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ショートショート4月〜5回目

選択できません

作者: たかさば

 ……なんだか、頭がぼーっとする。


 ええと…ここは、どこだったかな?

 なんで、俺はこんな所にいるんだろう?


 ……なにも、思い出せない。


 寒くもなく、暑くもない…、地面はあるが、イスはなくて…なぜか立ち尽くしている。

 全体的に薄暗くて、自分の今いる環境が…自分を取り巻く状況が…確認できない。


 あたりをきょろきょろと見回すと…、少し離れた場所で、ほのかに光のようなものが漏れているのを発見した。


 ……あれは、救いの光なのか、それとも。



 ~選択してください~


 光のところまで歩く →→→ 【2】響く足音

 その場で様子を見る →→→ 【3】待てば海路の日和あり



 貴方が選択したのは、こちらです。


 その場で様子を見る →→→ 【3】待てば海路の日和あり



 …いきなり見通しの悪い場所に放り込まれたんだ。

 下手に動いて、罠でも仕掛けられていたら…命が危ない。


 今この状況で何ら苦痛を感じていないのだから、しばらく様子を見る方が良いだろう。

 腹が減ってから動き出しても…おそらく問題はないはずだ。

 ……大丈夫、たぶん何とか、なる。

 ぼんやりした頭で留まる理由を探しつつ、地面に腰を下ろして…胡坐をかく。


 闇を見つめているからか、段々目が慣れてきた。


 もしかしたら少しずつ明るくなってきているのかもしれない、そんなことを思っていると、何やら…?


 くん、くん…この…匂いは…。


 これは、肉の焼ける、ニオイか……?



 ~選択してください~


 イイにおいだ、腹が減ってきた →→→ 【9】焼肉

 イヤなにおいだ、気分が悪い →→→ 【10】焼き肉



 貴方が選択したのは、こちらです。


 イヤなにおいだ、気分が悪い →→→ 【10】焼き肉



 においが気になって、辺りを改めてキョロキョロと見回すと・・・うん?

 目の端に、ほんの少しだけ明かりがさしたような気がした。


 恐る恐る、近づいてみる。……なんだ、暗幕があるじゃないか。

 …ぱちぱちという、何かを焼いている音のようなものがかすかに聞こえる。

 そっと分厚い布に手をのばし、ほんの少しだけつまんで中をのぞくと、誰かが一人で焚き火?をしているのが見えた。


 部屋の中でこんなことをしているなんて…と思っていると、火をつついている人が俺に気づいて軽く頭を下げた。


 目が合ってしまったので、軽く頭を下げつつ、近づいてみることにする。

 ……同世代の、少し気の弱そうな男性だ。なんとなく見たことがあるような気もしないでもないが、誰なのかは思い出せない。


「こ、こんにちは。え、ええと…、ここは、…ぅ、うぷっ!!」


 近づくたびに強くなる、なんともいえない不快なにおいに…思わずえづいてしまった。


「…君には、このにおいは不快なものなんだね」


 平然と火をつついている男性がつぶやいた。

 その表情は…少し悲しそう…なのか…?


「だったら、もしかして…ここから出られるかも、知れない」


「えっ!!ぐ…ごほ、詳しく教え…げほ、げほ!!」


「もうあらかた燃えたから、あっちに行こうか。君が来て空気が入ってしまったから、思いのほか燃え上がってしまってね」


 この篭るようなニオイは暗幕を開けて入ったせいもあったのかと思った後、この空間に窓がないことが気になった。

 酸素とかどうなっているんだろう。もしや、窒息死…


「ここで焼いているのはね、不要になった…肉なんだよ。誰にも焼いてもらえずに、腐ってしまった…かわいそうな、肉でね」


 腐ったものを焼いているから、ものすごい匂いになっているのか…?


「焼かなければいけないものが、まだこんなにたくさんあるんだ」


 男性が移動し始めたので、ついていくと…やや大振りな箱が几帳面にスチールラックに収められていた。


 やまふじよしお、きもとうめこ、ほんだしょう、、、名前か?

