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夜勤族の妄想物語3 -6.あの日の僕ら2~涙がくれたもの~-  作者: 佐行 院


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71~72

安正の思い出話にお腹いっぱいの真帆。


-71 大将の過去と正体-


 安正達の惚気たっぷりの思い出話に浸りながらそれを肴に呑む真帆は、段々つまらなくなってきたのか、それとも酔いからか、目をじとっとさせて呟いた。


真帆「結局、キス魔の話じゃん。」

安正「待てって、ここからが良い話なんだ。」


 必死に真帆を宥める安正の横から美麗が口を出した。


美麗「ここからは私が話して良い?」


 当時沢山の出店が並ぶ中で堂々と口づけを交わし、歩き出そうとしていた2人を追いかける様に呼ぶ声がした。声の主は綿菓子屋のサブだ。


サブ(当時)「待ってくれ、ちょっと時間あるか?兄・・・、大将があんた達を呼んでいるんだ。」


 動揺を隠せない安正とは裏腹に堂々とした態度で答えた美麗。


美麗(当時)「分かりました、行きます。」


 2人はサブの案内で大将の待つ屋台の裏へと向かった、客足が落ち着いた様で小休止を取っていた大将は煙草を燻らせていた。


挿絵(By みてみん)


大将(当時)「いきなり呼んで悪いな、サブもすまねぇ・・・。」


 大将は小銭入れから500円玉を1枚取り出してサブに手渡した。


大将(当時)「すまんがこれでコーラでも買ってきてくれや、御釣りはお前にやるから。」


 サブは状況を察して会釈するとすぐさまその場を離れた、大将は煙草を深く吸い込んでゆっくりと吐き出すと2人に話しかけた。


大将(当時)「間違っていたら悪い、君は龍太郎さんの所の美麗みれいちゃんだね?」

美麗(当時)「はい、お久しぶりです。ゆたかさん。」


 状況を上手く読み込めない安正は少し焦りの表情を見せた。


豊(当時)「そうなるのも無理はないさ、そちらの方は彼氏さんかい?」

美麗(当時)「はい、最近付き合いだした安正って言います。」

豊(当時)「そうかい、俺は渡瀬わたせ豊だ。気軽に「豊」って呼んでくれ。」


 豊が先程まで綿菓子を作っていた「職人の手」で安正に握手を求めたので安正はゆっくりと手を出した。


安正(当時)「桐生安正です、よろしくお願いします。それにしても美麗メイリー、どうして2人が知り合いだったって事を黙ってたの?」

豊(当時)「俺が他の人の前では他人のフリをする様に頼んだんだ、ヤクザと知り合いだってバレたら美麗ちゃんが悪く言われて可哀想だからな。」

安正(当時)「でもどうして2人は知り合いになったの?」

美麗(当時)「えっとね・・・。」

豊(当時)「美麗ちゃん、俺から話すよ。これは美麗ちゃんがまだ小さい頃だ、当時俺が幹部として所属していた阿久津組と赤江組という2組の広域指定暴力団の間で麻薬の闇取引があってな、その取引現場が何者かによって警察にバレたんだ。その時、理不尽にも疑われたのがその場にいなかった俺で、両組から恨まれ組を追い出された俺は抗争に巻き込まれて殴る蹴るの暴行を受けてボロボロだった。必死に川沿いの土手を走って逃げていたが力尽きかけた俺は近くの橋の下で体を休めようとしたんだ。偶然そこにいたのが当時まだ警部だった龍太郎さんだったんだ。」


 その頃まだ松戸夫婦が警察の人間だった事を知らなかったので安正は焦っていた。


安正(当時)「龍さんが警部だって?!」

美麗(当時)「何かそれっぽい事をパパも言ってたけど本当なんだ。」


 開いた口が塞がらない2人をよそに豊は昔話を続けた。


豊(当時)「ああ・・・、その時に言われたよ。」

龍太郎(回想)「これを機に足を洗え、バラしたのがお前じゃないって俺は知っているしこれからの働き口も一緒に探してやる。」

豊(当時)「あの時は嬉しかった、初めて救われたって気がしたよ。」


-72 涙を誘った思い出の味と報告-


 祭りの熱気が冷める事を知らない中、屋台の裏で煙草を片手に豊は語り続けた。


豊(当時)「俺は龍太郎さんの案内で美麗ちゃんの住む店に行った、ただ財布も持たずに飛び出したから一文無しだったんだが。そんな俺に龍太郎さんは笑顔でこう言ってくれたよ。」

