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死者とはバレたくなくて必死の結愛
-㉞ 店主としての対応-
高校生の頃から通っている松龍という身近な場所に自分が死者である事を知っている人間がいる事を知った結愛は驚きを隠せなかったが、自らの事情を悟られない様にする為に何とか平静を保とうとしながら席に戻って行った。
しかし、何処か浮かない表情をする友人を守は見逃さなかった。
守「おい結愛、何かあったのか?」
結愛「ちょっとな・・・、最近経営の事で頭を痛めててよ、龍さんに相談してたんだ。」
なんとか誤魔化そうとする結愛の言葉を調理場から聞いた龍太郎は目の前の死者に話を合わせた。
龍太郎「でもよ、俺の言葉なんざ参考にならんだろう。第一扱ってる金額の桁が違うからな。俺みたいな小さな店の店主の言葉を聞いても仕方ないはずだぞ。」
結愛「いやそんな事ねぇよ、話聞いて貰えて嬉しいぜ。」
守「でもよ、さっき呼んだのは龍さんの方からだっただろ?話があったのは龍さんの方だったんじゃないのか?」
結愛「見透かされてたって言えば良いのかな、俺が無理して笑ってたのがバレたみてぇだ。」
そんな中、店主兼警視総監は先程まで結愛が食べていた定食を眺めて言った。
龍太郎「それすっかり冷めちゃったな、温めなおしてやるよ。」
結愛「良いよ、もうちょっとだけだし。」
龍太郎「俺が呼び出したから冷めちゃった訳だからな、やらせてくれ。」
龍太郎はそう告げると結愛の定食を手に調理場に入り冷めた油淋鶏をオーブントースターに入れた。温めなおしに決して電子レンジを使わないのは店主の拘りらしい。
次に龍太郎は冷めて少し硬くなった白飯を熱した中華鍋に入れて卵と炒め始めた、塩胡椒と醤油で味を調えて簡単な卵炒飯に変身させた。
出来上がりと同時にオーブントースターの音が鳴った、丁度いいタイミングだ。
龍太郎「ほらよ、食ってくれ。」
店主は出来たばかりの卵炒飯を先に渡した、結愛が熱々の炒飯に食らいついていると龍太郎が温かくなった油淋鶏を手にやって来た。ただ逆の手には小さな容器、よく見ると中にはタルタルソースが入っていた。
結愛「何だよ、これ。」
龍太郎「味変だ、チキン南蛮みたいに食ってみてくれ。」
結愛が言われた通りタルタルソースをつけて食べ、その味を噛みしめていると龍太郎の携帯が鳴った。画面に映っていたのは「姪家慎吾」の名前。
龍太郎「めっちゃんじゃないか、どうしたんだよ。」
慎吾「警視総監、今お時間よろしいですか?」
結愛のいるカウンターにタルタルソースと油淋鶏を持って行ったタイミングで餡掛け焼きそばの追加注文が入ったので中華鍋を熱しようとしていた龍太郎。
龍太郎「すまん、今調理中なんだ。俺から掛けなおすから後にして貰えるか?」
慎吾(電話)「分かりました、お客様第一ですもんね。」
電話を切ってから数分後、カリカリに揚げ焼きした中華麺に水溶き片栗粉でとろみをつけた熱々の餡をかけると客の元へと急いで持って行った。
龍太郎「すいません、お待たせしました。餡掛け焼きそばね。」
客「これこれ、ここの餡掛け焼きそば美味いんだよ。名物と言っても過言でなくてさ。」
龍太郎「嬉しいね、どんどん食ってくれ。」
そう言うと店主は裏庭に向かい煙草を燻らせながら慎吾に電話を掛けた。
龍太郎「めっちゃんすまんな、今日はどうした。」
署長室の外に出ていたので普段通りの対応をする慎吾。
慎吾(電話)「ああ龍さん、また弁当頼みたいんだけど。」
龍太郎「そんな事か、いつでも良いぜ。」
慎吾(電話)「ちょっと待って、今署長室入るからね・・・。」
龍太郎「・・・で、何弁当だ?唐揚げか?」
慎吾(電話)「警視総監、やはり我々の読み通りでしたよ。入金があった日は・・・。」
どうして、「入金」は行われたのだろうか