 箱の側面に、ひらがなで…


「・・・えっ!!!」


 いちばんはじっこの、隙間があるラックに収められている箱を見たとき、思わず声が出てしまった。


 さかしたあじよし…俺の名前だ!!!


「…気になるものがあったのかい?開けても、いいよ」



 ~選択してください~


 箱のふたを開ける →→→ 【12】プレゼント

 箱のふたを開けない →→→ 【11】遭遇



 貴方が選択したのは、こちらです。


 箱のふたを開ける →→→ 【12】プレゼント



 ふたを開けると…生木の匂いと、泥の匂いと、埃の匂いに、鉄臭い匂いがした。土と葉っぱに埋もれた、黒っぽい布が…見える。


 震えはじめた手で、折れ曲がった太い枝をよけると、見覚えのある…グレーのスーツが。

 少し湿っているのは…血が染みこんでいるから、か。


 こんな所に入れられているという事は…おそらく。

 微塵も動かないという事は…多分。

 冷たさに指先が震えてしまうのは……。


 ああ、ここにあるのは、……俺の。

 今、ここにいる俺は、……ただの。


 なぜだか急に、心が…さめた。


 すべての感情が…失われて、いく……。


「君、もう…ここに迷い込むような事をしては、ダメだよ?」


 男性の声が…身に沁みる。

 ……いや、俺の身は箱の中に入っているから…この場合は、心に染みているのだろう。


「いいかい、人というのは、無茶をする必要はないんだよ。どこまでなら許されるのか、どこまでなら帰れるのか、どこまでなら耐えられるのか…いつも人はギリギリを攻めて、見誤って、後悔をする。帰れなくなってからでは、遅いという事に気が付かなければね」


 無責任に『大丈夫』を連呼していた、自分を思い出す。


 すぐに調子に乗って、いつも悪運に助けられて。

 自分は運がいいのだと信じ込んでいた。


 なんとかなって当たり前、そう信じ込んでいたからこそ、今のこの現実が…きつすぎる。


 俺は、死んだのだ。

 俺は、死んでいたのだ。

 俺は、死んでしまったのだ。


 傷む胸もないのに、しくしくと痛みを感じる。

 俺は今、後悔をしているのだろうか……。


「とりあえずで悪いけど…君には、教訓をプレゼントすることにしようかな。自分の身の回りにある施しなんかに気が付く時が来たんだね。甘んじて受け入れて、次回に活かすといいよ」



「坂下さーん、失礼しまーす!」


「あ、ウンチ出てます、どうしよう先にやります?」

「うーん…まだ少ないから、先にご飯してからにしようか」


 聞こえてくるのは、看護婦の声。


 身動きできない、声が出ない、目が開かない、何もできない。

 時々思い出したように痛みを感じて、ふとした拍子に息苦しくなる。

 けたたましい機械音がすることもあるし、誰かの体温らしいものが触れることもある。


 俺は生きている。

 俺は生かされている。


 自らの選択で、生きることをやめることは…できない。


 ただただ、ひたすらに…生き続けるしかない。


 あの時、あの人は、次回に活かせと言った。

 俺には……、次の人生が、あるのだ。


 次の人生が豊かになるために、俺は今、過酷なこの運命を…甘んじて受けよう。


 一ミリも動かない体の機能がすべて停止するまで…、感謝の心を育てるのだ。

 何一つ考えることができなくなるまで…すべての出来事が糧になると信じて生きるのだ。


 いつか生まれ変わって…自由に動ける体になったら。


 必ず、感謝を。

 必ず、恩返しを。

 必ず、手助けを。

 必ず、誰かのために。

 必ず、自分の力で。


「ご飯はいりますよー」


 胃袋が満たされていくのを感じながら、硬く心に、誓った。



 ~選択肢がありません~


 貴方は何も選べません。

 またの機会をお待ちください。

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