⑤
未だ悲しみが抜けきれない守、当然の事だ。
-⑤ 作戦開始-
結愛が作戦開始に向けた発言をした中、守は未だに1人表情を曇らせていた。まるで心に大きな穴が開いた様な様子、葬儀から数日経過したがきっとまだ好美を失ったショックを忘れる事が出来ていないのだろう。ただ結愛達は当然の事かと黙認していた。
島木「まだ辛く感じるのは当然ですよね、私で良かったらご協力をさせてください。」
そんな中、話し合いの場として使われていた喫茶店のアルバイトとして働く女の子が近づいて来た。
女の子「失礼します、これ良かったら・・・。」
女の子は守の前にクリームたっぷりの特製カスタードプリンを1皿置いた。
守「あの・・・、頼んでませんけど。」
守の言葉を聞いた聡が即座に口を挟んだ。
聡「おいおい、お前勝手に何やってんだよ。」
女の子「放っとけなくて、お代は私が出しますから。甘い物食べたら少しは元気出るかなと思いまして。」
守「えっと・・・、折角なので頂きます・・・。」
守は出されたプリンを1口、そしてゆっくりと咀嚼した。
守「うっ・・・、くっ・・・。」
守はまた大粒の涙を流した。
島木「守さん、どうしたんですか?」
守「すみません、好美がお菓子作りが得意だったことを思い出しまして。特にプリンは本当に美味しかったんです。」
プリンを持って来た女の子は少し罪悪感を感じていた、自らが持って来たプリンにより目の前の客を号泣させてしまったからだ。しかし次の瞬間、守が発した言葉にホッとした。
守「ありがとう、嬉しかったよ。でもいいの?お金、払うよ?」
女の子「良いんです、奢らせて下さい。私が望んでした事なので、それより大丈夫ですか?」
守「うん、なんとか落ち着いたよ。またお店来るね。」
守はそう答えると作戦開始に向けて動き出した、結愛の指示を受けた黒服長の羽田から紙袋を受け取ると首を傾げて尋ねた。
守「おい結愛、これ何だよ。」
結愛「お前には光明と一緒に貝塚技巧に潜入してもらう、お前が工場長の目を逸らしている間に光明が隠しカメラを仕掛けるって作戦だ。昔やっただろ。」
守「そんな事もあったかな・・・、いや無かった様な気もするけど。正直言って昔過ぎて覚えてねぇよ。いやでも待て・・・、確かあん時は深夜に仕掛けた隠しカメラと小型のドローンを使って無かったか?」
結愛「まぁ・・・、俺も記憶がうやむやだから仕方ねぇか。」
桃「あんた達、どういう過去を持ってんのよ。」
守「正にも聞いてみろよ、アイツも同じ経験をしているからな。」
結愛「おい、ちょっと待てよ、正って誰だよ。」
守「同じクラスだった橘だよ、橘 正。ここにいる桃ちゃんはアイツの彼女なんだ。」
下の名前を憶えられていない正って一体・・・。
数日後、結愛と島木の許可が下りた上での潜入作戦が始まった。最初は貝塚技巧の出入口で工場長に会う事だった。
島木「工場長、本日工場見学に来た五味光明さんと久石 守さんです。」
光明・守「宜しくお願いします。」
工場長「工場長の我原 悟です、今日はじっくり見て楽しく勉強して行って下さいね。」
偽名を使っているとはいえ、親会社の副社長の顔を覚えていない工場長。そこからも仕事に対する怠惰な考えが見て取れる。
島木「では五味さんは私と、そして久石さんは工場長と見学して行って下さい。」
悟「では久石さん、こちらへどうぞ。」
潜入開始・・・。