いつも通り
「香織ちゃん!一緒に帰ろ!」
「佳奈ちゃん。ちょっと待ってね」
下校のチャイムが鳴る。
ランドセルに教科書を詰めて、わずかにできた隙間にリコーダーを差し込んだ。
梅雨入り前の生暖かい気温が心地良い。
重たいランドセルによろけそうになりながら、片手に絵の具セットも持って教室を後にした。
いつもの道、いつもの風景、いつもの光景。
朝来た道を戻っていくだけ。
流行りのアニメや、宿題、テスト、学校の先生の話、遊びに行く約束。
尽きる事なく談笑しながら一歩ずつ歩みを進めていく。
「そうそう!それでね、ママが……ってもうここかぁ」
坂を登って横断歩道を渡り、左右に長く続く一本道へと出た。
私は左、佳奈ちゃんは右。
いつもここで分かれて帰路へと着く。
「ねぇ香織ちゃん」
繋いでいた手を離して、佳奈ちゃんは私へと向き直った。
歩道の横に伸びた長い雑草が、風が吹く度に足に触れてくすぐったい。
「あそこの噂話、知ってる?」
「噂話?」
木々の隙間から均等に並んだ石の頭が見える。
逆に不自然に感じてしまうほど、一寸の狂いもない四角い石の頭。
そこは共同墓地で、不特定多数の故人が一緒に埋葬されている。
「女の子の声が聞こえてくるんだって。あと笛みたいな楽器の音。楽しそうに誰かと話してるんだけど、もう一人の声は聞こえないって」
「そうなんだ」
「香織ちゃん、あそこ通らないとお家帰れないでしょ?気をつけてね」
「うん。またね」
何度も振り返りながら大きく手を振る佳奈ちゃんに、私はその姿が見えなくなるまで目で追った。