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龍太郎から受け取った焼酎の味や思い出を共有したくなった守。
-64 故人の盃-
店主から酒瓶を受け取った守は先程の龍太郎の言葉を思い出して美麗達がいる座敷へと好美の焼酎を持って行った、勿論真帆も誘って。
美麗は好美がバイトを終わらせた後に必ずその焼酎を楽しんでいた事を鮮明に覚えていた、懐かしい記憶が蘇った店主の娘は深刻そうな顔をして父親に。
美麗「パパ、それ呑んで大丈夫なの?好美のじゃん・・・。」
龍太郎「皆で呑んでやろう、これもきっと供養になるだろうし好美ちゃんも喜ぶはずだ。」
美麗「そうだね、それに吞めなくなっちゃったら勿体ないもん。」
守が酒瓶をテーブルに置くと龍太郎が氷と炭酸水を手に付いて来ていた、皆が好きな吞み方で楽しめる様にという心遣いだ。
龍太郎「皆、ソーダ割で良いか?」
そこにいた殆どの者が龍太郎の言った通りにしたが守だけはロックにした、どうやら亡くなった恋人の好きな味をじっくりと楽しみたかったらしい。カラカラとグラスの中の氷を鳴らしながらピーナッツを肴にゆっくりと呑み進めた、それが1秒でも長く楽しめる最適な方法だと思ったからだ。
守「好美、こんなに美味い酒知ってたんだな。呑み切るのが勿体ないや。」
静かにちびりちびりと味わう守をよそにソーダ割でどんどん呑み進める美麗達、いつの間にか好美の焼酎は半分ほどに減ってしまっていた。
龍太郎「こんなに皆が楽しく呑んでるのを見たら好美ちゃんも喜ぶだろうな。」
桃「いや、かなりの酒好きだったから逆に嫉妬しているんじゃない?でも美味しいから呑んじゃうもんね。」
守「あっちの世界で怒ってたらまずいな、でも美味いから俺も呑むもんね。」
皆が楽しく呑んでいる座敷の横で結愛がスーツをゴソゴソとさせて何かを探していた、光明によると結愛のスーツは特注らしく一般的な物と比べてポケットが多く作られていた。
結愛「あれ?この辺りに入れたはずなんだけどな?」
守「苦戦しているのは分かるけど流石に手伝う訳には行かんな・・・。」
結愛「何言ってんだテメェ、本当にやったらどうなるか分かってんだろうな!!」
守「何だよ、お前の体になんか興味ねぇよ!!」
結愛「おい守、よく見やがれ!!俺も立派な女なんだぞ!!ほらほら!!」
酔っ払い同士の罵り合いで場が一気に盛り上がった松龍の店内で大企業の社長はいつもの胸ポケットから2通の手紙を取り出して鼻血が出かけていた守に手渡した、どうやら結愛の「立派な女」の部分が探すのを邪魔していたらしい。
結愛「言い過ぎたよ、悪かったって・・・。ほらよ、両方共お前宛だ。それにしても皆して俺を何だと思ってんだよ、便利な郵便係か?」
守「助かるよ、俺もすまねぇ・・・。」
2通の手紙を両方共受け取った守は封筒をひっくり返してみたが差出人の名前は記載されていなかった、取り敢えず1通開けてみた。
守「母ちゃんからだ・・・。」
守は焼酎のロックを1口呑むと、亡くなった母がしたためた手紙を黙読し始めた。
守へ
元気かい?突然過ぎて母ちゃんも状況を上手く把握出来ていなかったけどやっとこっちでの生活に慣れて来てね、仕事も見つかったし万々歳さ。
今回筆を執ったのはあんたの事だから今頃私の葬式をして泣きじゃくっていると思ってね、でも泣いてばかりじゃ駄目だよ。隣には真帆ちゃんがいるんだからしっかりしないといけないじゃないか、母ちゃんはこっちで何とかやってみるから真帆ちゃんと幸せに暮らしな。
じゃあね、くれぐれも早まった事を考えるんじゃないよ。
母 真希子
守はもう1通の手紙を開いた、差出人はあの好美だった。内容はシンプルに一言だけ。
言い忘れてたけど守、松龍にある私のキープボトルは呑まずに置いといてね。
守「龍さんこれ見てくれる?ど・・・、どうしよう。」
龍太郎「ま・・・、まずいな・・・、美麗が最期の一滴を吞み干しちまったぞ・・・。」
どうやら桃の予想が当たったらしい・・・。




