相棒
俺は顎の下に銃口を押し付け引き金を引いて自殺した機動隊員から引っ剥がして来た、ヘルメットや分厚いボディアーマーなどの装備を身に着けた相棒の装備を点検してやる。
点検を終えた俺は相棒の肩を軽く叩き、「じゃ、頼むな」と声を掛けて送り出す。
相棒が向かうのは散弾銃で武装した奴を含む多数の奴等が立て籠もる、田舎の田んぼの真ん中に建つショッピングモール。
此の1〜3階が店舗や倉庫で屋上が駐車場になっているモールの、店舗部分と駐車場に向かうスロープにバリケードを築き奴等は立て籠もっている。
まぁ倉庫部分のバリケードを相棒を使って撤去してゾンビを雪崩込ませたのは俺なんだけど。
だけどそうしたのには訳があるんだ。
俺と相棒が住んでいる廃集落、此処は元々人と付き合うのが苦手な俺があの騒乱が起こる可也前に買い取って暮らしていた場所なんだけど、暮らし始めたとき動物の訪問されるのも嫌だったんで集落の周りに、電流が流れる有刺鉄線を上に張り巡らした高さ5メートルの鉄筋コンクリート製の塀を立ててはいた。
でも人が殆どいなくなった世界になった所為で、熊や猪が集落の側に度々出没するようになる。
だから集落の周りに罠を設置しようと考えて罠の材料をモールに取りに行った。
立て籠もっている奴等がいるから集落で採れた野菜を取引材料として持っていったのに、奴等は取引を拒否しただけでなく人を襲うことの無い相棒を銃撃しやがったんだ。
幸い撃った弾は頭に当たる事は無く、肩と顔に数個の穴が開いただけだったのが救いと言えば救いだった。
だから俺は報復に周辺を徘徊しているゾンビ共を引き連れてモールを襲撃し、立て籠もっている奴等がゾンビの対応に追われている間に、相棒を使って倉庫側のバリケードを撤去したって訳。
相棒と出会ったのも此のモール。
あの争乱が始まった日、俺は隣町のJA直轄店で野菜や果物を大量に購入、騒乱が始まる前は野菜なんて自分で栽培する物では無く購入する物だったからな。
それでJA直轄店の帰りに此のモールに立ち寄って野菜以外の食料品や生活必需品などを買ってリュックサックに詰め込み、愛車の軽のバンのところに戻ろうとしたら外が騒がしくなる。
そう、ゾンビの襲撃が始まったんだ。
俺はリュックサックを背負ったままモールの前の駐車場に停めてあった愛車の下に走った。
あと少しってところでゾンビに行く手を阻まれる。
だから俺は愛車の隣に止めってあった乗用車の屋根に這い上がり、反対側から降りて愛車のスライドドアを開け乗ろうとした。
その時ゾンビに後ろから覆い被さられるように襲われる。
食われる思い身体を硬直させその時を待ったのに、覆い被さって来たそのゾンビは俺に食い付かずに運転席の後ろに大量に積み込んでいた野菜に貪りついたんだ。
それで自分が餌にされて無いって気がついたんで直ぐにスライドドアを閉め、モールの駐車場から遁走した。
後ろの荷台に買い込んで来た野菜を貪るゾンビを乗せたままにね。
それが相棒との出会い。
ところで知ってるか?
徘徊しているゾンビ共だけど、無害になるって言うか目の前に餌である人がいても襲わない時があるって事を。
俺も相棒と暮らし始めて知ったんだけどな。
相棒だけじゃ無く他のゾンビはどうなんだ? と思って、取り押さえ易い子供のゾンビを捕まえて来て実験したら相棒と同じく暫くの間だけど無害になった。
どういう事かって言うと、ゾンビが満足するまで肉、相棒の場合は野菜だけど、を食わせると無害になるんだ。
大体1〜2ヵ月くらいの間かな。
相棒は野菜で腹を満たすんで約1ヵ月、他のゾンビは肉で腹を満たすんで約2ヵ月だ。
あ、言っておくけと捕まえて来たゾンビに食わせた肉は罠で捕まえた熊や猪の肉だからな。
ゾンビって排泄しないだろ、だから腹一杯食うとそれ以上の物は食えないんだよ。
それで排泄しないだけで無く消化吸収もしないから腹に溜め込んだ物が排泄、ゾンビの場合は腹の中で食った物が腐敗していって液体になり肛門などから垂れ流され腹に空きができるまで無害になるって訳。
相棒の場合は所構わず垂れ流されたら困るんで、腹一杯食わせたあとオムツをつけさせている。
相棒を送り出したあと俺は愛車の中で待機。
物資の略奪は相棒の担当ってだけで俺は俺で相棒の為に働いているんだよ。
殆ど相棒が食べる野菜や果物の栽培は俺の担当だからな。
モールに立て籠もっている奴等の所持している銃の弾も残り少ないのだろう、相棒が倉庫で略奪するのを邪魔されないように囮としてけしかけたゾンビ共に発砲している銃声が以前より可也少ない。
騒乱の日からもう3年も経っているからな。
俺も70代後半、あと何年生きて行けるか分らないから俺が死んだ後も相棒が食事に困らないように、相棒に野生化しつつある野に生える野菜や果物を教え雪室の作り方を覚えさせた。
後は自分で野菜を栽培出来るようになれば尚良しってところだな。
あ、相棒が略奪品を抱えて倉庫から出てきた、店舗側から死角になるところまで迎えに行った俺は相棒を乗せ、塒の集落に向けて愛車を発進させた。