龍太郎(回想)「近くの肉屋と共同で作ったうちの人気商品なんだが作り過ぎて余ったんだ、良かったら食ってくれ。お前の事は俺が何とかしてやるから、金の事とかは気にすんな。」

豊(当時)「あの時食った「よだれ鶏」とふっくらと炊き上がった銀シャリの味と香りは今でも忘れないよ、それをきっかけに俺は暫くの間松龍に住み込みで働く様になったんだ。その時、ちょこちょこ美麗ちゃんと外で遊ぶようになったんだよ。」

美麗(当時)「私が格闘技を習ったきっかけもこれ。」

豊(当時)「それから俺は龍太郎さんの知り合いを通じてこの屋台の仕事を紹介して貰ったんだよ。」


 美麗の心温まる話を聞いた真帆がずっと泣いている中、松龍の出入口から懐かしい声が。


声「お邪魔します、皆元気にしているかな?」


 そこにはあの時と同じで優しい顔をした豊がいた。


美麗「豊さん!!」


 美麗は思わず飛び出した、まるで子供の様に懐かしい顔に抱き着いた。後から安正も会釈しながら顔を合わせ、店内は温かな雰囲気に包まれた。


真帆「もしかして、さっき話に出た豊さん?」

美麗「うん、私の恩人の豊さんだよ。」


 座敷で顔を赤らめながら自分の名前を呼ぶ女の子を見て頭を掻く豊。


豊「あの子って真帆・・・、ちゃんだよね。森田さん家の。」

美麗「豊さん知っているんですか?」

豊「2人共小さい頃一緒に遊んでたの覚えて無いのかい?そう言えば・・・、真美ちゃんはどうしたの?」

美麗「豊さん、どうしてそんな昔の事を覚えているんですか?」

豊「そりゃそうさ、生きている間ここに来るまではあまり楽しい思い出が無かったからね。あの頃の事は今でも昨日の事の様に鮮明に覚えているよ、ここはある意味俺の人生が始まった場所だからね。」


 豊が楽しそうに語っていると、店の奥から龍太郎が瓶ビールを片手に出て来た。


龍太郎「久々だな豊、取り敢えずゆっくりして行ってくれ。」

豊「龍太郎さん、頂いても良いんですか?」

龍太郎「俺が一緒に呑みたいと思ってお前を呼び出したから当たり前だろうが、それとも俺の酒が呑めないってのか?」

豊「そんな事は無いです、有難く頂きます。」


 豊が持つグラスに龍太郎がビールを注ぐ中、真帆が携帯で真美を呼び出した。


真帆「真美、すぐ来るって言ってます。」

豊「そうか、ありがとう。」


 龍太郎は美麗の方を見て「あの報告」をさせる事にした。


龍太郎「美麗、お前の恩人にあの事をちゃんと報告しておけ。」

美麗「うん、勿論。」

豊「報告・・・、ですか?」

龍太郎「ああ、今日はその為にお前を呼んだんだ。」


 安正と美麗は座敷でゆっくりと過ごす豊の前で正座した。


美麗「豊さん、報告があります。私松戸美麗は、ここにおります桐生安正君と結婚する事になりました。」


挿絵(By みてみん)


 美麗の報告を聞いた豊はグラスをテーブルに置くと大粒の涙を流し始めた、美麗の事を自分の娘の様に可愛がっていた分嬉しさが倍増していた。


豊「そうか・・・、おめでとう・・・。良かったね、お祝いに是非注がせてくれよ。」


 この日、豊はずっと泣きながら目前の「娘」達と盃を交わしていた。


豊は生きてて良かったと感動していた。

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