82
担当医は守の身を案じていた。
-82 担当医の正体-
守の顔色を見て一安心した担当医は念の為に触診と聴診器による診断を行った。
担当医「うん、もう大丈夫だね。麻酔も抜けて来てるから安心してね、もう少ししたら部屋に戻れるからね。」
守「良いん・・・、ですか・・・?」
守が少し曇った表情をしていたので担当医は少し機転を利かせてみる事にした。
担当医「何だい、部屋に戻りたくないのか?それとも俺の娘と付き合っているってのにお気に入りの看護師と浮気しようってのか?」
担当医の言葉に驚いた守は、担当医の名札を見た。顔写真の横には確かに「森田」の文字があった。
守「す・・・、すいません。全く気付かずに!!」
担当医「ハハハ・・・、冗談だよ。改めまして真帆と真美の父親である「亮吾」です、宜しくね。」
守が何処から何処までが冗談なのか分からなくなっている中、亮吾は右手を差し出した。どうやら握手を求めているらしい。
守「動くかな・・・。」
先程まで体に全く力が入らなかった守は不安になりながらゆっくりと右手に力を入れた、右手に確かな感覚があった事で少し嬉しくなった守は恋人の父親の手をしっかりと握り返した。自分を死の淵から救った手は守にとって温かく、大きい物だった様だ。
守「有難うございます、先生・・・。いや、お義父さん!!」
涙をこぼす守の前で亮吾は再び笑った。
亮吾「ハハハ、君は気が早いな。俺はそういう奴、嫌いじゃないけどね。さて、行こうか。」
亮吾はそう言うと数人の看護師と共にベッドごと守を元の病室へと運んだ、窓から差し込む陽の光が見慣れた景色を照らしていた。
守はリモコンでベッドを起こすと例の宣告の事を思い出して考えた。
守「このままじゃ俺だけじゃなくて真帆にまで危険が及ぶな・・・。」
不安になっている守の下に龍太郎が手土産を持ってやって来た。
龍太郎「おう、大変だったらしいじゃねぇか。どうした、浮かない顔して。」
守は宣告の書かれた手紙を龍太郎に見せた。
龍太郎「義弘派閥の奴からか?」
守「うん、多分俺に毒を盛った際に置いて行ったと思うんだけど。」
龍太郎には1つ、確認しなければならない事が有った。
龍太郎「でもよ、2人共今はムショの中だぜ。どうやってそんな事は出来んだよ。」
守は頭を掻きながらある事を思い出した。
守「実は昔母ちゃんが言ってたんだけど、義弘派閥は2人以外に何人かいるみたいなんだ。」
守の言葉に驚愕する龍太郎、実は長年義弘関連の事件を追っていたが義弘派閥はずっと2人だけだと思っていたのだ。
龍太郎「すまんが、詳しく聞かせてくれねぇか?」
守「悪い、俺も母ちゃんも余り知らないんだよ。義弘派閥の情報は結愛でも知らないって言う位だから。」
龍太郎「そうか・・・、悪かったな。」
頭を下げる龍太郎に病室の出入口の方向から声を掛けた者がいた。
声「あまり娘の恋人を困らせないでくれるか?」
そう、声の正体は守の命の恩人である亮吾だった。
守の事を気遣うのは医者としてなのか、それとも義父としてなのか?




