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夜勤族の妄想物語3 -6.あの日の僕ら2~涙がくれたもの~-  作者: 佐行 院


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龍太郎は捜査の事で頭が一杯だった。


-㉔ 先輩と後輩-


 夫婦は貝塚技巧から来た2人の客の言葉を一言も聞き逃すまいと全神経の7割以上をイヤホンを付けた右耳に集中させていた、目の前のカウンターで晩酌をしている客の言葉を聞く逃す位だ。


カウンター客「龍さん、そろそろお愛想して。龍さん?龍さん、聞いてる?」

龍太郎「ああ、悪い。注文か?」

カウンター客「頼むよ、ずっとイヤホンで何聞いている訳?」


 王麗は龍太郎が嘘が苦手だったことをつい先ほど思い出した。


龍太郎「ボートの実況を聞いててな、若松の⑫レースが荒れると思って買ったんだよ。」

カウンター客「どれどれ・・・、俺も見てみようかな。」


 まずいと思った王麗は急いで助け舟を出した、今夜若松ではレースは行われていない。


王麗「父ちゃん何言ってんだい、今日買ったのは蒲郡だろう。自分で買った舟券も忘れちまったのかい?」

龍太郎「そうだった、色々と買ったから忘れてたよ。」

王麗「忘れる位って事はあんた買い過ぎなんだよ、それで負けたらどうするつもりだい?」


 カウンターの客は携帯を取り出して蒲郡競艇のホームページをチェックした、どうやら⑫レースは1番人気で終わりそうな模様だ。


挿絵(By みてみん)


カウンター客「龍さん、何を買ったんだよ。ベタじゃないか、勿体ない事をしたな。」

龍太郎「くそぉ・・・、1万やられたわ・・・。」

カウンター客「取り敢えずお愛想して。」

龍太郎「そうか、ビールと唐揚げと・・・、フカヒレね。えっと・・・、5千・・・。」

王麗「父ちゃん、うちにそんな高級なもんいつ入荷したんだい。唐揚げと瓶ビールでしょ。」


 龍太郎と王麗の会話は勿論嘘だ、捜査と店が忙しすぎて今日は舟券など買えてはいない。王麗は思い出したかのように例の座敷席へと瓶ビールを持って行った。


王麗「お待たせしました、瓶ビール2本ね。」

客①「女将さん、ありがとうね。」

王麗「あらあんた、ヤケに嬉しそうな顔をしているじゃないか。」

客①「聞いてくれる?今日俺の誕生日なんだよ、それでコイツが酒奢ってくれるって言うから来た訳。良い奴だろ、泣かせてくれるよな。」

客②「いやいや、世話になっている先輩に感謝したいだけっすよ。」


 どうやらこの2人は貝塚技巧で働く先輩と後輩の関係らしい、良い機会だと思った王麗はこの誕生日を利用する事にした。


王麗「そうかい、じゃあ私からのお祝いと言っちゃなんだけど注がせて貰えるかい?」

先輩「ありがとう、嬉しいよ。」


 王麗は先輩のグラスにビールを並々と注ぎながら切り出した。


王麗「それにしてもあんた達の会社大変なんだってね、大丈夫なのかい?」

先輩「そうなんだよ、トラックが消えたり人が死んだりしてんのに次の日から普通に仕事しているなんてありえないと思うんだけどな。それにさ、未だにトラックも戻ってきてないから色々と不便なんだよ。」

王麗「そうかい・・・。まぁ、今日は折角の誕生日だから嫌な事忘れて呑んでおくれ。」


 王麗がその場から離れると先輩が夫妻が待っていた言葉を放った、どうやら隠しマイクと誘導が功を奏した様だ。


先輩「そう言えば女将さんの言葉で思い出したんだけどさ、お前聞いたか?消えたトラックの被害総額。」

後輩「いや、俺は聞いてないっすね。確か14台だったんでしょ?」

先輩「うん、14台で7000万らしいぜ。」

後輩「そうなんすか?あのトラック、思ったより安いっすね。」

先輩「工場長がケチだからな、備品もとにかく安い物ばっかりで揃えているだろ?それが何よりの証拠だよ、怪我なんて日常茶飯事なのに絆創膏も無いなんて有り得ないよな。」


 先輩のある言葉に夫婦は反応した。


夫婦「7000万・・・、やはり工場長も・・・。」


 やはり、夫婦の予見通り工場長には裏事情があるらしい。


トラックはどうして消えたのだろうか。

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