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一瞬和んだ食事会場でもまだ辛さが残る守。
-60 暗い自室での再会-
まさかの桃の登場で場が和んだ一行はお世話になった日本料理店の店主に一言挨拶をしてその場を後にした、真希子の遺言通り少人数での会食だったが参列した皆は食事に満足していた様だ。ただそんな中でも未だ1人元気が出ずに俯いている守を見て、葬儀中での経緯を美麗から聞いてやっと知った桃が声を掛けた。
桃「守君、大丈夫?私が言うのも何だけどらしくないよ。」
龍太郎「桃ちゃん、すまないが仕方の無い事なんだよ、たった1人の肉親を失ったんだ。守自身の辛さはなかなか抜けないもんさ。」
桃「そっか・・・、何かごめんね。」
守「いや・・・、大丈夫。」
本当に大丈夫なんだろうか、やはり表情からは守が嘘を言っている様にしか見えなくて仕方がない美麗と真帆は少し苛ついていた。
真帆「守、強がらなくても良いんだよ。私達がいるじゃん、もっと頼ってよ!!」
美麗「真帆ちゃんの言う通りだよ、いつまでそんな浮かない表情をするつもり?!」
龍太郎「待て、きっと守はこれからどうしようか悩んでいるんだ。余り責めてやるな。」
2人は龍太郎の重みのある言葉に少したじろいでしまった後、1歩下がって様子を見る事にした。
守「龍さん、すまねぇ・・・。」
龍太郎「良いんだ・・・、ところでお前、今からどうするんだ?」
守「今日はもう何も予定が無いから一先ず家に帰るつもりだけど。」
龍太郎「良かったら呑みに来ないか?今日は臨時休業にしてあるからこっちは歓迎だぜ。」
守「龍さんが良いならそうさせて貰おうかな。」
龍太郎「じゃあ後でな、チキンカツ作って待ってるから絶対来いよ。」
守「龍さん、唐揚げもお願い出来ないかな。」
龍太郎「そうだな、忘れていたよ。悪かった。」
王麗「後、炒飯とチキンライスね。」
美麗「あの時のクリスマスみたいで楽しげだけど呑むのにご飯いるの?」
守「有難いよ、店に行くのが楽しみだ。」
解散した一行は喪服から着替える為に各々の帰路に着いた、守が真希子から譲り受けた自宅の鍵を開けて引き戸を開けるとまるでもぬけの殻になった様な空間が広がっていた。
守は自室に入るとキッチリと締めていたネクタイを緩めて私服に着替えた後、倒れる様にベッドに寝転んで枕に顔をうずめた。
守「母ちゃん・・・。」
突如目の前からいなくなってしまった真希子への想いが抜けきらない守、本人しかいないはずの暗く静かな部屋で聞き覚えのある女性の声が聞こえた気がした。
女性「何だおめぇ、浮かない顔してんじゃねぇよ。らしくねぇぞ!!」
何処か聞き覚えのある悪ガキの様な口調と特徴的な声、まさかな・・・。
女性「おい、守!!俺の事を無視するとはどういうつもりだ、コラ!!仕事抜け出してわざわざ来てやったんだぞ、さっさと起きやがれ!!」
守「お前・・・、もしかして結愛か・・・?」
結愛「俺以外に誰がいるってんだよ、好美ちゃんが来たとでも思ったのか?」
守がゆっくりと目を開けるといつも通りのパンツスーツ姿をした同級生の姿があった、その光景を見て自分は夢を見ているのかと守は頬を抓った・・・、痛い・・・。
結愛「好美ちゃんはあっちの世界にあるラーメン屋の経営や王城での夜勤で悪戦苦闘してんだから邪魔出来ねぇだろうが、今日はお前の母ちゃんに頼まれて来たんだよ。」
守「好美が・・・、ラーメン屋の経営に夜勤だって?」
結愛「ああ・・・、毎日忙しそうにしてるぜ。」
まず前提として言ってしまえば好美が異世界で何をしているのかを把握している訳じゃ無いし、第一本当に生きているのかを信じ切れない状況で死んだはずなのに当たり前の様に目の前にいる結愛の言葉を全て受け入れるべきか分からなかった。
ただ、悩んでいるだけでは話が進まないと思ったので守は起き上がって話を聞く事に。
守「それより、母ちゃんが何だって?母ちゃんはあっちで何しているんだよ。」
結愛「お前の母ちゃんな・・・、光さんの旦那さんの店で副店長をする事になったんだよ。」
どうやら、真希子が異世界で知人と再会した様なので守は少し安心した。
真希子は結愛に何を頼んだのか。




