーティスと申します。以後お見知り置きを。」
どうやら、カーティス様は、私には怒っていないようだ。お嬢様…というのは暑いときに働く場所の偉い人間の子供のことのはずだ。そんな人がどこにいるというのだろうか?
「すみません、マスター、お嬢様はどこにいますか?」
確か、人間に話しかけるときはすみません、マスターと呼べば、基本は怒られないはずだ。暑いときに働いていたところでは人間のことはそう呼ぶのが決まりだった。
それを聞いて、シュヴァルツヴァルトの執事長様のカーティスさんは少し唖然として、そう語った。
「あなたですよ、お嬢様。」
「お嬢様は、偉い人間の子供のことですよね?」
「ええ、あなたは、シュヴァルツヴァルトという偉い人の娘になるのです。」
全く理解できないが、ここで言うお嬢様が私だということはわかった。だが、どうすればよいかはわからない。このままではさっきの人みたいに怒られてしまうだろう。
「お嬢様、馬車にお乗りくださいませ。先程の、荷馬車に比べたらとても快適ですよ。」
目の前には豪華な箱を持った馬がずらりと並んでいた。さっき私が乗ってきたような馬車は2台ほどしかない。
「失礼しました。その前に、シュヴァルツヴァルトにふさわしくないものは外さなければなりませんね。」
そう言って、カーティスさんは、私の手枷を外した。
そして、私は、一番先頭の豪華な箱に乗せられた。
そこには、3人の人間がいた。3人は、私を見て少し驚いたように見えたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「お初にお目にかかります。お嬢様、私、ガヴァネスのエミリアと申します。そして、こちらは、侍女のハンナとケリーと申します。」
「すみません、マスター。」
「私のことはエミリア様とお呼びくださいませ。そして、侍女のことは、ハンナさん、ケリーさんと呼んでください。あと、まずあったときは、すみませんではなくて、ごきげんようですよ、お嬢様。」
すみません、マスターはどうやら人間に対しては、怒られはしないが間違えた対応だったらしい。
「ごきげんよう、エミリア様、ハンナさん、ケリーさん。」
「ごきげんよう、お嬢様。」
「「ごきげんよう、お嬢様。」」
エミリア様とハンナさん、ケリーさんの反応を見るにどうやら、私の挨拶はうまく行ったようだ。
そして、勧められるままに椅子に座ると、座ったところがなんと沈んだ。
「ヒャア!」
「お嬢様、座るときは驚かないほうが良いですよ。」
「ごめんなさい。」
エミリア様に助言をされた。エミリア様やハンナさん、ケリーさんはどうやら優しそうなので、できるだけ一緒にいたい。言われたことはしっかり守ろう。




