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夜勤族の妄想物語3 -6.あの日の僕ら2~涙がくれたもの~-  作者: 佐行 院


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70

期待に胸が膨らむ恋人達。


-70 嫉妬の矛先-


 2人は綿菓子の屋台から数メートルに渡り伸びる行列に並んで自分達の順番を待っていた、十数分経過してやっと自分達の番が近づいて来た時に恋人たちはある事実に気付いた。


安正(当時)「結構大きいね、どうしようか。」

美麗(当時)「お腹いっぱいになっちゃったら他の屋台を楽しめなくなっちゃうね、最初から困ったな・・・。」


 2人は数分の間黙り込んだ後に互いを見つめ合って声を掛けた。


2人(当時)「半分こしようか。」


 顔を赤らめながら手を繋いで待つ恋人達の様子からは初々しさも見て取れたのだが、互いが同じことを考えていた事による照れと嬉しさで2人の顔はもっと赤くなった。


美麗(当時)「もうすぐだね、甘い良い匂い・・・。」


 それから数分経過して2人の番まであと2組となった、ここまで近づくと屋台の中の様子を伺えたのだが見た目からしてどう考えてもヤクザ者の幹部と言える40~50歳代の男性と下っ端らしき20~30歳代の男性の2人で営業している様だった。ただ周囲でこの屋台の綿菓子を楽しんでいる客たちは本当に美味しそうに食べていた、どうやらこの屋台は当たりの人気店らしい。

 そして2人の番となった、注文は「下っ端」の方が受け付けている様だ。


下っ端(当時)「いらっしゃい、2つで良いかい?」

安正(当時)「いや、1つでお願いします。」

下っ端(当時)「何でだよ、ケチくせえ事言うなよ。」


 すると隣で見事な綿菓子を作っていた「幹部」が「下っ端」を怒鳴った、2人の様子から恋人たちの意図を汲み取ったのだろうか。


幹部(当時)「サブ!!余計な口たたいてんじゃねぇ!!」

サブ(当時)「す、すいません、兄・・・、大将・・・。じゃあ君ら1つね、300円ね。」

大将(当時)「待てサブ、君ら怖い思いさせてすまねぇな。こう見えてもヤクザから足洗って堅気の人間として頑張ろうと思ってんだよ、実は俺達は昔からある恩人のお陰で料理やお菓子作りが密かな趣味だったからこうやって綿菓子の屋台を出してんだけどな。どうやらまだヤクザ者の血が抜け切れてねぇみたいだ、悪い事しちまったからこれは俺からの侘びだ、タダで持って行ってくれ。こう言っちゃなんだが、幸せな2人に俺からの手向けって事にしといてくれや。」

美麗(当時)「良いん・・・、ですか?」

大将(当時)「ああ・・・、俺は決して嘘はつかねぇ・・・。」


 そうして屋台を離れた2人、綿菓子を持っていた美麗は大きな袋を開けて甘さたっぷりの中身とご対面した。


美麗(当時)「じゃあ、食べてみるね。」

安正(当時)「うん。」


少し遠慮しがちだったのか美麗が小さな口で少量の綿菓子を咥えると、何故か安正はその綿菓子の事が羨ましくなり、そして何故かその綿菓子に嫉妬していた。きっと初めての感情だったと思われるがつい口に出てしまった。


安正(当時)「俺も、その綿菓子になりたい。」

美麗(当時)「何言ってんの、変態?」

安正(当時)「いや・・・、何でも無い。」

美麗(当時)「それよりほら、安正も食べてみなよ。」


 こんな楽しい気持ちになれたのは他でも無い成久達のお陰だ、友人たちの力を借りたとは言え誘えて良かったと思った。正直、涙がこぼれそうだ。

 じっと動かず無言だった彼氏を見かねたのか、美麗は安正の両肩に手をやった。


美麗(当時)「何?それともこっちが良い?」


挿絵(By みてみん)


 そう言うと優しく唇を重ねた、相も変わらず自他ともに認めるキス魔であった。ただ松龍とは違って多くの人が集っている場所だというのに堂々とし過ぎではないだろうか。


安正(当時)「甘いな、これはさっきの綿菓子の味なのかな。」

美麗(当時)「違うもん、私の唇の味だもん。」


 安正に続いて美麗も綿菓子に嫉妬した。


2人をより一層近づけた綿菓子。

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