第十話 ウンディーネの診療所
村の診療所は石造りの白い大きな建物だった。
外では、一人のウンディーネが魔法を使って洗濯をしながら、本を読んでいる。…私もいつか、本を読みながら魔法を使うようなことができるようにはなるのだろうか?
中に入ると、カーペットは敷いていないものの、埃がほとんどなかった。
ニクシー様が何かを書いている。そして、私達はしばらく待つことになった。
「フランツェスカさん、部屋まで来てください。」
「はい。」
中に入ると、一人のウンディーネがいた。
「ごきげんよう、フランツェスカ・ヴァルヴィンド・フォン・シュヴァルツヴァルトと申します。」
「ご無沙汰しております、マリナ様。」
「こんにちは、フランツェスカちゃん、ニクシーちゃん。」
マリナ様は柔らかく微笑んだ。
「えっと、フランツェスカちゃんは、魔法を使おうとしたら、苦しんで、意識を失ってしまったのよね。」
「はい。」
「ちょっと、胸に手を当てさせてね…」
マリナ様が私の胸に手を当てると、目の中の渦が回り始めた。魔法を使っているのだろうか…
「これは…ニクシーちゃん、これからフランツェスカちゃんが毎日ここに来るのは…難しいわよね。」
「はい。シュヴァルツヴァルトでの勉強もあります。春には養女として正式にお披露目をしたいそうなので、あまり教育にも余裕がないそうです。」
そう、ニクシー様が言うと、マリナ様は頭を抱えた。
「結論から言うと、フランツェスカちゃんは、今日、来られたから、死ぬことはない…でも、話を聞く限り、シュヴァルツヴァルトに一人、ウンディーネを送らないとまずそうね。ちょっと話してくる。」
そう言うと、マリナ様は部屋を出て行ってしまった。
しばらく待っていると、マリナ様が戻ってきた。
「私、シュヴァルツヴァルトに行きます。」
「本当ですか?マリナ様。」
「うん、そうしないと、チェルノレスがかなり危ないから。」
「チェルノレスが?!」
私はつい驚いて、叫んでしまった。
「フランツェスカちゃん、順を追って説明するね。まず、フランツェスカちゃんの状態は、魔核…つまり、魔力を体に巡らせる器官に魔力が詰まっていたの。でも、ゆっくり、詰まっているのを溶かしていけば、いつかは治るから安心してね。」
「はい。」
どうやら治るらしい。
「だけど、毎日、急に溶かすと、それはそれで危ないから、できれば毎日、ゆっくりと魔法で治療したい。だから、毎日来てほしいけど、それも難しい。シュヴァルツヴァルトのある、ヴァルデンハインの近くには、マンミンガムを警戒して、魔法種族が住んでないから、他のウンディーネの近くの里で治療を行うのも難しい。だから、私が行きます。」
「ありがとうございます。マリナ様。」
ニクシー様は深々と頭を下げる。
「ありがとうございます、マリナ様。」
私もそれに続いてお礼を言う。
「まあ、だいたい行けるのは2週間後くらいになると思うから、お薬、貸しておきます。」
「お薬…聖遺物のことですか?」
お薬は人の体を治すためのものだ。なんで聖遺物と呼ばれているのだろうか?
「まあ、そうだけど…」
「この、ニクシー、命に変えてもお守りします。」
「いや、本当に、お薬のために死んじゃったら本末転倒だからね?!雑に扱われたくはないけども…」
ニクシー様、お薬が好きすぎて、少し、マリナ様を困らせてない?
「じゃあ、お薬の使い方を教えるね。この魔石のハマった機械を患部にベルトで巻き付けて、30分ほどおけば大丈夫。つまり、フランツェスカちゃんの場合は胸の中央に機械が来るように、ベルトで巻き付けてあげてね。それを毎日やるように。」
重厚な箱から出された機械にはめられた魔石の大きさはとても大きい。それほどの大きさのものは何度か見たことがあるけど、普段はあまり見かけない。ドライヤーとかにはめられている魔石はもっと小さい。
「フランツェスカ様、紋章の入ったペンダント以上に大切に触れるように!」
「はい。」
本当に、このお薬は大切なものらしい。間違っても壊さないようにしないと…
「フランツェスカちゃんも毎日、お薬にお礼を言ってあげると、お薬も喜ぶと思うよ。」
「はい。」
マリナ様に言われて、逆らう気は全く無いけれど、毎日ものにお礼を言うなんて、少し変わっている気がする。お薬…聖遺物…一体どんなものなのだろうか…
「じゃあ、シュヴァルツヴァルトに行くときにまたよろしくお願いします。」
「本当にありがとうございます。この御恩は一生忘れません。」
「ありがとうございます。」
私も、ニクシー様につられてお礼を言う。自分のために時間と労力を割いてくれた人にお礼を言うのは、人として当然だけれども、少し、今日のニクシー様は大げさな気がする…
「お大事にね。」
そうして、私達は部屋を出た。
しばらく待っていると、重厚な箱に入ったお薬と、紙が渡されたので、ニクシー様が大事そうに受け取った。




