⑦
ずっと我慢していた涙。
-⑦ 懐かしい仲間-
守の言葉を聞いた圭は、学生の頃の自らの気持ちに正直になったが故の行動を反省したのか少し抵抗しながらも守の肩にそっと手を置いた。
圭の手の温かさが無くなった恋人のものに似ていたのか、守の目にはずっと我慢していた熱いものが浮かんでいた。
守「くっ・・・。」
圭「だ・・・、大丈夫?」
足の力が一気に抜けた守は地べたに座り込んでしまった、小刻みに体が震えている。心の片隅にずっとしまい込んでいた好美への「大好き」と言う気持ちがまた再び溢れ出し始めたのだ。
守「悪い・・・、まともに歩けそうにないから少し肩を貸してくれるか?」
圭「勿論良いよ、私で良かったら何でも協力するから。」
声を殺しながら涙を流していた守は圭の力を借りて静かに家へと入って行った、廊下をとぼとぼと歩いて奥のリビングに入ってすぐの場所にあるソファに腰を下ろした。
1人では何も出来そうになかった守は隣にいる圭の存在が本当に嬉しかったのか、思わず圭を強く抱きしめて涙ながらに訴えた。
守「圭・・・、俺どうすりゃいいんだよ!!全然分かんねえ・・・、俺は好美の為に何が出来るんだよ!!」
圭「あの工場長に復讐するって誓ったんでしょ、それに守は1人じゃない。結愛や光明が味方になってくれているんでしょ、安心して。それに私もいるから。」
守は話が全く見えなかった、どうして喫茶店での事を圭が知っているのだろうか。
守「お前・・・、あの場所にいなかっただろ?どうして?」
圭「真帆が言ってたのよ、森田真帆。ほら、昔そこの空き地で私の2歳下の親戚と遊んだ事あったでしょ。」
ずっと前の小学生時代の夏休みの事だ、当時まだあどけなかった守が朝から正や光明達と近くの空き地で鬼ごっこや缶蹴りをして遊んでいた時に圭が一回り小さいショートボブの女の子の手を引いてやって来た事があった。
圭(当時)「入ーれーて。」
守達は缶蹴りの缶を元の位置に戻して圭の元へと向かった。
守(当時)「良いよ、でもその子誰?」
正(当時)「初めて見る子だね。」
圭(当時)「隣町に住んでいる真帆ちゃん、私の親戚なの。この子も一緒に遊んでいい?」
勿論と言わんばかりに守達は真帆を歓迎した、どんな遊びでも大人数でやった方が楽しいからだ。決して仲間外れにする事はなかった。
真希子(当時)「もうお家の人が心配するから皆帰りなさいね。」
守達は夕方に真希子が声を掛けるまでずっと遊んでいた、お陰で夏休みの宿題がなかなか進んでいなかったが全然気にしていなかったという。
守「あの時の真帆ちゃんか・・・、でも久しく会って無いけど・・・。」
圭「何言ってんの、喫茶店で働いてたでしょ。守の事放っとけなくてプリンあげたって言ってたよ。」
圭の言葉を聞いた守はじわじわと思い出した、聡のいる喫茶店で働いていた初めて会ったはずの女の子の髪型がどこか懐かしいショートボブで名札に書かれた苗字が「森田」だったのだ。
圭が懐から携帯を取り出して何処かにメッセージを送った数秒後、勢いよく玄関が開いて誰かがリビングへと向かってくる音がした。音の正体は勿論、噂の真帆だった。
真帆「守兄ちゃん!!真帆の事思い出してくれた?!」
守「ああ・・・、思い出したよ。プリンありが・・・。」
守がお礼を言おうとした瞬間、真帆が勢いよく抱き着いて泣いた。まるで秀斗との再会を果たした時の美麗みたいだ。
真帆「会いたかったよ・・・、守兄ちゃん・・・。一緒の高校行く約束したのに忘れちゃったの?真帆、高校でずっとお兄ちゃんを探したんだよ、どうしていなかったの?」
誰もが辛さを抱えて生きている。