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夜勤族の妄想物語3 -6.あの日の僕ら2~涙がくれたもの~-  作者: 佐行 院


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75

真美は豊との再会を心から喜んでいた。


-75 山中での惨劇-


 真美は豊に感謝の意を伝える為、恩人の目の前にある瓶ビールを手に取りグラスに注ぎ始めた。


豊「いつ振りかな、真美ちゃんに注いでもらうのは。」

真美「確か私が中学生だった時以来だったと思います。」


 そう、丁度真美が豊の部屋に入り浸って経済学の本を読み漁っていた頃だ。真美は学校が終わるとまっすぐ松龍へと向かい、居住スペースにある豊の部屋で宿題を終わらせてから夜までずっと経済学の本を読み、夜になると晩酌をする豊と経済学について語り合っていた。


豊「本当、顔が生き生きしていたよな。俺が読んでいない所も読んでたから話に追いつくのが大変だったよ。」


 ただ豊は楽しそうに話す真美を見て懸念している事が有った、自分の所為で真美が1人の女の子としての人生を楽しめていないのではないだろうかと。その証拠に、いつもの事だが真美の服装は真帆に比べて質素な物だった。


豊「真美ちゃんはファッションとかには興味が無いのかい?」

真美「あんまり無いですね、どれだけ着飾っても自分は自分なので。」


 真美はそのままの意味で言ったつもりだったが、豊には意味の深い言葉に聞こえた。それと同時にあの頃の自分は無理し過ぎていたのではないかと悟った。

 豊が阿久津組にいたのは、元々は自分の意志ではなかった。幼少の頃、母と豊が手を繋ぎ買い物に出かけていた時の事だ。2人は何者かの手により突然黒のワンボックスに押し込められた。窓からの光が黒のカーテンで遮られ、真っ暗な車内で豊は泣きわめいていた。


犯人「うっせぇぞ、殺されてぇのか?!」


 自らも苦しみながら、母は豊を守ろうとした。


母「お願いです!!この子の命だけは奪わないで下さい!!」

犯人「そうかい、じゃあその通りにしてやるよ。」


 犯人がそう言うと車は急停止してスライドドアが開いた、人気の無い静かな山中だった。


犯人「出ろ。」


 母が犯人に引きずり出され地面に落ちてしまった瞬間、犯人の撃ち放った銃弾が母の心臓を貫いた、即死だった。犯人はその山に母の遺体を捨ててしまった、豊の目の前で。

 その数分後の事だ、銃声を聞いた数人の男達が駆けつけて来た。その中の1人が犯人に怒鳴った。


男「お前は三井組の・・・、堅気の人に手ェ出すなって言われなかったのか?!」

犯人「お前は阿久津組の・・・、関係ねぇやつは引っ込んでろ!!」


 そう、偶然にもその場に駆けつけて来たのが阿久津組の組員達だった。犯人は舌打ちした後、ダッシュでその場から逃げ出した。


組員「待ちやがれ!!」


 数人の組員が犯人を追いかけていく中、1人がワンボックスの中にいた豊に気付いた。


組員「組長、あれ!!」


 先程犯人を怒鳴った男が組長だったらしい、状況を察した組長は優しい表情で豊に近づいた。


組長(当時)「お前さん、母ちゃんはどうした?」

豊(当時)「あ・・・、あそこ・・・。」


 豊は震えながら母の遺体を指差した、組長は血だらけになった遺体に近付き手を合わすと再び豊に質問した。


組長(当時)「父ちゃんは何処にいるんだ?」

豊(当時)「父ちゃん、いない・・・。」


挿絵(By みてみん)


 そう、豊の父は豊が生まれる前に他に女を作って蒸発していた。組長は豊の頭をゆっくりと撫でた。


豊は組長の事が優しい父親にしか見えなかった。

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