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守は松戸夫婦の温かみに触れていた。
-56 過去に故人の親友が演出した懐かしき聖夜-
守は松戸夫婦が自らの為に作った特製の弁当を一口一口噛みしめる様に食べていた、大好きな味と思い出に浸る度に乾いたはずの涙が止まらなかった。
龍太郎「喪主も大変だから腹減ってたんだろうな、嬉しい食いっぷりだぜ。」
王麗「父ちゃん何言ってんのさ、真希子を亡くした守君は空腹どころじゃないはずだよ。」
まるで本当の両親の様に自分達の作った弁当を食べる喪主を見守る松戸夫婦、すると女将は何かを思い出したかのようにビニール袋を取り出した。中には白く小さなスチロール製の弁当箱が1つ、屋台のたこ焼きでも入っているのだろうか。
王麗「守君、余り物で作ったんだけど良かったらこれも食べないかい?」
守は警視からビニール袋を受け取ると中の弁当箱を取り出して聞いた。
守「開けて・・・、良い・・・?」
王麗「勿論だよ、これもあんたにとっちゃ思い出のあるものだと思ってね。」
王麗の言葉を聞いた守はゆっくりと中身を確認した、中には懐かしい料理が入っていた。
守「これ・・・。」
王麗「あんた、小さかった時も高校生の時もずっとこれが好きだったもんね。」
守「女将さん、覚えててくれたんだ・・・。」
王麗「勿論だよ、忘れる訳が無いさね。私にとっても良い思い出だったもの。」
王麗は時間の許す限り昔の思い出を語り始めた。
これは守達がまだ幼少だった頃のクリスマスの日の事だ、夜8:00前に宝田親子は仲良く手を握り空気の冷たい夜の道を歩いて松龍に到着した。
真希子(当時)「王麗、悪いねえ。クリスマスだから他の店も考えたんだけどうちの子がどうしてもここが良いって言うから。・・・ってあんた、そのサンタ服、気合入ってんね。」
王麗(当時)「そりゃあクリスマスだからね、言っちゃなんだけど今日みたいな日に中華を食べる人なんか殆どいないからね、丁度早めに閉めて小さなパーティーでもしようかって言ってたんだよ。良かったら2人も参加してくれないかい?」
真希子(当時)「良いのかい?折角の親子水入らずの時なのに。」
王麗(当時)「何言ってんだい、2人もあたしにとっちゃ大事な家族みたいなもんさね。守君、一緒にケーキ食べようね、その前に何か食べたい物はあるかい?」
守(当時)「チキンカツと炒飯!!」
王麗(当時)「それいつものじゃないか、それにチキン以外クリスマス要素が無いよ・・・、そうだ!!あれを作ろう、大皿になるから真希子も手伝ってくれるかい?守君は好きな所に座っててね。(中国語)美麗、降りてらっしゃい!!」
真希子(当時)「王麗、私は良いけど子供達はどうするんだい?言葉が通じなきゃ互いに居づらくなるじゃないか。」
王麗(当時・日本語)「そんなの心配しなくても良いよ、ほら!!」
住居部分から降りて来た幼少の美麗は守を見つけるとダッシュで座敷へと向かった。
美麗(当時)「守君、ハッピーバースデー!!」
王麗(当時)「そこは「メリークリスマス」でしょ、じゃあジュース飲んでも良いから2人で仲良くしててね。今日はあの人の分まで楽しんでやろうね!!」
暫くすると真希子が揚げ物を揚げる音と王麗が鍋を振る音が聞こえて来た、因みにクリスマスにも関わらず店主の龍太郎は競艇の場外発券場で遊んでいるらしい。
それから十数分程経っただろうか、ある事を心配する真希子の声が。
真希子(当時)「あんた、これ入れるのかい?利益度外視じゃないか!!」
王麗(当時)「良いんだよ、どうせあの人が負けて帰って来るだろうし、お祝いだからね。」
王麗が大皿の周囲にレタスを敷き詰めると真希子がその上に出来立ての揚げ物を乗せた、真ん中のほぼ下部に炒飯を丸く盛るとまた王麗は中華鍋を振り始めた。炒めた具材に大抵の子供達が好きな調味料をたっぷり加えた後にまたご飯を加えて炒め、今度は大皿の真ん中の上部に三角形に盛り付けた。甘酸っぱい匂いが店中に広がる中、その先に小さく炒飯を盛り、下部に盛った炒飯に蟹や卵白を使った餡をかけて出来上がり。
2人は使った調理器具を手早く片付けると大皿を協力して運んだ。
王麗・真希子(当時)「ほら、お待たせ!!2人共、パーティーを始めるよ!!」
守・美麗(当時)「あ、サンタさんだ!!」
そう、王麗はチキンライスと餡掛け炒飯をサンタクロースの顔に模して盛り付けるという演出を子供達の為に瞬時に思いついたのだ。
子供達の為に粋な演出をした女将。




