63
守は懐かしの思い出にじっくりと浸っていた・・・。
-63 思い出達-
この日、龍太郎が作った物が守にとって人生で初めての「オムハヤシ」だったのだが、母の「ハヤシライス」と松龍の「オムレツ」のどちらも思い出深い味だったので懐かしさがやはり勝っていた。その懐かしさが嬉しさに替わり、キープボトルでの麦焼酎のロックを進ませた。
龍太郎「お前も大袈裟だな、ただの飯だぞ。泣く程かよ・・・。」
守「またこの味に会えたのが嬉しくてよ、それに昔いつも食ってたここのオムレツってやっぱり何処か他と違う味がしてたから好きになっちゃって。今も変わらないんだな。」
龍太郎「そりゃそうさ、うちは中華屋だぞ。オムレツというよりはかに玉に近いかも知れんな、隠し味として焼くときにゴマ油を使っているからな。」
守「だからか、香ばしい味がしたのは・・・。」
守は龍太郎との会話を肴にまた酒を進めた。店内には桃や美麗は勿論、既に赤くなっている結愛や真帆がいたのだが、守が少し離れたカウンター席で1人呑んでいたのでその様子を見た真帆は自らの恋人が少し寂しそうにしている様に見えた。
そこで彼氏を気遣った真帆は空になったグラスを片手に隣に座る事にした。
真帆「守・・・、こっちに来ないで1人でずっと呑んでるけど何かあったの?」
守「・・・。」
守は彼女の問いかけに応えなかったが、その表情が何処か嬉しそうに見えた。彼氏の気持ちを共有したくなった真帆は守が呑んでいた焼酎を自らのグラスに入れて呑もうとした時、守が真帆の肩に手を乗せた。
真帆「え?!まずかった?!」
守「度数の強い酒だ、生で呑むのはやめておいた方が良い。」
そう言うと真帆のグラスに氷と炭酸水を入れて焼酎ハイボールにした、やはり母から受け継いだ「周りに感謝し、周りを気遣い愛し、自分以上に他の者を大切にせよ」という気持ちがそうさせたのだろうか。
真帆「ありがとう・・・、美味しい。」
守「ごめんね、さっき答えなくて。」
真帆は未だに守から好美への未練が抜け切れていない事を承知していたので平気だった、その証拠に眼前の彼氏が食べているのは好美の好物でもあったし、松龍は生前の好美のバイト先。
真帆「大丈夫だよ、そのオムハヤシを食べていた時の守が嬉しそうな顔をしていたからそれだけでも安心したよ。」
守「そうか・・・、ありがとう。」
真帆「守の思い出の味なんだよね、真帆も1口貰って良い?」
守「龍さん・・・。」
守の言葉を聞いた龍太郎は瓶ビールを1口煽った
龍太郎「素敵な思い出は・・・、共有してこそより一層素敵になる。それに美味い物は分け合ってより一層美味くなる、寧ろ分けない方がおかしいだろう。」
龍太郎がそう言うと守は小皿にオムハヤシを取り分けた。
真帆「これが守や好美さんの思い出なんだね、味わえて嬉しいよ。」
口いっぱいにオムハヤシを頬張った後、真帆は彼氏や店主達の語る思い出話を肴に焼酎を呑んでいた。楽しい酒だったのか、いつの間にかキープボトルが空になりかけていたので守は新たに入れる事にした。
守「店休みにしてる日だけど、キープ大丈夫?」
龍太郎「それならちょっと待て、奥に良い物があったはずだ・・・。」
店主は店の奥にある戸棚へと向かい、中身の少し減った大きい酒瓶を手に戻って来た。
龍太郎「これはお前が呑むべきじゃないのか?」
警視総監が持って来たボトルにはキープ札がかかっていた、記載されていた名前は「倉下好美」・・・。
龍太郎「大切に呑んでやれや、お代は好美ちゃんから貰っているから気にすんな。」
守「ああ・・・、そうさせて貰うよ。」
また新たな思い出の存在・・・。




