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美麗は自信を持てなかった。
-58 脳裏に残る冷やし中華-
美麗本人曰く、「反省点が多々ある冷やし中華」を少し暗い顔をしながら真希子の座るテーブルへと運んだ。具材をもっと細くきるべきだった、麺をもっと冷たい氷水で締めるべきだったなど色々と思い浮かんでいた。
美麗(当時)「下手くそでごめんなさい、要らなかったら私が後で食べるから。」
少し緊張しながらゆっくりと皿を置く美麗、心中で「絶対怒られる・・・」と思っていたので手が小刻みに震えていた。
真希子(当時)「あら・・・、ご馳走だね。こんなに美味しそうな冷やし中華は初めてだよ。」
いくら何でも大袈裟すぎやしないかと言われかねない誉め言葉を聞くとは思わなかったので、少し驚いていた。
美麗(当時)「じょ・・・、冗談でしょ?こんなに下手くそな冷やし中華、酷いって言ってくれた方が助かるよ。」
真希子(当時)「何言ってんだい、こんなに美味しそうじゃないか。折角だから頂くよ。」
美麗が調理場に冷やし中華を下げようとしたので真希子は必死に皿を掴んで止めた後、料理をテーブルに置いて手を合わせた。
真希子(当時)「頂きます・・・。」
麺と具材を解して上にかかった醤油ダレを絡めると、目を輝かせながら早速と言わんばかりに1口麺を啜った。
真希子(当時)「うん・・・、キリっとよく締まっているじゃないか。暑かったから丁度良くて嬉しいよ。どれどれ・・・。」
真希子は美麗が自信を持てていない具材へと箸を延ばした、両親の作った物に比べると太くなってしまった胡瓜を口にした。
真希子(当時)「これ位の太さでないと瑞々しさが無くなっちゃうんだよね、私好みにしてくれたのかい?」
美麗(当時)「そ・・・、そうなの?」
真希子(当時)「それにこの叉焼、ふんわりとしていて私好きだよ。沢山入れてくれてありがとうね。」
美麗(当時)「入れすぎちゃっただけなんだけど、良かったのかな。」
少し照れ始めた美麗は指で頬を搔き始めた、涼しい店内にずっといたのにも関わらず顔が少し赤くなっていた。
美麗(当時)「いくら何でもほめ過ぎだよ、でもそう言われると嬉しいな。」
真希子(当時)「まぁこの子ったら、嬉しいのは私の方なのに。」
そんな中、「お使い」を終えた両親が店に戻って来た。まさか真希子が来ているとはと思っても居なかった。
王麗(当時・中国語)「美麗、ただいま。悪かったね。(日本語)・・・って、あら?真希子じゃないか、ごめんごめん。今からで良かったら何か作るよ、何にしようか?」
真希子(当時)「いや、美味しい冷やし中華を食べているから大丈夫だよ。」
王麗(当時)「冷やし中華・・・、もしかして美麗が作ったのかい?やだよ、具材の太さがバラバラじゃないか。作り直すからちょっと待っておくれ。」
真希子(当時)「何言ってんだい、私がいつも太めが良いって言ってたの忘れたのかい。」
美麗が作った冷やし中華を必死に守りながら平らげる真希子、横に添えられた練りからしとマヨネーズを使って十分に楽しんでいる。
真希子(当時)「いつもだったら辛子だけだけど美麗ちゃんは分かってくれていてね、私が好きなマヨネーズも添えてくれているんだ。嬉しいね・・・。」
王麗(当時)「確かに店ではいつも辛子だけさ、マヨネーズは家で食べる時だけだよ。」
真希子(当時)「これ、美麗ちゃん特製なんだろ?いくらなんだい?」
どうやら美麗と真希子の食の好みが似ているらしく、目の前の客が本当に冷やし中華を堪能した事を察した王麗は娘の頭を撫でた。
この懐かしいエピソードを火葬場の外で涙ながらに語る美麗、決して得意とは言えなかった料理で褒められた事が本当に嬉しかった様だ。
美麗「また、食べて欲しかったな。私の作った不揃いな冷やし中華。」
褒められたのが本当に嬉しかった美麗。




