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とにかく美麗は桃の事が羨ましかった。
-67 高嶺の花による幸せの連鎖-
目の前で新たな花嫁の誕生を目の当たりにして美麗は紹興酒を片手に立ち尽くしていた、娘の様子をじっと見ていた女将は左肩に右手をそっと置いて尋ねた、勿論周りに気付かれない様に中国語で。
王麗(中国語)「どうした?寂しくなっちゃったのかい?」
美麗(中国語)「うん・・・、私も今すぐ安正に会いたい・・・、2人が羨ましい。」
王麗(中国語)「相も変わらずあんたは寂しがり屋だね、そう言うと思ったよ。」
美麗(中国語)「えっ・・・?!」
王麗が店の出入口を指差した瞬間、安正がダッシュで店の前に現れた。これこそナイスタイミングと言えるやつだ。
美麗(日本語)「安正!!どうして分かったの?!」
安正「お前が呼んだんだろ、10分以内に来いって言ったの誰だよ!!」
美麗「私・・・、そんな事言った覚え・・・。」
まさかと思った美麗はすぐ後ろにいた母親の方に目をやった、王麗はそれに気付くと娘に向かってウィンクした。
美麗「ママ・・・、いつの間に?」
王麗(日本語)「何年あんたの母親をやってると思ってんだい、お見通しに決まってるじゃないか。」
母親の気の利いた行動に感動した娘は涙ながらに出入口へと走った、と言ってもほんの十数メートルなのだが。ただ本人にとっては遠かった、それが故にギュッと抱きしめた。
美麗「安正!!会えないと思ってた!!」
安正「大袈裟だよ、昨日も会ったじゃないか。」
王麗「美麗・・・、本当に安正君の事好きなんだね。」
王麗は安心した、秀斗が亡くなってから美麗の笑顔を見る度に無理しているのではないかと心配していたからだ。安正の顔を見て心から笑っている娘の表情を見た女将は肩に重くのしかかった荷が下りた気がした。それ位、娘には幸せになって欲しいと思っていたからだ。きっと亡くなった秀斗もそう願っているはず、それも理由の1つだった。
王麗「安正君、私はあんたに謝らないといけないみたいだね。」
安正「女将さんが俺に?」
王麗「ほら・・・、結構前の事だけど店の座敷席であんたと美麗がキスしてたのを目撃して思わずあんたの事を見下してしまった事さ。」
安正「あの事か・・・、あれは俺も悪かったから女将さんが謝る事は無いよ。」
王麗「そうかい?そう言ってくれるなら安心したよ。」
娘が心から愛している男を見下していたが故に未だに2人の事を認める事が出来ていなかった王麗は改めて美麗の気持ちを確かめたくなったので声を掛けた。
王麗(中国語)「美麗・・・、この際はっきりと聞くけどもう秀斗君への未練は残っていないのかい?」
美麗(中国語)「完全にって言ったら嘘になるよ、だって今こうやって生きているのは他でもない秀斗のお陰だもん。でもね、ずっと1人で泣いている事を秀斗が望んでいるとは思えないの。」
王麗(中国語)「確かにそうだね、秀斗君も父ちゃんや母ちゃんと同じであんたの幸せを願っているはずだもんね。」
美麗(中国語)「ママ・・・、私言っちゃって良いかな?女の方から言うのっておかしい?」
王麗(中国語)「良いんじゃないのかい?父ちゃんもあんたの事なら何だって認めてくれるはずだよ。」
王麗は美麗の背中をそっと押した、美麗は深呼吸して涙を飲みながら語った。
美麗(日本語)「秀斗が目の前からいなくなってから、私の世界はずっと何処か陰のあるものにしか見えませんでした。正直、生きていたくなくなって秀斗の葬儀の日に部屋でリストカットをしてしまった事を今でも鮮明に覚えています。そんな私をずっと気遣ってくれていた安正には感謝しているし、これからも大好きでいさせて欲しいから言わせて下さい。
桐生安正君、私と結婚して下さい。ずっと、隣で人生を歩ませて下さい。」
安正「えっ・・・?」
安正が思わず王麗の方を振り向くと女将は娘の彼氏に向かってそっとウィンクした。
安正「まさか自分が逆にプロポーズされると思っていませんでした、しかもずっと遠くから見ているだけの高嶺の花だった貴女に・・・!!勿論・・・、喜んで!!」
行動力のあり過ぎる美麗。




