雨の日のゴミ拾い
雨の日のゴミ拾い
しとしとと降る雨が、街を静かに覆っていた。傘の下を行き交う人々は、みな足早に通り過ぎていく。誰も足元に転がる空き缶や濡れた袋に目を留めない。
そんな中、悠人はひとり、コンビニの袋を片手に歩いていた。髪も服も雨に濡れているのに、彼の表情は晴れやかだった。
しゃがみ込み、アスファルトに張りついた飴の包み紙を拾い上げる。雨粒に濡れた透明のフィルムは、街灯に照らされて小さな虹色を放った。悠人の瞳がそれを映す。
「……やっぱり、雨の日のほうがきれいだな」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟いた。
雨は人を憂鬱にさせる。だからこそ、誰もゴミを拾おうなんて思わない。けれど悠人は逆だった。他の誰もやらないからこそ、自分がやりたかった。濡れたゴミは、まるで洗われた夢の欠片のように見えるのだ。
袋の中には、潰れた缶や湿った紙くずが積もっていく。
それはただのゴミかもしれない。けれど悠人にとっては、確かに「誰かの置き去りにした夢のかけら」だった。
拾い集めるたびに、胸の奥が少しずつ温かくなる。
雨は冷たいのに、不思議と心は凍らなかった。
「こうして集めれば、また誰かの夢につながる。だから……楽しいんだ」
悠人は空を仰ぎ、小さく笑った。
灰色の雲の向こうに、いつか虹が架かることを信じながら――。