㉗
少し気まずい雰囲気になった様だ。
-㉗ 一歩を踏み出す-
少し浮かない表情を見せる守の様子を見て自らの言動に気掛かりな事があったのではないかと懸念し始めた真美は一息ついてから守に声を掛けた。
真美「真美、何かまずい事言っちゃった?」
自分の事を名前で呼称するのも姉の真帆と変わらない、これも一卵性双生児だからだろうか(※因みに作者は二卵性双生児です)。
守「いや、そんな事無いよ。ちょっと死んだ昔の彼女の事を思い出しただけさ。」
真帆「また思い出してんの?いい加減にしろ、守!!」
顔を赤くした真帆は酔った勢いで守に怒鳴りつけた、いつも付けている「兄ちゃん」を忘れる位だから相当だ。
真美「お姉ちゃん、呑み過ぎだから!!守兄ちゃん、本当にごめんね。」
守「大丈夫だよ、圭にも言われたから。」
真帆「目の前にいる可愛い女の子がずっと大好きだって言ってんのに、ずっと過去の恋愛を引きずってるからってその気持ちに応えないなんてどうかと思うけどね!!」
真美「お姉ちゃん、家に入ってよ。近所迷惑になるじゃん。」
真帆「真美は黙っててよ!!」
悪くないはずなのに怒鳴りつけられた真美は泣きながら家の中に駆けこんでしまった。
真帆「あのね、守兄ちゃんがどれだけその人を想っててもその人とはもう会えないの!!会えない人の事を想っても付き合えないの、だったら今すぐにでも会える人と新しい一歩を踏み出そうって思わない訳?!」
守「でも俺・・・。」
真帆「でもじゃない!!いい加減にしてよ、ずっと真帆が「大好き」って言ってんのにあやふやにして返事くれて無いじゃん、それに何年守兄ちゃんの事探したと思ってんの?」
確かにそうだ、真帆が守を探し続けた約10年は決して短いとは言えない。
守「それは本当に申し訳ないと思ってる、ただ今は死んだ好美の無念を晴らす事を優先させたいんだ。俺は貝塚技巧の工場長を許すつもりはない、好美を殺したあいつを・・・。」
すると泣いて家に入って来た真美を見て玄関前の様子を見に来た圭が守に声を掛けた、どうやら真帆と真美の両親と晩酌をしていて少し出来上がっているらしい。
圭「守、その間も真帆ちゃんに待たせるつもりなの?さっきから聞いてたけど私も真帆ちゃんがさっき言ってた事は正しいと思うよ。」
圭はビンタをしなかったが、守はされた時の様に何処かに痛みを感じた。きっと「心」だろう、それが故に泣き崩れてしまった。
圭「あんたが泣いてどうすんの、それが真帆ちゃんへの答えな訳?」
何処か冷たい言葉を投げかける圭、あの日駅で密かに告白したのと同一人物とはとても思えない。今の守の事は好きになれないのだろう。
圭「答えてあげなよ、真帆ちゃんはあんたの事だけを一途に想って探していたんだよ。」
守「真帆・・・、ちゃん・・・、ありがとう・・・。」
泣き崩れる守の目の前にしゃがみ込んで頭を優しく撫でながら囁いた、真帆の言葉とそれに対する守の答えを決して聞きたくなかった圭は急いで家の中に逃げ込んだ。中から聞こえて来る声から様子を伺うと、真美が中で呑みまくっているらしく、一緒に呑む事にした様だ。
真帆「一回だけ言うよ、守兄ちゃん。大好きです・・・、一人の女として守兄ちゃん、いや守の力になりたいです。ずっとこの瞬間を待ってた真帆と・・・、付き合って下さい・・・。」
涙を流しながら守は答えた、玄関からこぼれる電灯の光が優しく2人を包んでいた。
守「待たせて悪かった、本当にありがとう。圭や真帆ちゃんの言う通りだ、新たな一歩を踏み出さないといけない。前に進ませて下さい、宜しくお願いします。」
2人は感動の涙を流しながら唇を重ねた、結構な時間の間ずっと・・・。圭がその様子を遠くから眺めていた。
圭「待たせすぎだよ、守。真帆ちゃん、良かったね。私も・・・、一歩踏み出さないとね。」
圭に感謝し、真帆に感謝し、そして好美に感謝して一歩を踏み出した守。




