第6章 グラウンドに響く鉄の音
午後四時半。薄くオレンジ色に染まった空の下、県立北浜高校の荒れ果てたグラウンドに足を踏み入れたのは、俺と龍也、そして元暴走族のメンバー数人だった。
フェンスは錆び、ベンチは片側が崩れ、マウンドには雑草が腰の高さまで伸びている。ここが、これから俺たちが戦う「舞台」になる場所だとは、正直まだ信じられなかった。
「……笑えるな。これじゃ、野球やる前に草刈り大会だ」
龍也が吐き捨てるように言い、足で土を蹴る。
「バットは? ボールは?」
「倉庫の中だ。カギは……錆びて開かねぇかもな」
顧問も監督もいない。部員ゼロからのスタート。
俺は工具箱からバールを取り出し、倉庫の南京錠を無理やりこじ開けた。
中から出てきたのは、折れかけの木製バット、革がひび割れたグローブ、そして茶色く変色したボール。
それでも――手にした瞬間、胸の奥で何かが震えた。
ただの道具じゃない。この錆びついた鉄や古びた革は、ここにあった時間と物語の証拠だった。
「おい、まずは素振りからだ。百回いけ」
俺がそう言うと、全員が一瞬だけ顔を見合わせた。
だが次の瞬間、ゴン…ゴン…と、鉄バットが空気を切り裂く音が夕暮れに響き渡った。
久々に体を動かす感覚に、全員が少しずつ笑っていた。
だがその頃、学校からわずか数百メートル離れた路地裏では、別の音がしていた。
黒塗りのワゴン車が止まり、スーツ姿の男たちが数人降りてくる。
先頭の男は、胸元に刺青の覗く若頭――関西道龍会の幹部、鷹野。
「例のガキども、野球部だとよ。笑わせやがる……。だが、あいつらには借りがある。潰すなら今だ」
夕暮れのグラウンドで響く鉄の音と、路地裏で鳴る靴音が、ゆっくりと同じ未来へ向かって重なっていく――。