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退院する前日となった守。
-85 離れ離れに-
穏やかな日々が流れ、退院を翌日に控えた守は光江による検温と血圧測定を受けていた。光江が言うには両方共正常値で、守自身も食事をしっかりと摂れていると言っている。
光江「いよいよ明日だね、どう?ここのご飯不味かったでしょ。」
守「そんな事無いよ、意外とバラエティに富んでて美味しかったよ。」
そんな2人の元にカルテを片手に持った亮吾がやって来た、担当医はいつも通り触診等を行い守の状態を確認して頷いた。
亮吾「うん、もう大丈夫そうだね。予定通り明日には退院できそうだ。」
守「先生には頭が本当に上がりません、有難うございます。」
すると亮吾は何かを思い出したかの様に懐で何かを探し始めた。数分後、小さな紙を取り出して守に手渡した。
亮吾「はい、これこの前言った串カツ屋の地図と電話番号だ。今はまだ駄目だけど、もう少し良くなったら真帆と行くと良い。」
亮吾が守に笑いかける中、廊下の方から大きな足音がした。足音の正体は2人の予想通りだった様だ。
亮吾「こら真帆、いくら早く会いたいからって走っちゃ駄目だろう。」
守「そうだぞ、「病院内ではお静かに」って言われなかったか?」
真帆「ごめんごめん、明日守が退院すると思うと興奮しちゃって。」
真帆が右手で頭を掻く中、父親は2人にある提案をした。
亮吾「そうだ、今日の昼は2人で食べると良い。ここに真帆の分も持って来て貰える様に特別に言ってみよう。」
亮吾は内線を取り出して事情を説明した。
亮吾「OKだそうだ、ただお前が持って行けって変な条件を付けられちゃったけど。」
数時間後、亮吾がもう1人を連れて2人の元に食事を運んで来た。
亮吾「お待たせ、ゆっくりと楽しむと良い。」
守「有難うございます、こちらの方は?」
亮吾「こ・・・、この人は今俺の所で研修している学生だよ。」
その研修医は決して名乗らず、恋人達をじっと見た。
研修医「良いですね・・・、俺も早く彼女が欲しいですよ。」
亮吾「何を言っているんだ、今は勉学に集中しろ。」
研修医が亮吾に叱られてそそくさに出て行くと、守達は眼前の常食を食べる事にした。一先ず、横に添えられた牛乳を手に真帆が一言。
真帆「前祝しよう、乾杯!!」
2人は明日の退院に向けて乾杯して一気に口に流し込むと、突然吐き気と腹痛に襲われ息が出来なくなってしまった。
真帆「ま・・・、もる・・・。」
守「ま・・・、ほ・・・。」
2人の声はどんどん弱くなり、目も重くなった。そして守が再び目を開けると信じ難い光景が広がっていた、先程までいた狭い病室とは違ってそこは一面広大な草原だった。少し遠い所には高層ビルが数棟並び、もう一方では昔ながらの田園風景が見えた。
守は辺りを見回したが真帆はいない、その代わりに銀髪の男が立っていた。守を起こそうと必死に声を掛けて来ているが何を言っているのか分からなかった。
男性「・・・!!・・・!!」
守「え・・・、何言ってんの?それとここは・・・、あの世?真帆もいない・・・。」
すると先程まで分からなかった男の言葉が分かる様になった。
男性「おいおい勘弁してくれよ、言葉が分かるなら何で最初から話さないんだ。」
守「え・・・、す・・・、すいません。頭がこんがらがってて・・・。」
守はどうなってしまったのだろうか。




